第11話 魔力伸ばし
メルティとニッキを連れたアレンは、街の外に出ていた。
「何故、街の外に出るんですか?」
それを疑問に感じたメルティが、アレンに訊く。
「演習場はリック達が使うし、街中だと何かあった時に、困る事になるからね」
「何かあった時?」
ニッキは、そんな危険な事を一人でやらせたのかと驚いた。メルティも、これからどんな事をするのかと少しだけ顔が強張る。
「いや、普通にやれば、そこまでの危険はないよ。それでも魔力は伸ばせるし、操作力も上がる」
「それなら、何かあった時って、どういうこと?」
「ギリギリを攻める。二人が操作出来る限界ギリギリの魔力量で魔力伸ばしをやってもらうんだ。下手すると、魔力が暴走して周囲に解き放たれるかもしれない。だから、周りに何もないところまで来てもらったってわけ。ただ、これはかなり危険だから、僕がいる時にしかやらないようにね」
「はい!」
「うん!」
二人とも元気よく返事をする。アレンは、やる気十分の二人に、少しだけ心配になりつつも修行を始める準備をする。杖の先端で、二つの円を描き、中に様々な図形を描いていく。
「何をしているんですか?」
アレンが何をしているのか分からず、メルティが訊く。
「念のための結界だよ。こうして設置するだけなら、僕でも使えるからね」
アレンが仕込んでいたのは、マリアから教わった結界だった。即座に張れるタイプではなく、事前に魔法陣を仕込まないといけないので、戦闘では不便だ。
「じゃあ、中に入って」
二人が魔法陣の中に入ると、アレンが結界を張る。
「それじゃあ、魔力伸ばしについて説明するよ」
「「お願いします!」」
二人は気を引き締めて、アレンの話を聞く。
「ニッキは、もう資料を読んで知っていると思うけど、魔力伸ばしの仕方は、ひたすら魔力を循環させるんだ」
「身体の中でですか?」
「そう。身体中に魔力を張り巡らせる事はあると思うけど、それを中で循環させ続ける。これによって、魔力の通り道が拡張される。ついでに、魔力の操作が上手くなるんだ。普通は、ただ循環させるだけでも、ほんの少しずつ拡張されるんだけど、自分の許容限界の魔力を循環させると、一気に拡張出来るんだ。その分危険なんだけどね」
人の身体には、魔力が通る道がある。それは、魔力が流れていく度に、少しずつだが広がっていく事が、研究の結果判明した。
これは、魔法を使うことでも流れるので、魔法を多く使えば使う程、拡張されていく。魔力が高い者は、魔法使いに向いているという風に言われてきていたが、実際には魔力を使えば使う程伸びていくので、魔法使いになればどうとでもなる。本当に魔法使いに向いているのは、あらゆる魔法を操る才能を持つ者だ。
この魔力の拡張は、ギリギリを攻めれば攻める程、大きく拡張する事が可能となる。ただし、そのギリギリを超えてしまえば、身体の中に抑えきれず、魔力を周囲に舞い散らすことになってしまう。
その魔力は、周囲のものに衝撃を与えるので、こうして人や物から離れた場所でやった方が良いのだ。
「な、なるほど……」
「そこら辺は、僕が見ているから大丈夫だけどね。さっ! やってみようか」
「は、はい!」
「うん!」
メルティとニッキが、身体中を魔力で満たし循環させていく。ここまでは、ニッキが昨日やった事と同じだ。
「もっと魔力を高めて」
「は、はい!」
「うん!」
メルティとニッキは、魔力をもっと高めていく。
「まだいけそうだね。まだ高めて」
「え……はい!」
「うん……!」
メルティとニッキは、少しだけ苦しそうにしながらも、魔力を高めていく。高められた魔力が、メルティとニッキの周囲を歪めていく。
「そのまま維持」
メルティとニッキは、もう返事をする余裕もなかった。自分の魔力を制御するのに精一杯だ。
「メルティ、魔力を込めすぎ。ニッキは少なすぎ。もう少し込めて」
アレンが逐一指示して、魔力の調整をしていく。メルティとニッキは、アレンの指示に応じて魔力を操る。だが、最初から上手くいくはずもなく、何度か操りきれない魔力が漏れ出してしまったが、アレンの結界で問題なく防ぐ事が出来た。
アレンの指導の下、魔力伸ばしをしていたメルティとニッキだったが、限界を迎えてしまい力なく座り込んだ。
「辛い……」
「本当に……魔力が無くなってしまいました……」
「まぁ、無駄に消費してるような感じだからね。取りあえず、今日の修行はこれで終わりだね。回復したら、街に戻ろうか」
「はい」
アレン達は、少しの間休憩することにした。
「アレンさんは、この魔力伸ばしを経験しているんですよね?」
「ああ、うん。ダンジョンに潜る時以外はね」
「「!?」」
アレンの何気ない言葉に、メルティとニッキは眼を剥いて驚いた。
「じゃ、じゃあ、今も!?」
「うん。とは言っても、メルティ達みたいに、ギリギリの魔力ではないけどね」
メルティとニッキは口をあんぐりと開けて固まる。アレンは、ダンジョンに潜る時以外、常に魔力伸ばしをしていると言ったからだ。メルティとニッキでは、今みたいな全力の魔力伸ばしではないとしても、三時間程が限界だろう。アレンは、それを長ければ日単位で行っていると言う。
「上位の冒険者は、皆、そんな感じなんですか?」
「いや、後はサリーとマリアくらいだと思うよ。冒険者は、論文を読まないから」
「え? そういう理由なの?」
「まぁ、論文を好き好んで読む冒険者は珍しいしね。正直、僕の他に聞いた事がない」
「じゃあ、私達も論文を読んだ方が良いんでしょうか?」
アレンの真似をした方が良いのではと思ったメルティが訊く。
「う~ん、一概には言えないけど、メルティ達が読めるのなら、読んだ方が良いかもしれないね。魔法系の論文は、結構参考になるよ」
「なるほど」
メルティは、すぐにメモを取る。
「でも、今すぐには、やらなくても良いかな」
「そうなんですか? 今は、新しい論文がないとかでしょうか?」
メルティは読むべき論文がないため、アレンがそう言ったのだと思った。しかし、アレンの考えは違った。
「今は、教会での修行に集中すること。論文読みすぎても、そういう情報に引っ張られると、判断を間違えるかもしれないからね」
「わかりました」
「よし。じゃあ、そろそろ街に戻ろうか。明日からの二日間は、各自で休むなり、少し身体を動かすなりしてね」
「「はい!」」
アレンは、メルティとニッキを家の近くまで送ってから、自分の家へと戻っていった。
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