第16話 指導終了そして不穏
初めてのボス戦から、一週間が経過した。その間も、メルティ達はアレンから課せられた自主練習を続けていた。
アレンは、毎回それぞれの自主練を監督して、改善出来る部分を指摘し続けた。その結果、メルティ達は一週間で、メキメキと力を付けていった。
それは、ボス戦という形で見る事が出来た。ボスを倒す速度が段々と上がっていったのだ。
特に動きが良くなったのは、リックだった。ボスの攻撃を紙一重に、そして確実に避けられるようになってきたのだ。そして、戦闘後の息切れも段々としなくなってきていた。
ガイとの模擬戦が実を結んできていたのだ。
それとは別に、能力的に力を伸ばしたのは、メルティだった。教会の治療院での経験がかなり大きかった。メルティが治療院で修行を始めてから、何度か重傷者が運ばれてくることがあったのだ。
新人のメルティがかり出される事はないかと思われたが、シスター・カトレアは、真っ先にメルティを呼んだ。ここで、治療のサポートをさせて、一気に経験値を稼がせるためだ。メルティがいても、確実に助けることが出来るという自負があるからこそ為せる事だった。
ニッキとガイもそれぞれの分野で、確実に成長している。アレンが出す課題をしっかりと熟しているからだ。
それらのこともあって、メルティ達がアレンから卒業する日がやって来た。
「本当に、もう指導は終わりなんですか?」
メルティは、不安そうにアレンを見る。リック以外の二人も同じ意見のようで、メルティ程ではないが不安そうにしていた。
「うん。教える事は、まだあるにはあるけど、自分でも気付ける事だよ。何かも僕から学んでいたら、意味ないからね。自分達で気付けるようにならないと、これからの戦いで困る事になるかもしれないからね」
「それは……そうですけど……」
珍しく、メルティは少しごねていた。
「こいつにおんぶに抱っこじゃ、俺達はSランクまで到達出来ないんだろ。いつまでもごねるなよ。こいつに惚れたのか?」
リックがぶっきらぼうにそう言う。すると、メルティは一気に顔を真っ赤にさせて手を振る。
「そ、そんなわけなでしょ! 全く、リックは馬鹿なんだから」
「ああん!?」
唐突に馬鹿と言われたリックがメルティに食ってかかろうとするが、すぐにガイに止められる。
「まぁ、そういうわけだから、明日からは、皆だけでダンジョンに潜ることになるよ。今日までに学んだ事を忘れないようにね」
「は、はい……」
そうして、アレンはメルティ達と別れた。メルティは、最後まで不安そうにしていた。
(もう少し、自信を持てるような指導をした方が良かったかも。次からは気を付けよう。メルティが僕を好きになった感じがするけど、今すぐどうこうってわけじゃないから、置いておこう)
アレンは、そんな事を考えつつ、ギルドのカウンターまで来ていた。カレンに指導を終えた事を報告するためだ。
「あっ、アレンさん。どうしました?」
「指導が終わったので、その報告をしに」
「そうなんですか!? 結構長い期間指導していましたね。やはり、初めての指導は大変でしたか?」
カレンはアレンにそう訊きつつ、手元では書類の処理をしていた。
「そうですね。慣れないことでしたし、年頃の子達だったって事もありますけど」
「ああ、あの年齢くらいの子は、少し難しい部分がありますからね。ですが、きちんと指導を終える事が出来たようで良かったです。次の仕事は、後日改めてお知らせします」
「すぐに決まるわけではないんですね?」
「はい。こちらとしても、指導対象に合った人を推薦したいので。アレンさんは、どんな人でもしっかりと指導出来そうですけどね」
「そんな事はないですよ。メルティ達の指導も結構難しかったです」
これは謙遜でも何でもなく、本当の事だった。メルティ達、特にリックの指導は、かなり難しかったからだ。どうにか彼の信用を獲得出来たが、あれがなければ、指導にはもっと時間が掛かっていただろう。
「しばらくはお休みになりますので、ごゆっくりしてください」
「わかりました」
仕事を終えたアレンは、家に帰っていく。
────────────────────────
その四日後、アレンは暇を持て余しながら、外を散歩していた。その散歩道で、アレンはメルティ達と遭遇する。
「あっ、アレンさん、おはようございます。お久しぶりです」
「おはよう。皆は今からダンジョン?」
「ああ、【岩体の洞窟】ってところだ。調べていたら、【小鬼の巣窟】の次に行く場所ってなってたからな」
「そうだね。多少苦戦していると思うけど、頑張って」
「お見通しかよ。まぁ、対処法もなんとなく分かってきているけどな」
リックがそう言ったのを見て、アレンは満足げに頷いた。この短い間でもリック達が、少し成長している事が分かったからだ。
アレンは、リック達を見送ってから図書館の方に向かっていった。仕事がないので、今のうちに色々と調べて知識を蓄えようと思ったのだ。
「さてと、今日はこれくらいにして、ギルドに行ってみようかな。新しい仕事があるかもしれないし」
いつまでも仕事がないと暇で仕方がないので、アレンはギルドに行って、仕事がないかどうかを訊きに行く事にした。
アレンがギルドに入ると、いつも以上の喧騒がギルド内に広がっていた。ギルドの受付に行き、カレンの元に向かう。
「すみません。仕事って、まだないですか?」
「アレンさん! すみません、まだ決まっていないので……それに、今、少し忙しくなっていまして、当分先になってしまうかと」
「忙しい状況ですか?」
「はい。【岩体の洞窟】にイレギュラーが現れたとの事なんです。ついさっき、その情報が入ったばかりで、大慌てなんです」
「【岩体の洞窟】に? イレギュラーは、どんなものか分かっているんですか?」
イレギュラーとは、本来、そのダンジョンに現れることはないモンスターの事だ。そのほとんどは、そのダンジョンの難易度よりも遙かに上な事が多い。
「それが、あまり情報は入っていません。ただ、一人死者が出てしまっています」
「……その情報が入ったのは、何時頃ですか?」
「一時間前です」
つまり、イレギュラーの情報は、メルティ達に届いていない可能性が高い。
「ここにSランクかAランクの冒険者は?」
「全員出払っています。少しタイミングが悪かったです」
「……そうですか。じゃあ、取りあえず、僕が様子を見てきます」
「アレンさんが!?」
カレンは驚いて目を見開く。
「で、ですが、アレンさんは……」
「大丈夫です。では」
「アレンさん!」
カレンの呼び止めを無視して、アレンは駆けだして行ってしまった。
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アレンは、自分に支援術で比翼の加護を掛けて、【岩体の洞窟】まで向かった。
「大した準備も出来ていないけど、中の冒険者達を避難させることくらいは出来るはず。僕だって、元Sランク冒険者なんだから」
アレンは、自身に【剛力の加護】【鉄壁の加護】【比翼の加護】を重ね掛けする。そして、異常が起こっている【岩体の洞窟】へと入っていった。
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