イキ狂い

あれから数ヶ月の時が経った。

彼女が現れなくなったのは、もしかして自分の迂闊な行動のせいだったんじゃないか。

そう考えると夜も眠れない日が続いた。


でも、彼女自身が言っていたじゃないか。これからも友達でいてくれるって。

姿を見せなくなったのは、きっと多忙のせいか、大怪我でもしたか……。


違う原因を考えると、今度は別の理由で不安が募ってくる。

彼女はどこに行ってしまって、今何をしているのだろう。


胸がはち切れんばかりの思いだったが、こんな時でもゲームをしなきゃ落ち着かないのは、つくづく自分がネット依存症だと実感する。


とりあえず、いつものサーバーではなく、友人が属している別のサーバーにログインしてみよう。


そうしてキーボードを叩き、マウスを動かして入ったボイスチャットからは、聞き覚えのある声が響いてきた。




「でさ、あいつ、あたしに突然告ってきたわけ。マジ出会い厨だったって訳よ。クソきしょいんだなこれが」


「わはは。まーあいつ、いかにもキモオタって声と喋り方してるもんな」


「すぐどもるしw」


「もういい歳だろあいつ」


「しかもデブらしい」


「やばwww」




いや、聞き覚え、なんて、なくて。

聞き違い……か?


さっきとは違った理由で心臓が縮む思いだった。

あれほど会いたかった彼女なのに、いまだけは別人であってほしいという願いが切実にわだかまる。


僕が好きになった人は、こんなことを言う人だったろうか。

そして、その告白した出会い厨って、まさか。僕のことなのか。




「……」




ボイチャにいた誰もが、僕に気づいて沈黙した。

見知った友人も。最近見なかった彼女も。皆が全て、一様に。


なんでなんだよ。

なんで、そんなによそよそしいんだ。


僕らは仲が良かったんじゃないのか。

それとも、そう思っていたのは、僕だけなのか。




「あら、久しぶり!いらっしゃい!」




彼女が、取り繕った様な空元気で沈黙を破る。

演技が上手い人だと前から思ってはいたが、今回ばかりは、少しばかりの動揺が見えた。


なんで動揺なんてする必要があるんだ?


みんな、俺の知らない何を知っているというんだ?




「久しぶりだね、最近見なくて心配したよ」


「ごめんごめん。ちょっと気分転換、ってやつでさ」




あくまでシラを切り続ける彼女。怪しくても確証は浮かばない。

気まずい空気が流れるボイスチャットに、新たな人物が姿を表す。


その男の言葉は。何もかもを破壊して。


僕の理性を繋いでいた最後の琴線を、容易く断ち切ってみせた。




「おーい、もうそろそろ遅いから寝ようぜ。布団は敷いといたからさ」




————————————————。




同棲してんのかよ。

いや、まあ、いいわ、それはこの際。

いつからなんだ?なんで言ってくれなかった?

僕がダメでも、いいよ。だけど誤魔化してほしくなかった。


出会い厨って思ってたのか。友達で、それ以上になりたいなんて考えていた僕は烏滸がましかったのか。


今まで過ごしてきた時間が、全て嘘で偽物だった。

それが証明された瞬間はなんとも虚しくて、同時に腹立たしくて、キーボードを叩き壊してボイスチャットを抜ける。




———許さないよ、お前は。


確実に復讐する。

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