第17話 イレギュラー
アレンが去ったギルドに四人の人影が近づいていた。
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アレンが【岩体の洞窟】に入った頃、メルティ達は【岩体の洞窟】の中層付近で魔物と戦っていた。
ここにいる魔物は、基本的に岩を身体としたゴーレムだった。そのため、基本的にリックの攻撃が効かない。ゴーレムに効くのはニッキの魔法だけだったのだ。それが、メルティ達が苦戦した理由だ。ニッキの魔力も無限ではないため、一から十までニッキ頼りの戦法を続けるわけにはいかない。
そこで、メルティ達が見つけた対処法は、関節部を狙うことだった。ゴーレムの関節部が、岩で出来た身体と違い、脆くなっている事に気が付いたのだ。そこを正確に突けば、身体から外れ、二度と元には戻らない。手足の関節を断ち切り、首を外して倒していた。
「ふぅ……俺達だけでも倒せるようにはなったが、まだまだ時間が掛かるな」
「そればかりは仕方がないよ。私達にゴーレムを一撃で破壊する攻撃力があれば、もっと楽だったんだろうけどね」
「私の魔力が、もっとあっても変わったと思う」
「それも時間を掛ければ解決する問題じゃないかな。アレンさんもそれを見越して、魔力伸ばしを推奨していたんだと思うし」
少し落ち込んだニッキを、ガイが励ます。
メルティ達は周辺を警戒しながら先へと進んでいく。アレンに習ったことに、忠実に従っているのだ。実際、そのおかげで順調にダンジョンを進む事が出来ていた。
「大分進んできたね。そろそろ最下層も近いかな?」
「えーっと、まだまだかな。調べた限りでは、ここら辺は、中層の下の方のはずだから……皆! 戦闘態勢!」
メルティは、話している最中に嫌な予感に襲われ、皆に向かってそう言った。リック達は、すぐに戦闘態勢へと移行した。全員、メルティの言葉に疑いなど持たなかった。
戦闘態勢のまま、じっと待っていると、正面から大きな金属の鎧が歩いてくる。鎧が来るだけなら、冒険者が地上に上がろうとしているように見えるだろう。だが、その大きさは、アレンの三倍程ある。どうみても、人間ではない。
「冒険者の方ですか!?」
別種族の冒険者の可能性を考えて、メルティが問いかける。しかし、鎧は何も答えない。そして、言葉の代わりに剣の振り下ろしで答えた。振り下ろされてくる剣を、リックとガイが避ける。叩きつけられた剣は、地面にめり込んでいた。
(確実に上位の魔物……でも、こんな魔物が出るなんて、書かれていなかった。もしかして、噂に聞くイレギュラー!?)
メルティはそう考えて、すぐに作戦を口にする。
「撤退するよ! 殿はガイがお願い! リックは先導して! ニッキは、タイミングを見て魔法による攻撃!」
『了解!』
メルティの指示に従って、リックが走り出す。その後ろをメルティが行き、更に後ろをニッキが行き、殿をガイが走る。
それを鎧の魔物ワンダーアーマーが追ってくる。
「あいつが何か分かるか!?」
「分からない! 少なくとも、ここにはいないはずの敵だよ!」
「ちっ! 階層を移動すれば、逃げ切れるか……」
「無理だと思う! イレギュラーは、階層無視で追い掛けてくるって、本に書いてあった!」
「くそ……さっさと、脱出するぞ!」
リックは、一人先行して、正面に現れたゴーレムの腕と脚の関節を素早く斬り落とす。今までの戦闘ではそんな事出来ていなかった。火事場の馬鹿力みたいな力が働いたのだろう。
その間にもガイが、ワンダーアーマーが振ってくる剣を受け流している。まともに受ければ、ガイでは押し潰されてしまうので、ひたすら受け流すしかないのだ。そして、振り切った態勢になったワンダーアーマーに、ニッキがウォーターアローを撃ち込んでいくのだが、あまり効果がなかった。
そのため、二度目からウォーターカッターを放っていた。それでも大したダメージは与えられなかった。
「あいつ硬すぎ!!」
「でも、ウォーターカッターなら、ほんの少し押すことが出来ているみたい。だから、基本的にウォーターカッターを撃って!」
