その、マジですか?

「――――」


 俺に向かって何かを叫んでいるオークという種族のもの。


「――――」


 興味深そうに頷きながら、恐らく俺の説明をしている鬼人の話を聞くドワーフ。


「――――」

「――――」

「――――」


 俺など興味なさそうにがやがやと騒いでいる魚人や狼人や鳥人。


 俺は、それらの亜人や獣人たちをステージの上から眺めていた。

 手錠のようなものをつけられて、立たされていた。


 鬼人に連れられて入ったのは大きな西洋のものに似たお城。

 それなりに古そうだが、作りはしっかりしており崩れる気配ない。決して危険な場所ではなさそうで、それに中は小奇麗だった。

 それこそ貴族とかが住んでいそうな感じ。まあ、貴族なんて会ったこともないのだが。

 そして城に入れられて、廊下を進んで、広間のような場所に出た。

 そこではパーティーのようなものが行われており、かなりの数と種類の亜人と獣人がいた。

 きっと、亜人や獣人の集まりでも行われているのだろう。つまり、城の主も亜人か獣人というわけだ。

 だからこの城には俺みたいな人間はいないのだろう。興味深そうに、もしくは珍しそうに俺を見つめるたくさんの目にさらされた。

 その後はステージに運ばれて、鬼人が何やら皆に声をかけた後、会場が盛り上がり、今に至る。


 何があるのかはわからないが、値踏みするような視線を向けてきたり、鬼人に何かを聞いてみたり、時には手をあげてみたり。

 セリでも行っているのか、という感じだが、実際オークション的なものだと思う。

 つまり、俺は売り物になっているということだ。それを理解した瞬間こぼしたつぶやきは


「その、マジですか?」


 驚きのあまり声が漏れたね。まあ、誰にも伝わらないのだが。

 しかしそんなことを言っている暇はない。このままでは最悪買われる。

 奴隷になるとかそんなことは嫌だ。拒否権もないだろうから、もうどうしようもないのだが。

 諦めて買われておくか? 奴隷ならそう簡単に殺されたりは……しないよな?

 頑張って働いていれば、許されるはず。とにかく、今できることは少なすぎるから周りに流されておくしかないよな。


「――――」


 そして、ついに俺を買うものが現れたのか一人の金髪の女性が鬼人に歩み寄った。

 金髪ロング、それに巨乳だ。いや、こんな情報はいらないか。


 取りあえずステータス看破を使ってみる。


種族:亜人・ハイエルフ

名前:リリア

生命力:689/689 攻撃力:89 防御力:231 魔力:1273/1438

状態:正常

スキル:ステータス看破、森羅万象、魔術・自然Ⅶ、魔術・治癒Ⅸ、自然治癒Ⅴ、魔力自動回復Ⅶ、魔法耐性Ⅴ、物理攻撃耐性Ⅵ、精神攻撃耐性Ⅷ、状態異常耐性Ⅳ、即死無効、鑑定眼

権利:基本的生物権、植物支配権、世界の書閲覧の権利、魔術使用の権利、自己回復の権利、自己防衛の権利、見通す権利

称号:森の管理者、風の操り人、大魔術師


 はーい、化け物来ました。まずもって基礎ステータス。鬼人を余裕で越える上に魔力に関しては四桁とかなにこれチートじゃん。

 それにスキルの数が尋常じゃない。権利の数もすごいし、称号なんて新しい欄も生まれている。


 一つずつ森羅万象で確認するか。


《魔術・自然:魔術・水Ⅹ、魔術・風Ⅹ、魔術・土Ⅹ・魔術・火Ⅹを獲得した者に与えられる。四属性の魔法を自在に操る。副権能:四属性の合成魔法を操れる》

《魔術・治癒:魔法・回復Ⅹを獲得したものに与えられる。スキルのレベルによっては部位欠損すら修復する。副権能:疲労回復》

《自然治癒:自然回復Ⅹを獲得したものに与えらえる。毎秒レベル×7ずつ生命力を回復する。副権能:外傷の自然回復》

《魔力自動回復:毎秒レベル×5ずつ魔力を回復する》

《魔法耐性:魔法の威力を軽減する。レベルが高ければ高いほど威力軽減の効果が強い》

《物理攻撃耐性:物理攻撃の威力を軽減する。レベルが高ければ高いほど威力軽減の効果が強い》

《精神攻撃耐性:精神攻撃に対する抵抗力をあげる。レベルが高ければ高いほど抵抗力が上がる》

《即死無効:即死属性の攻撃を無効化する。副権能:残りの生命力を一撃で0以下にする攻撃を受けた時、生命力を1残す》

《鑑定眼:品質、価値、性能などを見通す》


 正真正銘のチートモンスターだった。ダメージをほとんど受けない上に回復能力が異常だ。こんな敵キャラが現れたら間違いなく負けイベントだ。


《基本的生物権:この世に生まれたすべての生物に与えられる権利。生存権。付属スキル:意思疎通。副権能:スキルレベリング》

《植物支配権:植物に対する支配権を有する。副権能:自然属性の効力上昇》

《世界の書閲覧の権利:世界の書を観閲できる。付属スキル:森羅万象》

《魔術使用の権利:魔術を使用できる。副権能:魔術習得》

《自己回復の権利:傷、疲労、魔力の回復を行える。付属スキル:自己回復、魔力自動回復》

《自己防衛の権利:攻撃に対する自己防衛権。付属スキル:物理攻撃耐性、精神攻撃耐性、魔法耐性、即死耐性》

《見通す権利:相手を見通る眼を使用できる。付属スキル:ステータス看破、鑑定眼》


 本当に何なんだろうこの生き物は。強すぎじゃないですかね? それに、基本的生物権に鬼人が持っていなかった副権能がついている。


《スキルレベリング:スキルの使用により熟練度が上がると、スキルのレベルが上がる。スキルの進化が可能になる》


 つまり、権利の付属スキルの上位互換のスキルをこのリリアってエルフが持っているのはこれのおかげってことか。

 じゃあ、次は称号だな。ここまで来たらもう驚かないからな。


《森の管理者:植物支配権を獲得したものに与えられる。権能:自然属性の効力を上昇させる》

《風の操り人:風属性の魔法をすべて使いこなしたものに与えれる。権能:風属性の魔法の威力を大幅に上昇させる》

《大魔術師:魔術のレベルを四種類以上ⅹにしたものに与えれる。権能:魔法の威力を上昇させる。副権能:魔力操作》


 ……これ、魔術・自然で風属性の攻撃を使った時の威力がえげつないのでは? すべての称号が魔術・風に対するバフ効果を発揮するわけで。


《すべての称号の効力上昇の効果を数値化すると、通常威力の約三倍でしょう》


 はい、チート。こんな奴誰も勝てないぞ。いや、この世界の生き物の強さの基準は分からないけど。

 少なくともこの部屋にいる俺がステータス看破を使った相手の中ではダントツだ。しかも、名前を持っている。これもまた初めてだ。


《この世界の生き物にとって名前とは、自らの権威を示す称号のようなもの。あるなしで個体差が生まれるのは必然と言えます》


 つまり、昔の日本で言うところの征夷大将軍的な肩書ってことだろうか。……そりゃ強いわけだ。


《個体名リリア:リリアとは代々ハイエルフの女王に与えられる名前。現在の個体名リリアは四代目》


 へー、そんなこともわかるのか――


「その、マジですか?」


 ハイエルフの、女王、だと? もしかすると、とんでもない人に目をつけられたのかもしれない。


「――――」


 俺が呆然としていると、鬼人が何やら話しかけてきた。相変わらず何を言っているのかわからないが、手に掴む巻物をこちらに向けてきていることから、これを持て、と言っているのだと予想する。

 俺が腕を伸ばしてそれを掴むと満足そうに頷いたので正解だったのだろう。

 そして俺から距離をとると、俺の前のリリアという名のハイエルフを案内した。やはり、俺は彼女に買われたのだろうか。


 そう思っていると、突如渡された巻物が青いチリとなって消えた。何事だ? と驚いていると、頭の中に電子音が響いた。


《報告:状態が制約・奴隷に変更されました》


 ん?


《制約・奴隷:制約上位者からの行動制限。制約上位者からの命令に対する絶対服従》


 ……は?


「その、マジですか?」

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