第13話 休暇二日目
メルティ達が修行に励み、アレンがマリアの買い物に付き合った翌日、アレンの姿は、マグネットの図書館にあった。
「さてと、魔法の方の基礎は押さえているから、後は戦技の方だけど……」
この世界には、戦技と呼ばれるものが存在する。これは、後衛の魔法使いの魔法のように、前衛の騎士が扱う技だ。ただの剣や槍による攻撃ではなく、威力や攻撃範囲などが桁違いになる。また、盾による防御も硬さと範囲が上がる。
「あればかりは、リックやガイ自身が編み出さないといけないんだよね」
戦技は、魔法のように才能があれば誰でも使えるわけではない。扱う者自身が、自分で編み出すか、既に戦技を扱える者から受け継ぐしかない。
一般的な冒険者のほとんどは、この戦技を扱えない。だから、戦闘の決め手は、魔法となることが多いのだ。
だが、Sランク冒険者となっているもので、前衛を務めている者は全員扱える。つまり、Sランク冒険者になるには必須の技術となるのだ。
「リック達が【狂神の砦】に行くとなれば、必要になるから、どうにかして、会得させたいところではあるんだけどなぁ」
アレンは、戦技に関する論文を読んでいった。アレンは、戦技を会得していないため、コツなどをリック達に教える事は出来ない。
そのため、こうして論文を読むことで、なんとなくの感覚だけでも掴めないかと思ったのだ。
「……分からない」
魔法とは違い、ちゃんとした理論が構築されているわけではないため、論文自体もあやふやなものが多かった。そのため、理論派のアレンは、この論文で感覚を掴むことは出来なかった。
「はぁ……出来れば、レオニス達に見本を見せてもらいたいけど、さすがに忙しいだろうし、ダンジョンや外以外で撃ったら、変に被害が出そうだし……取りあえず、話だけでもしておくべきかな……いや、無理に意識しすぎるのもダメだし……」
アレンは、リックとガイの今後の指導方針で悩んでいた。悩みつつも他の論文を読み進めていく。
そうして、時間が流れていくと、アレンの肩を誰かが軽く叩いた。アレンは、自分を叩いた人がいる方向を見るが、そこには誰もいない。
「?」
アレンが首を傾げていると、自分の背後から小さく笑う声が聞こえる。そちらを向くと、そこにはサリーがいた。手で口を覆って笑っている。大きく声を出して笑わないのは、ここが図書館だからだろう。あまり、大声で喋っていると職員につまみ出されてしまう。
「サリー?」
「一昨日ぶりね。何を読んでいるの?」
サリーは、アレンが読んでいた論文を覗きこむ。
「ふぅん。戦技? アレンが覚えるの?」
「いや、今指導している子達に覚えて貰いたいんだよね」
「でも、アレンが何かしたからって、覚えられる事じゃないでしょ?」
「そこが問題なんだよね。僕が覚えていれば良かったんだけど」
「今時、戦技の受け継ぎをしている冒険者なんていないものね。あまり、手の内を晒したくないって気持ちは分からなくもないけど」
アレンが悩み続けている原因の一端は、今、サリーが言った事にもあった。冒険者の中にいる戦技所有者達が、戦技の受け継ぎに消極的なのだ。自身の手の内を晒してしまうと、闇討ちに遭った時に困る事になってしまうのだ。
そんな事起こるのかと思われるかもしれないが、実際に、そういうことが何度も起きているのだった。だから、戦技を受け継がせて、弱点が広まってしまう事を嫌がる。
他にも、自分だけの技というものに、憧れを持っているという人もいる。少人数ではあるが。
「レオニスの戦技は、メルティと同じくらいの子じゃ、扱えないだろうし、ほぼほぼどん詰まりじゃない」
「そうなんだ。だから、こうして調べているんだけど、あまり参考になるような事は書いていないんだ」
「ふぅん。アレンで分からないなら、私も分からないわね。仕方ないじゃない。諦めたら?」
「でも、リック達は、多分、【狂神の砦】に行きたいと思っているんだ」
「!? 何で、あんなとこに……」
サリーにとっても嫌なところなので、眉を寄せてそんな事を言った。
「実は、リックって子の妹が、魔力欠乏症なんだ。だから、あそこの薬草が必要なんだよ」
「ああ……って、あんた、大丈夫なの? こんな話したら、また……」
「今は、大丈夫。心配してくれてありがとう」
アレンがそう言うと、サリーは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。照れているようだ。
「別に……」
「そういえば、サリーは、ここに何をしに来たの?」
「あっ、魔法の論文を読みに来たんだった。新しいのあるかしら」
アレンは、サリー達にも、メルティ達と同じように、魔法の論文を読むことを薦めていた。サリーは、それを律儀に守って、休みの日は定期的に論文を読むことにしていた。
「あっ、あった。『複数魔法の同時演算について』か。私、自分でやり方を見つけちゃってるから、あまり参考にはならないかな」
「一応、読んでおくと良いかもよ。サリーの理論を補強する事が出来るかもしれないし」
「そういうものなの?」
サリーは、中身を読み始めながらそう返事をする。
「確証はないけどね。自分独自の理論は、どこかで間違っていても、分からないって時が多々あるからね。他人の意見が、参考になる事もあり得るよ。逆に、他人の理論に疑問点を見つける事もあるけどね」
「ふぅん。本当だ。何か、少しおかしい部分がある。これだと、私の理論の方が合ってそう」
「参考にはならなかったみたいだね。ごめん」
「別に、あんたのせいではないでしょ? それより、これから暇? そろそろお昼だし、ご飯どう?」
「それもそうだね。付き合うよ」
アレンは、サリーと一緒に昼飯を食べに向かった。結局、戦技を教えるための情報は集まらなかったが、リックとガイの指導方針は、アレンの中で決まっていた。
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