能力の進化
「――――? ――――……」
俺は奴隷になったらしい。それに、魔法的な能力なのかこのエルフに絶対服従なんだとか。
そんな絶望的状況でも、俺が言葉を理解できないということに変化はない。ハイエルフが何やら話しかけてくるが、何を言っているのかわからないため返事もろくにできない。俺が言っていることも、伝わらないだろうし。ここで機嫌を損ねて殺されたら終わりなのだが、俺にはどうしようもない。
俺に話しかけて、俺が全く反応しないどころか顔を蒼白に染める俺を不審に思ったのか、覗き込むようにして顔を近づけてくる。
どうせなら、と思って改めてリリアという名のハイエルフの観察をしてみる。
つやのある金髪を背中の半ば程まで伸ばし、白く綺麗で細い健康的な足、そしてエルフの象徴たる長い耳。
目鼻立ちは整っており、うちの妹より可愛くはないが美人ではあると思う。
極めつけは青色に輝く瞳。吸い込まれそうな魅力と輝き、美しさを併せ持ち、宝石が埋まっていると言われても疑わないくらいだろう。
で、そんなハイエルフさんはどうして俺をのぞき込んで――
《報告:森羅万象の熟練度が一定に達しました。森羅万象の副権能が開花。副権能:魔力感知が発動します》
ん?
《報告:『森羅万象』の副権能:『魔力感知』により、『ステータス看破』の使用を感知。妨害に失敗しました。使用者は個体名リリア。ステータス看破の効果により個体名司のステータス情報は看破されました》
え、えっと……どゆこと?
《個体名リリアの使用した『ステータス看破』を『魔力感知』にて察知、抵抗を試みましたが個体名司の能力値では叶わず、ステータスを看破されました》
そ、それは分かった。だけど、そもそもどうして森羅万象の副権能が使えるようになったんだ?
《『森羅万象』の熟練度が一定に達しました》
じゅ、熟練度? い、いやいや、さすがに嘘でしょ。使い始めて半日もたってないよ?
《個体名司の固有権能:『能力使い』により、開花に必要な熟練度に達しました》
固有権能? 俺にそんなものはなかったと思うが……
《個体名司:一般人。固有権能:能力使い》
《能力使い:スキルのレベルアップ、能力開花及び進化に必要な熟練度が大幅に下がる》
えっ……ああ!? 名前が称号のようなものって、そういうことだったのか! なるほど、まんま称号なのね……。俺が調べようとしてなかったからわからなかっただけで……。
ん? じゃあ、このリリアって名前は?
《個体名リリア:エルフの女王。固有権能:植物図鑑》
《植物図鑑:植物に関するあらゆる情報を検索できる》
うーん、固有権能についてはそこまでか? 森羅万象の劣化みたいなものだろうし。
《その認識は間違っています。『森羅万象』では個体別の検索ができませんが、『植物図鑑』では個体別の検索が可能です。また、植物の調合、加工、食用か否かなどの確認も行えます》
な、なるほど……森の管理者という称号があるぐらい出しな。エルフは確かに森に棲んでいるイメージがあるし、エルフの女王が持つにふさわしい能力なのかもしれない。
そういえば、能力使いの権能って何気に優秀じゃなかったか? スキルのレベルアップが早まるのはそれイコール成長速度が上がると言っても過言ではないはず。
そう考えればかなり使える権能だろう。
「――――……」
そんなことを考えていると、リリアが再び話しかけてきた。無駄だと言っているだろうに。どうせ俺には意味が理解できないし、どうすることも――
「―――、
ほら、やっぱり理解できな……あれ? 今、理解できたのでは? 明らかについてきてって言われた。どういうことだ?
《報告:『魔力感知』にて『制約・奴隷』の効力の一つ、『絶対服従』の発動を感知。上位者からの命令、付き従えを受理、翻訳しました》
ええっ!? そんなことできるのか? というか、付き従えをついてきてに変換ってかなり無理ないか?
《否。個体名リリアはついてきてという意志を込めて『絶対服従』を発動。しかし命令への変換時に模範的命令例、付き従えに変換され、それを再度変換し、翻訳しました》
な、なるほど……明らかに無駄な工程があったってわけね。でも、どうして翻訳ができるんだ? 俺は言語が理解できなはいはずだが。
もしかして、森羅万象の能力を使えば意思疎通が取れるとか?
《否。魔力を込めた『絶対服従』の命令を『魔力感知』で察知することは可能。しかし『意思疎通』による言語は空気を振動させ『意思疎通』保持者にのみ理解できる音波を発することで意思を伝えている。よって、この世界の言語とは言語ではなく暗号なのです》
で、その暗号を解くことは森羅万象でも不可能、と。それは無理なわけだ。で? 俺は絶対服従でついてきて、と言われたわけだ。
リリアが俺に背を向けて歩き出すと、俺の体も俺の意思に関係なく動き出した。ああ、体が支配されてる。これが奴隷か。なんて思いながらリリアについてパーティー会場を出る。
どうやらリリアはこれ以上ここに用がないようだ。そしてそのまま城を出て、付近の森まで連れていかれた。いや、どこまで歩かされるんだ?
「――――、
今度は何だ? またなんだか理解できる言葉が出てきたぞ? まあ、単語が理解できるだけで意味は分からない。何かの呪文のようにも聞こえたが……。
《報告:魔力感知の熟練度が一定に達しました。森羅万象の副権能:魔力感知がスキル魔力感知Ⅱへと進化しました》
《魔力感知:魔力の使用を察知、解析、報告する。森羅万象獲得者にのみ扱える》
《『魔力感知Ⅱ』が発動します》
《報告:『魔力感知Ⅱ』により個体名リリアにより魔法の発動を感知。『魔術・自然Ⅱ』の獲得で使用可能な魔法、『リーフ・ワイド・ムーブ』と予測します》
あ、ああ? あの、そんな詰め込まれても何が何だか――
《報告:『リーフ・ワイド・ムーブ》により転移が開始します》
――えっ、あの……
一瞬、リリアの手のひらから光がこぼれた。その光はすぐに俺の視界を覆いつくし、そしてその光が消えた時には、俺は森の中にいた。辺りを見渡す。上に数十メートル延びた木々が無数に生えている。
俺は、つい先ほどまで森の入り口にいたはずだ。それなのに、いつの間にこんな森の中心部に? さっき森羅万象が言っていた転移ってやつか?
《リーフ・ワイド・ムーブ:植物支配による魔力回路接続、位置情報把握により転移を行う》
いや、仕組みを言われてもだな……。もう少し詳しい説明を頼む。
《転移とは空間を断絶して行う移動法。魔力を大量に消費する代わりに長距離を一瞬で移動可能。正確な位置情報の把握と移動先への魔力回路の接続成立で使用可能となる》
な、なるほど? つまり、自分が持っている魔力がつながっている場所に自由自在に瞬間移動ができるってことだな?
《その認識で合っています》
よし、理解できた。つまり、俺には無理ってことだ。まあ、期待はしていなかったが。
少し肩を落としていると、リリアがこちらに駆け寄ってきた。
「
《報告:『魔力――
あ、いいよ。理解できることの報告は。悪いけど。
――了解しました》
俺はまた、エルフについて行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます