第一章
ええっと、どうしてこうなった?
頭が、痛い。今まで体験したことがないくらい激しい頭痛だ。
それに、背中が痛い。俺はどこで寝てるんだ。布団もかけずに寝たから風邪でも引いたのか? だったら黒江に言わねば。今日は学校サボる気満々だったからいいが、教師にも連絡しなければ……。
そう思って、体を起こす。地面についた手から感じるのは、草の感触。芝などの整備されたものではなく、背が短い草で成っている草原のような――。
流石に違和感を覚えて、目を開く。
「眩しっ」
僅かに開けた瞼の隙間から光が差し込んできた。これ、明らかに外にいるな。そんなところで寝た記憶はないのだが。もしかしてついに妹に捨てられたか? 可能性はあるな。
左手で光を遮りながら、少しずつ目を開いていく。だんだんと光にも慣れてきて、足元の草の緑色を確認できるようになり、あたりを見渡す。
一面の、草景色だった。マジ草なんだけど。
「ほんと草」
草、草、草。一面の、草。まあいわゆる草原である。あー、どうしてこうなった? 俺は昨日寝てから何をしていたんだ? どうしたらこんな広大な草原の真ん中で朝を迎えることになる?
これはさすがに妹に捨てられた可能性はなしだな。
手持ちはない。何もない。唯一の所持品は服だけ。しかも一着。これでどうしろと?
普段着だから何もできないぞ?
改めてあたりを見渡す。何もない、草原。そして澄み渡る空。雲一つない。あとは真上くらいに光輝く太陽が一つと、方角的にはその反対側くらいに薄く光る月、が二つ。……ん?
太陽が、真上にあるってことは南中してて、つまり南で、その反対? 北に、月は登るんだっけ?
あれ? というか、二つ? 大きさが違う月が、それなりの距離を開けて二つ並んでいた。
赤っぽいのと、碧っぽいの。惑星の輝きの色は星の表面の色でも変わるとかなんとか聞いたことがあるような気がしなくもないんだが、太陽の惑星に赤はともかく碧なんてあったか? そもそも、黄道を通っていない惑星があっていいのか?
地球の衛星である月だって、黄道に平行に公転しているはずだ。北に見えるわけがない。
急に去年中三で習った宇宙の知識を語りだしたが、これで俺が陥っている状況がおかしいと理解できた。
「ええっと、どうしてこうなった?」
明らかに地球ではない惑星にいることになる。宇宙旅行って実現されたんだな、とか、地球以外にも大気がある惑星が見つかったんだ、とか現実逃避の方法は色々あるがやめておこう。虚しくなるだけだ。
うん、どうしてこうなった?
俺には同じ問いを頭の中で繰り返すしかできることがなかった。
もう気が動転して、何をすればいいのかわからない。むしろ、何ができるというのだろうか。
「もういっそのことステータス表でも表示してくれ、頼むから」
それがあればまだましだ。多分。現状確認ができるなら何でも歓迎だ。
そう思って軽い気持ちで発言しただけなのだが。
視界の端に、薄く光る板のようなものが表示された。
「ん? なんだこれ」
それは空中に浮かび上がったのではなく、俺の視界の端に固定で浮かんでいる。ゲームでロゴが浮かんでいるような感じだろう。いくら違う方向を向いても付きまとってくる。
なるほど、ステータス表か。
「はあ!? なんだこれ!?」
いや、自分で言った。言ったが、違うだろ。どうしてこんな、こんな!? どうしてこうなった!?
視界の端に青く淡く光る板には、このような文字が刻まれていた。
種族:人類・人間
名前:司
生命力:19/19 攻撃力:12 防御力:9 魔力:13/13
状態:正常
スキル:ステータス看破、森羅万象
権利:生きようとする権利
確かに、まんまステータスだった。高いのか低いのかわからないが、少なくとも高くはないだろう。
二桁で高かったらみんな小数点以下になる。だったら整数で表記しろという話になるだろう。
ステータスをだれが決めているのかは知らないが。
俺が今ステータスを見れているのはステータス看破というスキルのおかげだろう。
どうしてこのようなものが使えるのかはわからないが、まあもらえるものはもらう主義なので文句は言うまい。それに、文句を言う相手もいないしな。
あともう一つのスキルは森羅万象とかいうものだ。どういう能力なのだろうか。
《森羅万象:種族、スキル、権利についての記された世界の書を覗ける。その説明を受けられる》
「うわ!?」
今、頭の中で電子音みたいなのが響いた……。な、なんだったんだ?
だが、森羅万象についての説明だった、と思う。俺の耳を信じるのなら、多分。
試しに、ステータス看破について調べてみようと思う。
「……どうするんだ?」
調べてみる、といってもどうするのだろうか。念じる、とか?
《ステータス看破:対象を選んでステータスの表示を行う》
お、おお……。まんまだ。だが、一つだけ有益な情報を手に入れたではないか。
対象を選べる、ということは自分自身でなくてもいいということだ。敵みたいなやつが現れても情報が手に入るということだろう。
というか、ステータスだとかファンタジー要素てんこ盛りだったからファンタジー世界だと思っているが、どうなんだろうか。月が二つあったりする時点で俺が生まれ育った星ではない。
だが、まず俺が生まれた世界ですらない可能性がある。いや、そうだと思っていた。
一応、そうでない可能性も視野に入れておこうと思う。入れたところでどうにもできないが。
《人類:この世界に存在する生き物の代表格。獣人、亜人、人間などが含まれる》
はい、多分異世界確定です。獣人? 亜人? もうどう考えてもファンタジー要素。どうせ魔法も使えるんでしょう? だって俺のステータスに魔力って欄があるもの。
俺はその手の書物やアニメはたまに見る程度だが、かなり印象深い。
冒険者とか、勇者とか魔王とかでしょ? 俺知ってるんだぜ? どうでもいいな。
《人間:人類の中で最も数の多い種族。高い知能を持ち、文明を築く》
《獣人:人間よりも基礎身体能力がかなり高い種族。繁殖能力が低く、数が少ない》
《亜人:人間よりも長命で、魔法の扱いに長けている。長命なため、数が少ない》
魔法、あるようです。どんどんと異世界である可能性が高くなっていく。というか確実だろう。
《生きようとする権利:生きることを望んでよい。――
……ん? どゆこと?
――付属スキル:ステータス看破、森羅万象》
いや、それはいいんだが。生きることを望んでよい? なに? この権利がないと生きることを望んじゃいけないのか? それは可哀想すぎるのだが?
《類似する権利:基本的生物権》
ん? なんだそれ。
《基本的生物権:この世に生まれたすべての生物に与えられる権利。生存権。付属スキル:意思疎通》
あ、すべての生き物に生存権が与えられているそうです。みんなよかったね。
そして、付属スキルの欄、意思疎通。
《意思疎通:言語による意思疎通を可能とする》
あ、あー、あの……これがないと他の生物と会話できなかったり、しますか?
《します》
グー〇ル先生のように俺の問いに答えてくれた電子音のようなものは、俺に絶望をもたらした。
まじ、か……。
《マジです》
ええっと、どうしてこうなった?
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