第3話 初の指導(2)
それから、五回ほど魔物との戦闘をしていった。アレンが思っていたよりも、動き自体は悪くないが、リックが少し乱している部分があった。
(リックがもう少し足並みを揃えてくれれば、低ランクのダンジョンなら攻略出来ると思うんだけど)
アレンには、メルティ達について、他にもいくつか気になる部分があった。それに関しては、一度街に戻ってから指摘する事にした。
「ニッキは、ウォーターアローばかり使うね。何か、理由があるのかい?」
この五回の戦闘で、ニッキはウォーターアロー以外の魔法を使っていなかった。魔法の利点の一つは、その柔軟性にあるはずだ。その時に合った多種多様の魔法を使うのが一番だと言われている。
「これが一番、扱いやすいの。撃った後にも、動かせるし」
「なるほど。確かに、今までの状況なら、それが一番なのかな。でも、場合によっては、別の魔法を使う必要もあるから、そこらへんも考えておくようにね。それと、高威力の魔法は使える?」
「一応出来るよ。魔力を結構消費しちゃうけど」
「なら、大丈夫かな。これから、物理では倒しにくい相手も出ると思うから、その時は、ニッキ頼みだよ」
「うん!」
ニッキには、きちんと考えがあったみたいだ。しっかりとそういう考えを持っているというなら、問題ないだろう。かつての仲間であるサリーは、魔法を同時にいくつも操っていた。そのため、アレンの感覚は少しだけ麻痺していた。普通は一つの魔法を操る事しか出来ない。
(サリーのあれは高等テクニックの一つだ。だけど、サリーは、これを努力で身につけていた。その点を考えれば、ニッキも使えるようになるかもしれない。後で、色々と調べてみよう)
そう考えつつ、アレンはメルティの方を向く。
「メルティは、即席結界しか使えないのかい?」
「そうですね。結界術は、即席しか使えないです。すみません」
「いや、その歳で、即席を使えるなら良い方だと思うよ。ただ、これからの戦闘で他の結界術も使わないとやっていけないから、覚えておいた方が良い。今度、マリアが使っていたものの一覧を作ってくるから、参考にして」
「あ、ありがとうございます」
「後は、指示出しだね。今のところ問題は無いから大丈夫だけど、これから処理しないといけない情報も増える。判断を早く出来るように、今の内に鍛えておこう」
「はい!」
二人の気になった部分は、このような感じだった。
「ガイは、今の調子でいこう。今のところ、動きは文句なしだ」
「ありがとうございます」
ガイに関しては、言うことなしだった。すぐにリックの補助に動き、後衛が危なくなるタイミングの前には、そちらに移動している。メルティと同じく全体を見て動けている証拠だ。ただ、攻撃を引き受けるという立場上、仲間への指示出しにあまり向いていない。こればかりは、後ろから全体を見守る事が出来るメルティが適任だ。
メルティ達の気になる部分についての指摘は終わった。リックも話を聞いてくれれば良いのだが、完全にそっぽを向いている。これでは、何も言えない。
(どうしたら、話を聞いてくれるんだろうか……)
今一番の悩みはこれだが、すぐに解決はしそうにない。
「じゃあ、今日はこれまでにしよう。明日も、ダンジョンに潜るんで良いんだよね?」
「はい。お願いします」
「もう、いらねぇよ。結局、お前は何もしてないじゃねぇか」
リックがぶっきらぼうにそう言った。
「はぁ……指導員として言っておくけど、このままだと君は、すぐに死ぬことになるよ」
「なんだと!!?」
リックが、アレンの胸倉を掴む。
(ここで、きちんと言っておく方が良いかな)
アレンは、リックの態度などを見て、適切な時期まで言わないでおこうかと考えてた事を、伝える事にした。
「何を急いでいるのかは知らない。でも、そうやって自分勝手に動く人間は、自分で危険なところに突っ込んで死ぬんだ。僕は、冒険者をしている時に、その光景を何度も見た。だから、何度でも言う。今の君が、このまま別のダンジョンに行けば、死ぬことになる。頼むから、僕の指導を受けてくれ」
アレンはまっすぐリックの眼を見てそう言った。リックは、アレンから眼を逸らした。
「それか君がそんなに早く強くなりたいわけを教えてくれ。それで、上のダンジョンに行くことはしないが、なるべく早く強くなれるように、色々と協力する事は出来る。逆に言えば、君が何も言ってくれないと、僕は同じ事を言い続ける事しか出来ない」
アレンがそう言うと、リックは、何かを悩んでいるような顔になった。アレンに話すかどうかを考えているんだろう。
「……!!」
話す決意をしたのかアレンの胸倉から、手を離した。そしてぽつりぽつりと話し始める。
「妹が病気なんだ。そのために、早く稼げるようになりたいんだ。だから、早く上のダンジョンに行きたいんだよ……」
「そうか。なら、尚更、ここで地盤を作った方が良いね」
「なんだよ! 協力してくれるじゃねぇのかよ!?」
「ああ、だから、ダンジョンでの指導の他に修行をする気はあるかい?」
「は?」
リックは、何を言っているのか分からないという顔になった。
「君に足りないものを補うための修行だよ。どうする?」
「……やってやるよ。それで、本当に強くなるなら」
「じゃあ、明日からにしようか。それと、君の家はどこか聞いてもいいかな?」
「は? 何でだよ?」
「君の妹の治療に役立てる可能性があるからだよ。まぁ、それは、僕じゃなくて、僕の元パーティーメンバーが街にいてくれたらだけど」
マリアは、医療魔法のスペシャリストだ。もしかしたら、リックの妹の病気を治すのに、力になれる可能性がある。
(向こうが了承してくれたらだけど)
アレンは、マリアの性格的に了承してくれるのではないかと考えているが、実際にどうなるかは分からない。
「マグネットの東にあるスラムの入口付近だ。赤い煙突がある家」
「そうか。分かった。じゃあ、今日は解散しよう。皆、今日言ったことを復習しておいて」
「分かりました」
「明日もよろしくお願いします」
「じゃあ、また明日」
アレン達は街の入口付近で解散した。
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