第13話 僕の足を動かす念動力
楽しそうに食器を洗っている姿を見ていると優しいイメージなんだけどな。昨日の怒った時の冷たい笑みを思い出すと……。
うん、きっと僕の考えすぎだろう。
僕は何度も痛い目にあったが、見たくないものは見ないようにするのだ。
先送りできる問題は未来の自分にたくす。
これで失敗してきたことばかりだが、人間そうそう変わることはできない。
彼女が食器を洗い終わると僕の方へ振り向き素敵な笑顔で言ってきた。
「まさか、死んでから友達を紹介できるようになるなんて嬉しくて仕方がないです。ちょっと気難しいんですけど、本当はとっても照れ屋なだけで優しいとてもいい子なんで誤解だけはしないであげてくださいね」
一瞬もしかして、食われるんじゃないかと思ったのは彼女には言えない秘密だ。
幽霊に紹介される友達が気難しいっていうだけで、かなりハードルが高い。
「ハッハハ……僕も楽しみだよ」
果たしてうまく笑えていただろうか。
こんなに可愛いのずるい。
まぁそんなに悲観しても意味がない。この現代だ。たとえ幽霊と会うとしても、もしかしたら人ごみの中だったり、それなりに逃げ出せる環境のはずだ。
少し緊張はするが、怒らせずに上手くやり過ごせばいいだけだ。
僕はこの辺りの地理を思い浮かべてみる……うん。特に危険な場所はなかったはずだ。
凶悪な事件や、悲惨な事故が起こったなんて話は聞いたことがない。
それにゆかが、怨霊とかそんなのを紹介するようには思えなかった。
「それじゃあ行きましょ!」
彼女は触れられない僕の手を念動力で握るようにしてリビングから飛び出していった。
彼女は本当に友達を紹介できるのが嬉しいようだ。彼女の笑顔はまるで太陽のように明るい。
「あれっ? どこへいくの?」
玄関に向かうのかと思ったら、向かったのは1階の和室だった。
「大丈夫ですよ」
急にゆかの笑顔が怖く感じる。
都会で怪しい絵のキャッチに引っかかって、怪しい印刷の絵を買わないか説得され続けた時くらい怖い。
あの人も美人だったけど。
「ゆか? ゆか?」
「だいじょうぶですって。ヒヒヒッ……」
ゆかが押入れの扉をあけると、そこには銀でできた扉に金が縁どられた豪華な扉があった。この家にこんなオプションがあるなんて聞いてない。
なんだかわからないけど、あきらかに身体中で警報を発令していた。
すごく不安だ。
入っちゃダメだ!!
「ゆか、それなに?」
「ここから行くのが一番近いので。どうぞ遠慮せずに」
僕の足は、僕の意思とは関係なくかってに進んで行く。
あきらかに念動力を使われている。
「ゆか、おかしいよ。ねぇ勝手に足が進むんだけど! ねぇ! ゆか!」
ゆかはいつもの優しい笑みを浮かべているだけだった。
これは……食われるやつだ! 間違いない!
今までここに住んだ住人も、もしかしたら魂だけを食われて死んでしまって廃人みたいになってしまったのかもしれない。
そして、僕の抵抗むなしく僕はその扉をくぐった。
「うわぁ眩しい……」
一瞬明るい光が射すとそこには、大きな塀に囲まれた洋館があった。庭にはピンクや赤、黄色などカラフルな色の花が植えられている。
「ゆかここは?」
「ここはベアちゃんが住んでいる狭間の世界です」
あっこれあれだ。説明を受けたとしても僕の理解を超えているやつだ。
身体をおおう恐怖心と、目の前の明るい花畑が何かわからない恐怖心をさらに大きくする。
「それじゃ行きましょうか」
目のまえにあった大きな門が自動で開いていく。僕の足は完全に僕の意識から切り離されて勝手に進んで行く。僕の想像で彼女をはかろうと思っていたのが間違いだった。
次回からはもう少し聞いてから行動しよう。もちろん、次があればだけど。
そして僕は怪しい門をくぐり、家の中へ歩かされていった。
僕の意思は完全に無視されて。
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