第15話 初めてのボス戦

 アレン達は、【小鬼の巣窟】の最深部まで進んで行った。途中の戦闘もなんなく熟して最深部まで移動する。

 メルティ達は、自分達が思っていたよりもすんなりと進む事が出来た事に、驚いていた。


「私達、こんなに強くなっていたんですか?」

「いや、元々素質はあったと思うよ。戦闘の仕方と戦場の見方を覚えた事によって、余裕が生まれているんだ。おかげで、色々と考える事が出来て、戦闘の効率化が出来てきているんだよ。リックとガイの動きも良くなっているし、ニッキの魔法も状況に合わせて、最適なものを選べているし、メルティの指示も的確だったから、強くはなっているけどね」

「アレンさん達も私達と同じように成長していったんですか?」


 ふと疑問に思ったのだろう。メルティは、アレンを見上げてそう訊いた。


「まぁ、そうだね。でも、あまり僕達を参考にしすぎないようにね。僕達は、他の人達よりも異常な強さを持っていたりするから」


 アレンの言っている事は正しい。アレンの元仲間達は、全員異様な才能を持っている。だからこそ、とんとん拍子にSランクまで駆け上れたのだ。

 その分の努力はしっかりとしている。ので、才能に溺れているということはない。それでも、他の冒険者達の良い見本とは言えないだろう。


「でも、アレンさん達の戦い方を元に指導してくれているんですよね?」

「まぁね。全く同じとはいかないけど。それよりも、もうボス部屋だよ。僕は、皆が危ない状況にならない限りは、動かない。基本的には、皆だけで戦って貰う。分かった?」


 アレンがそう言うと、メルティ達は緊張しつつ頷く。


「それじゃあ、頑張って」


 アレンはボス部屋の入口で立ち、メルティ達はボス部屋の中へと進んでいった。すると、ボス部屋の中心に、メルティ達の身長よりも一回り大きいホブゴブリンが現れた。アレンと比べても、少しだけでかい。


「ガイ! 正面に立って気を引きつけて! リックは隙を突いて攻撃! ニッキは威力の高い魔法の準備を! それと……『彼の者の力よ・湧き上がれ』!」


 メルティがアタックブーストをリックに掛ける。これには、アレンも驚いていた。


(もうイメージを固定させたんだ。思っていたよりも早い。やっぱり、メルティには支援術の才能もありそうだ。さて、どのくらいで倒せるかな)


 アレンが見守る中、メルティ達のボス戦が始まる。

 メルティの指示通り、ガイが正面に立ち、盾を構える。そこにホブゴブリンの骨の棍棒が叩きつけられる。

 ガイは、叩きつけられた棍棒を受け止めるのではなく、受け流した。そこから反撃をするのではなく、油断なく構えたままだった。その影から、リックが飛び出して、ホブゴブリンの脇腹を斬る。

 アタックブーストが掛かったリックの攻撃は、ホブゴブリン皮膚を易々と斬り裂いた。ホブゴブリンのヘイトがリックに向く。

 棍棒を引き戻したホブゴブリンがリックに棍棒を振う。リックは、それをギリギリのところで、それでも確実に避ける。ガイとの修行の成果が出ていた。


「ガイ! 攻撃をして、狙いを受け取って! リックは一端退く!」


 メルティが指示を飛ばすと、リックとガイは、すぐに行動を始めた。リックを狙おうとするホブゴブリンの間に入り、ガイが軽く何度も斬りつける。それによって、ヘイトがガイに移る。


「『廻り流れる水の奔流・鋭く・鋭利に・削り取れ』!」


 二人がホブゴブリンと戦っている間に、体内の魔力を整えていたニッキが詠唱をした。生み出されたのは水。しかし、今までのウォーターアローではない。水はチャクラムのように中心に穴が空いた円を形成して、素早く流れ続けている。その水のチャクラムが生成された場所は、地面近く。水のチャクラムの中に、砂利が混ざり込んでいた。

 それが、ホブゴブリンに向かって飛んでいく。気が付いたホブゴブリンは骨の棍棒を盾にして防ごうとするが、水のチャクラムに含まれた砂利などが棍棒そのものを削っていく。


『!?』


 これにはホブゴブリンも驚いた。このままでは、自分の武器である棍棒が壊されてしまう。しかし、ここで、棍棒を戻せば、今度は自分が削られる事になる。

 さすがに、そっちの方がまずいと分かっているので、そのまま棍棒を盾にし続けた。

 結果、ホブゴブリンの棍棒は両断された。そして、その延長線にあったホブゴブリンの右の上腕を半分削り取った。

 ニッキが放ったこの魔法はウォーターカッターと呼ばれるものだ。砂利などを混ぜた水ののこぎりによって、敵を削り取るものだ。


「ニッキは、また魔法の準備! ガイとリックは倒せそうなら倒して!」


 ニッキは、また体内で魔力を整える。その間に、ガイとリックはホブゴブリンを翻弄していた。この二日間、ずっと二人で戦い続けていたため、互いの癖などをほぼほぼ理解していた。

 おかげで、二人の連携も上達していた。ガイがホブゴブリンの拳を盾で防ぎ、その直後の硬直を見逃さず、リックが剣で斬りつける。

 そのリックに対するホブゴブリンの攻撃を、ガイが防ぐ。これの繰り返しによって、ホブゴブリンはどんどんと消耗させられ、最終的にホブゴブリンは立っていられなくなった。

 そのホブゴブリンの頭を、リックが刎ねたことによって、ボス戦が終わった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ふぅ……」


 ずっと動き回っていたリックとガイは、かなり疲れていた。それでも、まだ警戒は続けていた。ホブゴブリンを確実に仕留めたか、まだ分からないからだ。

 そのまま十数秒経っても、ホブゴブリンは動き出さない。最終的に、ホブゴブリンの身体は灰となった。その中に紫色の石と骨が残っていた。魔物の魔石と素材だ。


「倒せた……」


 メルティは呆然としながら呟いた。ニッキも安心した様に、ホッと息を吐く。

 そんなメルティ達にアレンが近づいていった。メルティ達は、それだけ少し緊張する。自分達の戦いをアレンがどう評価してくれるか分からないからだ。



「うん。上出来だね」


 アレンがそう言った瞬間、全員がまた安堵のため息をつく。


「メルティの指示も的確だったし、ニッキの魔法の選択も良い。リックとガイの連携も良かった」


 ここまでは、メルティ達の良かったところだ。ここからは、改善点の話だ。


「ただ、ニッキの魔法の構築が少し遅い。魔力操作が上手くいっていないって事だ。魔力伸ばしを続けていこう。ガイは、正面から受け止めた時に、少し身体を押されている感じがした。足腰を鍛えておこう。リックは、攻撃力不足が目立つかな。武器の面もあるけど、敵を見極める目が必要だ。敵の脆弱性を見つけるって事。これは、戦闘経験がものをいうから、指導の間に身に付けるのは厳しいから、指導が終わった後、自分で身に付けてくれ。皆の課題はこれくらいかな」


 ボス戦を経ても、まだ課題がある事に、メルティ達はショックを受ける様子はなかった。その目には、やる気が満ちあふれている。


「それじゃあ、今日はこれで街に戻ろう」


 ボス戦を終えたメルティ達を連れて、アレンは街へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る