「分かった!」
メルティ達は必死にワンダーアーマーから逃げていく。しかし、次の瞬間、メルティ達の横をガイが吹き飛んでいった。
「ガイ!?」
ガイが持っている盾には、拳型の凹みが出来ていた。そして、メルティ達の後ろでは拳を叩き込んだ姿勢で、ワンダーアーマーが立っていた。
「げほっ!! げほっ!」
ガイが血塊を吐き出す。メルティはすぐにガイの傍に駆け寄り、身体の状態を確認する。
「すぐに治療しないと危ない!」
「ちっ! ニッキ! 援護しろ! あいつの攻撃は、全部俺が捌く!」
リックが正面に立ち、メルティとガイの前にニッキが立つ。ワンダーアーマーは、リックを無視して、ガイを攻撃しに向かおうとする。その前にリックが立ち塞がり、ワンダーアーマーの鎧を斬りつける。
しかし、リックの攻撃では小さな傷も付けることが出来ない。だが、その攻撃で、ワンダーアーマーのヘイトがリックに向く。
「へっ! おら、掛かってこいよ!!」
リックの声に反応するように、ワンダーアーマーがリックに向かって剣を振り下ろす。リックは、その攻撃をサッと避ける。何度もガイの攻撃を避けてきた経験が、ここで生きた。ただ、今までのわざとギリギリで避けて、攻撃のチャンスを生み出すような避けは出来ず、死に物狂いの避けしか出来なかった。
それでも、リックは恐怖に支配されない。虚勢を張って、ワンダーアーマーを挑発し続けた。
その間に、メルティがガイの治療を始める。
「『神々の雫よ・彼の者の傷を癒やし・祝福を与え賜え』」
メルティは、重傷に対する回復魔法の神々の雫を発動させる。ただ、これは即時回復というわけではない。傷がある箇所を徐々に治していく魔法だ。
上位の回復魔法だが、教会での経験のおかげで、魔力の消費を抑えつつ、発動させる事が出来るようになっていた。本来の神々の雫は、全身の傷を癒やす事が出来る。
メルティが治療を進めていると、メルティの傍にリックが転がってきた。
「リック!?」
リックは息絶え絶えになって倒れている。その身体には大きな傷が刻まれていた。ワンダーアーマーの攻撃を避けきれなかったのだ。だが、攻撃を浅くする事は出来ている。
「はぁ……はぁ……」
「ひっ……」
必然的に、ワンダーアーマーの正面に残っているのは、ニッキだけになってしまった。ニッキは、恐怖によって立ち竦んでいる。
「ニッキ! 逃げて!」
メルティがそう叫ぶが、ニッキは動く事が出来ない。リックが何とか正面に立とうとするが、身体を持ち上げる事すらも出来なかった。
絶体絶命のその時、ニッキの姿が掻き消える。メルティ達は一瞬何が起こったのか分からなかった。
「ふぅ……まさか、戦闘しているとは思わなかったよ」
メルティ達の傍から声がする。それは、メルティ達がずっと頼っていた者の声だった。
「ア、アレンさん!?」
「うん。皆、生きていて良かったよ」
驚くメルティの傍に、抱えていたニッキを降ろす。メルティとニッキの目から涙が零れていた。
「喜ぶのは後だよ」
アレンはそう言って、後ろから攻撃しようとしていたワンダーアーマーの攻撃を杖で受け止める。
「くっ……さすがに、キツいかな……」
アレンは、受け止めた姿勢から力を入れ直して、ワンダーアーマーの攻撃を弾く。
「リック! 動けるかい!?」
「あ、ああ……」
アレンの声に応えるように、リックが立ち上がる。
「僕がこいつを足止めする。ガイの治療が終わったら、すぐに皆で逃げるんだ」
「んな!? そんな事出来るかよ……」
「足手まといだ。そんなの言われなくても分かるだろう?」
「……ちっ……分かった」
リックは、若干納得いっていなかったが、アレンの言うことが正解なので、従う事にした。
「メルティは、移動しながら、リックの治療をして。いいね?」
「は、はい!」
「じゃあ、皆、無事に地上で会おう」
アレンはそう言うと、ワンダーアーマーに突撃した。
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