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 オレは女に精を放ち、イカせた。たしか美春だか、春美だかいう名前だったと思う。

 シャッター音とストロボの嵐。複数のカメラ、ビデオが三脚であちこちにセットされ、今の様子を撮影している。カメラのほうはひとつのリモコンで同時にシャッターが切れるように設定しておいた。そのリモコンを持っているのはオレ。もちろん、オレの顔は写らないように計算している。

 これでこの女はもう逃げられないね。オレに骨の髄までしゃぶられるだけ。

 そういう思いこそが、オレを犯罪にかき立てる理由ってわけだ。射精による快感などはっきりいっておまけにすぎない。

 オレの獲物は若い女だけど、いわゆる遊んでいる女なんかには興味がない。まじめな学生、OL、あるいは女子高生。処女かそれに近い女じゃないと意味がない。

 だってそうだろ? はじめから堕落している女をそれ以上どうしようっていうんだい?

 真面目な女だからこそ、落とす楽しみがあるんじゃないか。

 そういうやつらを拉致し、レイプドラッグで犯しながらも快楽を植え付ける。それをビデオと写真に撮る。あとはそれをネタに継続的に犯す。それを数回くり返せば、快楽のためにはなんでもするゲスな女に成り下がる。人間を堕落させる遊び。それこそが楽しいんじゃないか。

 そんな姿を撮影されれば、淫乱のレッテルを貼られるしかない。それを学校や職場、家庭に送ると脅せば、どんな女だろうがいいなりだ。それは経験から明らかだった。

「赤井さん。俺にもやらせてくれ」

 手下の上田ががっつく。

「好きにしなよ」

 上田は舌なめずりをしながら、女の股間に自分のものをねじ込むと、豪快に腰を振った。

 人には分というものがある。この男はそれをわきまえているらしい。オレが段取りし、オレが使ったお古に、自分のものをつっこんでかきまわす。それで満足してるようだ。

 はっきりいってオレには理解できないけどね。いったいなにが楽しいんだろう?

 女のほうも、そんなつまらない男に犯され、よがっている。もはや落ちるところまで落ちたって感じ。早すぎる。

 正直、最近この遊びも飽きてきた。

 簡単にことが進みすぎてしまう。たんにセックスが目的なら、それでいいんだろうけど。たとえばこの上田みたいに。

 だけどオレはちがうんだなあ。やることはおまけ。いかに女を落とすか。その課程がおもしろいのであって、セックス自体はたいして興味がない。

 もっと歯ごたえのある女はいないんだろうか?

 簡単に拉致されることもなく、たとえ、捉えられても簡単には屈しない女。

 まあ、いないんだろうね、そんなやつ。くだらねえオタク野郎が、女に永遠の処女性を求めるのと同じだ。ありえないロマン。だからこそ憧れる。

 そのうち、終わったらしい。つぎには上田のパシリのもっとなさけないやつにかわった。はっきりいってこいつの名前は覚えてもいない。興味がないからね。

「うひょおお」

 わけのわからない奇声を発し、そいつは発情期の雄犬のようにかくかくと腰を振る。この姿はこっけいですらあった。

「あとはまかせるよ。好きにして」

 オレはそういいはなつと、外に出た。だって退屈でしょうがないからね。

 初めのうちこそ、激しく興奮したんだけどなあ。飽きずに大喜びする連中の気持ちがわからない。

 ま、引退するにはいいかもね。

 最近は日本も少年犯罪にきびしくなってきたし、潮時かもしれない。こういうヤバい遊びは。

 そう考えると、ちょっとさびしかった。


   *


 数日後、オレは上田が誰かに殺されたことをNHKのニュースで知った。

 そのとき、オレの中にかけめぐったのは恐怖でも哀れみでもない。歓喜だった。

 ようやく遊び相手ができたよ。

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