第7話 アレンの戦い方
先頭を歩くアレンに、メルティが近づく。
「あの……本当に大丈夫なんですか?」
「あははは……まぁ、後衛が一人で戦うなんて無謀だと思うよね。でも、Sランクに達した後衛の冒険者が、低ランクのダンジョンで苦戦するなんて事ないよ」
いつも弱気なアレンが、笑ってそう言った事に、メルティは少し驚く。
「さっき、リックに難しいって言った支援術を施しながらの戦闘もするから、リックもよく見ておいて。まぁ、敵が弱いから、参考にはならないと思うけど」
「分かった」
リックは、素直に頷く。アレンの言うとおり、ここのゴブリンは、アレンからしたら取るに足らない相手だ。だから、支援術を戦いの中で掛ける必要もない。だが、敢えて、戦いの中で支援術を使う事で、リックの参考にさせようとしているのだ。
少しの間歩いていると正面に、ゴブリンが十体たむろしていた。メルティ達が今まで遭遇したゴブリン達は、最大で五体同時だった。十体同時は初めてだった。
「アレンさん、さすがにあの量は……」
「大丈夫。取りあえず、『防御上昇』」
メルティ達を緑色の光が覆う。
「皆は、周辺を警戒しつつ、見ていて」
「あ、あの……お気を付けて」
「うん、ありがとう」
アレンを杖を構えつつ、ゴブリン達に向かっていった。ゴブリンがアレンに気が付き、ボロボロの短剣を構えて、突っ込んでくる。
「『速度上昇』」
アレンは走っている途中で、スピードブーストを掛け、急加速する。一気に肉迫したアレンは、杖先をゴブリンの首に突き刺す。
「『攻撃上昇』」
アタックブーストを掛け、力を上げてゴブリンを突き刺したまま振り回す。その振り回しで、三体のゴブリンを吹き飛ばす。仲間がやられ、五体のゴブリンが動きを止めたが、一体のゴブリンが構わずにアレンに飛びかかる。
「『落ちろ比翼・折れた健脚・彼の者に重力の楔を』」
アレンは、飛びかかってきたゴブリンにスローダウンの呪荷を与える。結果、ゴブリンの速度が下がり、アレンの元まで届かない。そのゴブリンの顎を杖先で下から上に殴打する。攻撃上昇が乗った一撃は、ゴブリンの頭を千切り飛ばすことに成功した。
「『比翼の加護を我に』」
アレンの身体を青く強い光が覆う。これは、スピードブーストの上位支援魔法である比翼の加護だ。アレンの身体がさっきまでとは桁違いに速く動く。アレンは、ようやく動き出した五体のゴブリンの首を次々に杖で叩き折っていった。
「ふぅ……こんな感じかな。どう? 参考になったかな?」
「……なんで、そんな実力があってパーティーを追い出されるんだよ」
「これは、ここが低ランクだからだよ。Sランクとかになったら、通用しなくなるんだ。皆も覚えておいて。一応、戦いの支援術を使ってみたけど、相手が弱すぎて参考にはならないかな。でも、ああやって短縮詠唱が出来ないと、戦いながらだと使いにくいかな」
「支援術は、後衛が安全に行った方が効果的ということですか?」
「言いたい事はね。だから、支援術士を仲間にするか、メルティが覚えるかってことになる。ニッキには攻撃に集中してもらわないといけないからね」
メルティ達の中で、唯一安全に支援術を使えるのは、メルティだけだ。リック、ガイ、ニッキは、それぞれ攻撃に集中していないといけないからだ。僧侶であるメルティだけが、全体を見て安全に行動できる。
「でも、本当に、私に支援術が覚えられるでしょうか? 魔法は、相性が大切と言われていますよね?」
「それなら大丈夫。支援術は、低位のものなら、誰にでも使える魔法だから。僕がさっき使った上級のものは、相性が必要だけどね。僕は、支援術と相性が良かったから、支援術士になったわけだし」
「そうなんですか」
「改めて、これがSランクに至った冒険者の戦い方だよ。低ランクの場所なら、このくらいは出来るようになる。でも、それは高ランクのダンジョンでの戦いを経験しているからだ。皆には、まだ無理だから、こういう無茶はしないようにね」
アレンがそう言うと、リックも含めた全員が頷いた。アレンは、リックが頷いてくれたことに驚いた。それと同時に、アレンは少し嬉しく感じていた。リックが成長した事を実感したからだ。
「次からは、また皆に戦闘をしてもらうよ。支援は続けるけどね」
「分かりました。じゃあ、皆、周囲を警戒しつつ前進」
メルティの指示で、全員が動き出す。それから何回か戦闘を繰り返すうちに、段々と、アレンの支援術に慣れてきたのか、先程までよりも動きが良くなってきた。
「よし。動きが良くなってきたね。ただ、これは支援術ありきだということを覚えておいて。じゃあ、今日のところはこれで終わりにしておこう」
「なんでだよ。まだ戦えるぞ?」
リックが、アレンのそう言った。メルティ達も同様に、まだ出来るという顔をする。
「まぁ、そうだとは思うけど、今日はこれから皆に、課題を与えようと思ってね。それぞれの戦い方に則したものを用意したつもりだよ」
「課題?」
「まぁ、それについてはダンジョンを出てからだね。さっ、一旦外に出るよ」
アレン達は、ダンジョン探索を終えて、外に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます