第10話 修行一日目を終えて
翌日、アレンとメルティ達はギルドに集まっていた。
「昨日、伝えていなかったけど、明日から二連休だから」
「は!?」
「え?」
「やった!」
アレンの唐突な言葉に、リック、ガイが驚き、ニッキが喜ぶ。
「なんでだよ?」
リックは不服そうにしているが、前みたいに声を荒げて突っかかったりはしてこなかった。アレンが言っている事には何かしらの意味があると、今までの指導で分かったからだ。
「ダンジョン探索を休まずに続けていくのは、リスクが高いんだ。自分でも知らぬうちに気力を消耗していくからね。それを気にせず、ずっと探索を続けていたら、注意力散漫になって、いつか致命的なミスを起こしてしまうかもしれない。だから、定期的にしっかりと休む必要があるんだ」
「なるほどな……」
アレンの説明に、リックは納得する。それは、リック自身がアレンに言われて、自分の気力が消耗している事に気が付いたからだ。それは、ガイとニッキも同じだった。
「僕に言われてから気付くのは、遅い証拠だよ。皆は、近い内に指導員である僕から離れる事になるんだから。自分達でも長く探索を続けたら、ダメだって事を意識しておいて」
『はい!』
ガイとニッキが威勢良く返事する。リックも理解を示したように頷いた。メルティは昨日のうちに聞いているので、何も返事はしていない。
「それで、取りあえず皆の自主練の成果を聞こうか。まずは、ニッキから」
アレンがニッキの方を見ると、ニッキは昨日アレンが渡した紙の束を取り出す。
「ここにある一覧を読んで、色々な魔法について知ったよ。でも、まだ私に使えそうにないものばかりだった。その後は、それらが使えるようになるための魔力伸ばしをしてた。書いてある通りにやったんだけど、ちゃんと出来ているか心配だから、今度見て欲しい」
「うん、分かった。取りあえず、今は、魔法についての知識を深めていこう。今日の自主練は、ニッキに付くつもりだったから、その時に魔力伸ばしをしていこうか。今回は、メルティも一緒にやる感じで」
「わかりました」
メルティの修行は、明日からとなっているので、今日の自主練時間は空いている。そのため、アレンはニッキと同じように魔力伸ばしをして置こうと考えたのだ。回復魔法を使える回数が増えれば、それだけパーティーの生存率にも繋がる。
「リックとガイの方は、どんな感じだった?」
アレンは、リックとガイの方を向いて訊く。
「言われた通り、ガイの攻撃を避け続けたぞ。基本的には避けられた気がする」
「剣による攻撃は、素早く反応出来ていましたが、盾で攻撃すると反応が鈍っていました」
「なるほどね。盾は防御のためにあるっていう固定観念があるみたいだね。この世にあるもののほとんどは武具として使えるって事を覚えておくと良いよ。相手が使うこともあるけど、自分でも利用するって事もあるから。周囲の環境やものを使うのも冒険者としての心得の一つだよ」
「分かった」
これで、全員の自主練を確認し終えたので、アレン達はギルドから出て、また【小鬼の巣窟】へと向かっていった。
「今日は、少し長めに潜ってみよう。連続した戦闘を熟してもらう。一回線等すれば、しばらく戦闘しなくて良いなんて事はないからね。下手すると、一時間以上戦闘が続くこともあるからね」
「一時間……」
メルティの顔が強張った。今の戦闘時間は、長くても五分程度。一時間の戦闘時間など想像も付かないのだろう。
「ボス戦とかだと、三十分くらいが基本だと思っておいて。メルティは、その間、常に戦場全体を意識しないといけないから、少し厳しいかもだけど、何とか慣れていこう」
「わ、分かりました!」
パーティの司令塔であるメルティは、戦場全体を把握して指示を出す必要がある。それが五分程度であれば問題はないだろう。だが、三十分、一時間となれば話は別だ。それだけの時間、戦場全体を意識していれば、いずれ綻びが生まれる。それによって、指示の間違え、遅れなどが出れば、パーティーが全滅する事に繋がってしまう。
それを防ぐには、慣れてしまうのが手っ取り早いのだ。実際、アレンも特に特別なことをしたわけではなく、何度もそのような戦闘を繰り返す内に慣れていったのだ。
「今回も、僕は戦闘に参加しないから、そのつもりでね」
「ああ、分かった」
アレン達は、【小鬼の巣窟】に入っていく。いつもは一時間から二時間程だが、今回の指導では、約四時間程ダンジョン内に潜っていた。その間にいつもの三倍以上の敵と会敵した。中には、続々とゴブリンが集まってくることもあった。その戦闘は約三十分程続いた。
メルティは、自分が上手く出来るか危惧していたが、何とか指示をし続ける事が出来た。途中、指示を間違えたが、すぐに修正することは出来た。まだまだ拙いが、ギリギリ及第点というところだろう。
また、今回の長時間連続戦闘で、リック達の集中力が続かないという事も明らかになった。特にリックとニッキは、戦闘終了後にすぐ気を抜いてしまう。そのため、直後に現れた魔物への対処が遅れてしまうのだ。
逆に、メルティとガイは、常に気を張っていた。冒険者ではない人が聞けば、当たり前ではないかと思うかもしれないが、気を張り続けていれば、それだけ消耗が早くなってしまうのだ。
「アレンさんは、ずっと私と同じ事をしていたんですよね? どのようにしていたんですか?」
メルティが、アレンにアドバイスを求める。
「そうだなぁ……例えば、メルティとガイは常に気を張りすぎだね。それと、リックとニッキは気を抜くのが早すぎ。戦闘終了後は、周辺に敵がいないか確認する事。敵がいなければ、気を抜いて良いって感じかな。敵を警戒しなくちゃいけないけど、まぁ、正面は目視で分かるから、曲がり角や分かれ道を警戒していれば良いと思うよ」
「なるほど……」
「最初は難しいけど、段々と出来る様になるよ。上位に上がっていくと、そういうなんとなくの感覚が大事になる事もあるからね」
メルティ達は、アレンの話をしっかりと聞いて、胸に刻みつけておく。今回の探索では、修行の成果を出せなかったが、アレンは一切気にしなかった。修行の成果を、すぐに引き出せるとは限らないからだ。
「それじゃあ、マグネットに戻って自主練に移ろうか」
アレン達はマグネットに戻って、予定通りニッキとメルティの自主練を始める。
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