第4話 マリアとの合流
メルティ達と別れたアレンは、マリアがいるかもしれないと思い、ギルドの方に移動した。すると、ギルドに着く前に、食料品の入った紙袋を持ったマリアに遭遇した。マリアは、いつもの修道服に身を包んでいた。ベールから綺麗な金髪が溢れている。
「アレン?」
「マリア、丁度良かった。少し話があるんだ」
「私に? じゃあ、これを持ってくれますか? 教会まで運ばないといけませんから」
「うん。お安いご用だよ」
「ありがとうございます」
アレンは、マリアが持っていた紙袋を抱える。そして、一緒にマリアが住んでいる教会に向かって歩いていく。
「まだ、街にいてくれて良かった」
「アレンの抜けた穴は、決して小さなものではありませんでしたから。それを埋めるために、まずは近くのダンジョンで、色々と試しているんです。アレンは、何をしているのですか?」
「僕は、冒険者の指導員をしてるよ。今日も、その仕事をしてきたんだ」
「指導員……確かに、アレンに向いている仕事ではありますね」
ニコッと笑って、マリアがそう言った。端整な顔立ちから繰り出されるその微笑みは、向けられた対象でない人をも魅了してしまう。ただ、アレンはそれにデレる事なく普通の顔をしている。これは、何度も見ているからという理由では無く、最初からだった。
「そうかな?」
周囲が立ち止まってマリアに見惚れている中、アレンは平然と返事をした。
「ええ、アレンは、いつも全体を見ていましたから。新人さん達の事も細かく見て上げる事が出来るでしょう?」
「まぁ、出来ていると良いけどね。一人気難しい子がいてね。そのことで、頼みたい事があるんだ」
アレンは、ここで本題に入る。いつまでも世間話をしているわけにもいかないからだ。
「そうでしたね。何でしょう?」
「治療をお願いしたいんだ。その子の妹なんだけど、病気で苦しんでいるらしい。その治療費を集めるために、早く強くなりたいだって。ちょっと無謀が過ぎるから」
「なるほど、私を薬代わりにするということですか」
マリアは、ジト目でアレンのことを見る。アレンは、焦って弁明する。
「い、いや、違うよ。いや、合っているかもだけど……完全な治療が出来なくても、少し病状を和らげるだけでいいんだ。強くなるまでの時間を稼げれば……って結局薬代わりではあるかもなんだけど……
「ふぅん……」
マリアが、アレンの顔を覗きこんだ。翠緑の眼がアレンの眼を捉えている。
(これは、ダメかな。まぁ、元々ダメだと考えていたけど。さすがに、こっちの都合が良すぎるし)
アレンが、リックになんて説明しようかと考えていると、マリアがくすっと笑う。
「じゃあ、交換条件で請け負います」
「交換条件?」
「はい」
マリアが要求するものが思いつかず、アレンは恐る恐るその内容を訊く。
「えっと……条件って?」
「ちゃんと対等なものですよ。アレンのお願いを聞きますから、今度、私のお願いも聞いて下さい」
「それだけ? なら、お安いご用だけど……」
アレンは、どんなものがくるかと身構えたが、普通の要求だった。いや、考えようによっては、重い要求だとも言える。どんな無茶な願いでも聞く必要が出て来るからだ。それでも、アレンは条件を呑むことを決めた。それが、リックのためになると信じて。
「決まりですね。では、早く教会に行ってしまいましょう。治療する時間も必要ですから」
マリアは、嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、そうだね」
アレンとマリアは、二人並んで教会へと歩いていく。教会に着くと、沢山の子供達が出迎えてきた。
「アレンだ!」
「本当だ!」
子供達がマリアと一緒に来たアレンに群がる。
「皆、相変わらず元気だね」
この教会は、孤児院としても運営している。この子供達は、全員親が亡くなったか親に捨てられたかした子供達だ。
「また、増えたの? 見たことない子供が増えている気がするけど」
アレンは、マリアの付き合いで何度か教会に来ている。そのため、子供達とも面識があるのだ。
「そうですね。両親を一遍に亡くした子を見つけてしまったので」
「運営は出来ているみたいだけど、資金繰りは?」
「私のお金をほとんど入れているので、問題はありませんよ」
マリアは何でないかのようにそう言った。冒険者として上位に位置するマリアの資金は、かなり多いが、貰う都度教会に寄付しているということは、貯金はあまりないと考えられる。
(それは、結構な問題なんじゃないかな。多分、普通に寄付するって言っても聞かないだろうから、どこかで隠れて寄付しておこう)
マリアが少しでも楽できるようにと考えて、アレンはそう決意した。アレンは、あまり散財するタイプでは無いので、お金はかなり貯まっていた。
「おやおや、珍しくお客様が来ているみたいね」
教会の奥から、教会の主であるシスター・カトレアが来た。
「お久しぶりです、シスター」
「ええ、久しぶりね、アレン。今日は、祈りを捧げに?」
「いえ、マリアに頼みがあって来たんです」
「そう。じゃあ、その荷物は預かるわ」
シスター・カトレアが、アレンの持っていた紙袋を受け取り、教会の奥に戻っていった。その際に、アレンに群がっていた子供達も連れて行った。
「では、その子の元に向かいましょう」
「そうだね」
アレンとマリアは、教会を離れて、スラム街に向かった。
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