第12話 教会での修行と演習場での修行
翌日、アレンの姿は教会の近くにあった。教会の中には入らず、チラチラと教会の方を見ていた。どこからどう見ても不審者そのものだった。
「何をしているんですか?」
「うわっ!? マリア!?」
アレンは突然、マリアに話しかけられて、ビクッと震えた。一度、深呼吸をしてからマリアに向き合う。
「どうして、マリアがここに? ダンジョンには行かなかったの?」
「私達も、休憩期間なんです。アレンがいない穴を埋める連携を確かめているので、普段よりも精神的な消耗が激しいだろうと、レオニスが決めたんです」
「なるほどね。さすがは、レオニスだ。じゃあ、今日はマリアも治療院にいるって事?」
アレンは、マリアが治療院にいるのなら、メルティの心配は要らないなと考えていた。そう。アレンが、教会の傍にいたのは、メルティが修行を始めるからだったのだ。一応、メルティの成長のために決めたが、ちゃんと出来るかどうかが心配だったのだ。
「いえ、今日は非番です。私も働こうかと思ったのですが、シスターに止められてしまいました」
「シスターに? ああ、メルティのためなのか」
「そうですね」
アレンは、すぐにシスター・カトレアの考えが分かった。マリアが治療院にいれば、ほとんどの人はマリアに治療を頼みたいと思うだろう。そのくらい、マリアの能力は高い。だからこそ、シスター・カトレアは、マリアを治療院から離して、メルティにも治療を行う機会を与えたのだ。
「じゃあ、マリアがここにいちゃダメだね」
「では、アレンも一緒に行きましょう」
「え? で、でも、メルティが……」
「シスターに任せれば大丈夫ですよ。それに、アレンがいてしまうと、あの子もアレンに頼ってしまうかもしれませんし」
「ま、まぁ、そうかもだけど……」
そう言われてしまうと、アレンとしても頷かざるを得ない。
「買い物に付き合ってください。今は、アレンも暇ですし、良いですよね?」
「え、あ、う、うん」
アレンは、マリアに手を引かれて、商店街へと繰り出したのだった。
────────────────────────
アレンが教会の近くまで来ている事など、つゆ知らず、メルティは、教会の傍に建てられている治療院の中にいた。
「そのように緊張していたら、出来る事も出来なくなってしまうわ。落ち着いて、自分に出来る事を最大限に行いなさい」
「は、はい! シスター・カトレア」
メルティは、一度深呼吸をして、心臓を落ち着ける。
「では、開けますよ。皆、準備は良いですね!?」
『はい!!』
メルティ以外の職員も一斉に返事をする。そして、シスター・カトレアが治療院の扉を開ける。すると、治療院が開くのを待っていた患者達が入ってくる。その患者は、次々と空いている席に座っていく。それは、メルティの前に置いてある席にもだった。
「あら、新人さんかい?」
「は、はい! メルティと言います」
「あらあら、また小さい子が入ったわね。マリアちゃん以来じゃない。じゃあ、よろしくね。実は、最近指が割れちゃって、水仕事が辛いのよ」
「なるほど。では、まずは傷を治しますね。『治癒の雫よ』」
メルティは、治癒の雫と呼ばれる回復魔法を使用する。緑色の光が、水のように傷口を覆っていく。治癒の雫に含まれる治療成分が、傷口から染みこんでいき、段々と傷口を塞いでいく。
「これで、治療は終わりです。それと、油分が豊富な軟膏を塗っておけば、少しマシになるかもしれません」
「そうなの? ありがとう」
メルティは、患者からお金を受け取る。患者は、メルティに頭を下げると、治療院から出て行った。
「ふぅ……」
初めての患者に何の問題も無く対応出来たメルティは、ホッと一息つく。同時に新しい患者がやって来た。その後ろにも、患者が並んでおり、メルティからは、最後尾が見えない状態となっている。
(これは……本当に大変そう……)
メルティは、この修行の大変さを身をもって知る事になった。
────────────────────────
メルティが、治療院で修行をしている時、リックやガイも、メルティ同様自分達の修行をしていた。二人で、演習場を借りて、アレンから課せられている模擬戦をしているのだ。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……」
常に攻撃を避けないといけないリックの方が、ガイよりも消耗していた。
「どうだ……結構避けられてるだろ……?」
「まだまだだよ。このくらいで息が上がってたら、実際に戦闘でも息が上がるって事だよ」
「お前は、あいつみたいな事を言うな」
「あいつって、アレンさん事? いい加減、普通に呼べば良いのに。素直じゃないなぁ」
ガイがそう言うと、リックは舌打ちをしながら顔を背ける。
「んな事、言ってないで、さっさと続きをやるぞ」
「はいはい」
リックとガイは、修行の続きを始める。盾を構えつつ、ガイがリックに接近する。リックは、どんな攻撃が来ても反応出来るように、腰を低くして構えていた。
ガイは、盾の影から、木剣を突き出す。リックは、その突きを右側に飛び退くことで避けた。しかし、そちらは、ガイの盾がある方向だった。ガイが、すれ違いざまに、盾を横振りして、リックの身体に叩きつけようとする。
リックは持っていた木剣を盾のように使い、盾による攻撃を防ぐ。こうしてすれ違って終わるかと思いきや、ガイが直ぐさま方向転換して、リックに斬り掛かる。
普段、防御を主体として戦っているので、こうした攻撃はあまり得意ではなかったのだが、昨日、一昨日のリックとの模擬戦を経て、ある程度の攻撃が出来るようになっていた。
「くっ……」
リックは、攻撃を利用して、ガイから大きく離れていく。ガイは、すぐにリックに追い打ちを掛ける。
二人とも、二日の修行の成果が出ているからか、最初よりも動きが改善されている。この修行では、リックの防御面を鍛える意図があったが、嬉しい誤算として、ガイの攻撃面を鍛える事にも繋がった。
こうして、メルティ達は急速に成長していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます