第9話 支援術について

 アレンは、メルティ、マリア、サリーの前に立って、指導を始める。


「何で二人もいるのさ?」

「改めて支援術を習っても良いかなってね」

「私も今の支援術をより良く出来るかもって思いまして」

「マリアはともかく、サリーはそこまで才能ないでしょ」


 アレンがそう言うと、サリーは頬を膨らませた。


「何よ。魔法の才能ならあるもん」

「そりゃ、魔法に関しては天才だけど」

「ふふん! そうでしょ!!」


 サリーは、一転満面の笑みになった。天才と言われた事が嬉しかったからだ。


(ちょろい……)


 三人の胸中は、全く同じ言葉だった。


「それじゃあ、支援術について教えるよ。皆も知っての通り、自分や他者の身体能力などを上げる効果と下げる効果がある。どちらも時間制限はあるけどね」

「それってさ、五感を強化とか出来ないの?」


 サリーが手を上げて質問する。


「う~ん、実は出来なくもないんだ」

「え? ですが、一度もやった事ないですよね?」


 マリアも首を傾げる。


「うん。あまり役に立たないからね」

「何で? 視力を強化したら、よく見えるようになるし、得じゃない?」

「そうでもないんだ。視力を強化しても、頭が処理できないんだよ。身体能力の方よりも戦闘に与える影響が強いしね。いきなり遠くまで見えても困るでしょ?」

「う~ん、確かに……近接戦闘を中心に戦っている人達にとっては、問題になるかも」

「レオニスなら、難なく使いこなせるかもだけど、僕達には難しいと思う」


 アレンの説明に、三人とも納得した。遠距離攻撃を基本としたパーティーなら、使えるかもしれないが、接近戦が基本となっているパーティーでは使えないものなのだ。


「冒険者は、近接戦が基本ですもんね。でも、どうしてなんですか?」


 冒険者になって間もないメルティがアレン達に訊く。


「確かに、遠距離で仕留められたら、それにこした事はないわ」

「でも、実際には、そううまくいきません」

「魔物がどこから来るか確実に分かる方法はないからね。いつの間にか背後に回られていたって事もあるくらいだ。だから、接近戦が基本になるんだ」

「なるほど……遠距離だけで固めておくと、距離が取れないときに困るって事ですね」

「それもありますが、一番の問題はボス戦です」


 マリアがそう言うと、メルティも言わんとしたことに気が付いた。


「ダンジョンのボス部屋は、狭いことが多いんでしたっけ?」

「そうだね。特に低ランクのところはね。Sランクになると、階層全体がボス部屋みたいなところもあるよ」

「それは……大変そうですね……」

「大変どころじゃないわよ。全員で力を合わせないと、すぐに死ぬわ」

「Sランクはそういうところって事。話を支援術に戻すよ」


 脱線してしまった話題をアレンが戻す。


「支援術で大事なのは、時間管理。効果時間が、どのくらいで切れるのかを把握する必要があるんだ。そうしないと、突然身体能力や力が落ちるからね」

「本当に全体を見ることが重要なんですね」

「そういうこと。じゃあ、早速支援術の使い方だけど……唱えるだけだよ」

「え?」


 簡単すぎる使い方に、メルティは驚く。


「それだけですか!?」

「うん。だから、誰でも使えるものって言ったでしょ? まぁ、その分、上達するには才能がいるんだけどね」

「そうなんですか。アレンさんは、支援術の才能があったって事なんですね」

「う、うん。まぁ、それ以外に出来る事がなかったんだけどね」


 アレンは苦笑いをしながらそう言った。


「基本は三つ。攻撃、防御、速度だね。実際は、攻撃を上げても多少速度が上がるんだけど」

「え!? そうだったの!?」


 メルティでは無く、サリーの方が驚いていた。


「いや、サリーには、前にも言ったけど」

「そうですね。伝えられています」

「え!? で、でも、私に直接関係ないんだから、覚えてなくても仕方なくない?」


 サリーは、アレンとマリアに白い眼で見られた。


「まぁ、いいや。他にも魔法攻撃上昇もあるけど、こっちは若干難易度が高いんだ。だから、まずは基本の三つからやっていこう」

「はい!」


 メルティは元気に返事をする。やる気十分のようだ。


「取りあえず、まずは使ってみよう。さっき上げた紙に詠唱は書いてあるから。コツは、しっかりとイメージをする事。何を使いたいのか、何をしたいのかをね。それが、短縮詠唱に繋がるよ」


 アレンはメルティだけでなく、マリアやサリーにも伝える。一応、一緒に講義を受けている二人にも、学びがあるようにするためだ。


「『彼の者の力よ・湧き上がれ』」


 メルティがアタックブーストの詠唱をする。しかし、不発に終わってしまった。


「あ、あれ?」


 アレンに出来ると言われていたメルティは、まさかの不発で焦りを覚えた。このままだと、アレンの期待に応えられないと思ったのだ。


「『彼の者の力よ・湧き上がれ』!」


 もう一度唱えるが、やはり発動しない。メルティは、もはや涙目になっていた。


「えっと、誰でも使えるからって、すぐに使えるとは限らないから、焦らなくて大丈夫だよ」

「は、はい!」


 すかさず、アレンがフォローを入れた事によって、泣き出さずに済んだ。ここで泣かれてしまうと、アレンとしても困ってしまう。


「えっと、メルティはどういう風にイメージをしているのかな?」

「力持ちになるみたいなイメージです」


 メルティのイメージは、ただただ漠然と力持ちとイメージしていただけだった。


「うん。そのイメージで合ってる。もう少し具体的なイメージに固められると、より効果的だよ。例えば、重い剣を持ち上げるとかね」

「アレンは、どういうイメージをしているのですか?」


 具体例を出したアレンに、マリアが質問した。実際には、随分前に聞いた事はあるのだが、メルティの指導を円滑にするためのサポートとして、質問したのだ。


「僕は、一撃一撃が重くなるようなイメージかな。簡単に言えば、相手を吹っ飛ばしているところって感じ」

「吹っ飛ばしているところ?」

「ああ……それは、アレンだからイメージ出来るのよ。まぁ、それは私達もだけど」

「?」


 サリーの要領を欠いた説明に、メルティは首を傾げた。すかさず、マリアが補足する。


「実際に、魔物を吹っ飛ばしているところを見ているんです。レオニスやダグラスという私達のパーティーメンバーがやっているので」

「僕にとっての、力の象徴はそれだったからね。本当に驚いたよ。魔物が宙を舞っていたんだから。僕には出来ない事だしね」


 レオニスとダグラスが、魔物を吹き飛ばしているところを見た時、アレンはああなりたいと憧れた。だが、アレンにはあんな風に魔物を吹き飛ばす力はないため、そんな風にもなれない。だから、強く憧れ、それが力という象徴となった。それが、アレンのアタックブーストにおけるイメージだ。


「こんな風に、何も見たことないものをイメージする必要はないよ。実際に見たことがある自分にとっての力の象徴をイメージしても良いから。そこら辺は、メルティのイメージしやすい方にして。でも、重要な具体的なイメージって事は覚えておいてね」

「は、はい!」


 そこからは、メルティのイメージ固めを皆でしていく事になった。マリアやサリーのイメージも合わせて教え、何とか一つのイメージに固まった。


「い、いきます!!」


 メルティは、杖を手に取って、集中する。


「『彼の者の力よ・湧き上がれ』!」


 メルティのアタックブーストが発動し、アレンの身体を赤い光が覆う。


「成……功……?」

「うん。上手くいっているね。成功だよ」

「やった~~!!」


 メルティは飛び跳ねて喜んだ。そんなメルティをアレン達は易しい視線で見守る。それに気が付いたメルティは、我に返って恥ずかしそうに俯いた。


「まだ、多少の上乗せでしかないけど、これから使っていけば、少しずつ伸びるから、そこは気長に頑張ろう」

「はい!」

「ちなみにだけど、魔法もイメージによる補完で効力が上がるから。そのための治療院での修行でもあるし」

「な、なるほど……頑張ります!!」


 メルティは、元気一杯にそう言った。そうして、今日の修行は終わりを迎えた。

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