第5話 幽霊がでるアパートなら格安ですよ?
翌日漫画喫茶からでると、空には快晴が広がっていた。
雲一つない青空は見ていて気持ちがいい。
それに漫画喫茶のサービスで軽くシャワーを浴びたので、身体もリフレッシュできた。
「よし、まずは不動産会社からだ」
僕は漫画喫茶で調べておいた不動産会社を一軒、一軒回って行くことにした。
どんなところでもいい。
まずは拠点を決めないことには住所も移せないし、仕事にもつけないのだ。
きっとなんとかなる。
だけど、それは甘い考えだとすぐに思い知らされることになった。
家を借りるには社会的信用が必要なのだ。
僕には保証人になってくれる人がいない。
前回の家の時には、仕事をしていたので保証会社が間に入ってくれることで、なんとか家を借りることができていた。
だけど、今回は無職で保証会社も難しかった。
だいたい、無職で住む場所がないというだけで、話すら聞いてもらえなかった。
こんなに苦戦するとは……。
不動産会社を回りだして5件目。
心が折れそうになってきた頃、田崎不動産という地元密着型の店のオーナーが初めてまともに僕の話を聞いてくれることになった。
「……というわけで一文無しになりまして、今家を探しているんです」
「それは……可哀想にね」
店主の田崎さんは目に涙をいっぱい浮かべて話を聞いてくれた。
「そうだな……このアパートなら一カ月5万円だけど、私がオーナーに交渉して4万円までまけてあげられると思うよ」
「できれば……もう少し安い方が……」
「安くてもここの3万円かな。だけど、ここは駅から遠くて車がないとちょっと厳しいんだよ」
地図を見せてもらうと、確かに歩いて駅まで行くのにはかなり時間がかかる。
「田崎店長、それなら駅まで歩きで行けて1万円のあの家なんてどうですか?」
「いや、美咲ちゃんあの家はダメだって」
事務の子が田崎さんに資料を渡そうとするが、それをダメだと返してしまった。やっぱり、僕のような人間には貸せない物件というのもあるのだろう。
「だって、これも人助けですよ。最上さん幽霊とかって信じますか?」
「幽霊? 信じてはいないですけど。それが何か?」
事務の子は田崎さんを無視してそのまま話を続けた。
「さっきの物件よりも格段に駅までは近いです。そして一軒家です。ただ、庭の草刈りなどの手入れが必要なのと、築年数がたっているのと、幽霊がでるっていう話なんですけど、1万円でどうですか?」
「そこは何かいわくつきとかなんですか? 誰かが亡くなっているとか」
「いや、それはないんです……。ただ、住んだ人が幽霊を見たとかって言いだして、それから何人か紹介したんですがやっぱりダメで、長らく借り手がつかないんです」
「借ります!」
幽霊がでても、雨風しのげる方がはるかにありがたい。
漫画喫茶もいいが、意外とお金がかかるのだ。
「ちょっと! 最上さん何を言うんですか。幽霊がでるんですよ。僕は反対だな。他の物件なんとかならないか聞いてみるからね」
「でも、田崎店長、最上さんは今家財道具もないんですよね? あそこならいくつか残ってますし、今日から入居可能なんですよ」
「うっ……確かにそう言われると……」
なぜか、事務の子が強くおしてくれている。
店主の田崎さんの方が弱腰だった。
「最上さんも幽霊と多少同居しても家財道具があって固定費を抑えられて、なおかつ自分の住所が手に入った方がいいですよね?」
「もちろんです! 田崎さん僕をそこに住まわせてください」
僕はテーブルに頭をこすりつけて、靴でも舐めますよってくらいの勢いでお願いした。土下座を前の職場でいつもしていたせいで、頭を下げることに抵抗がない。
土下座で許可がおりるなら軽いものだ。
「困ったなぁ。もうっ、わかったよ。その変わりもし嫌になったり、変なことあったら言うんだよ? 僕は今そんな不幸な目にあったのに幽霊がいるような物件を貸してさらに不幸なことにならないか心配なんだ」
田崎さんはその物件で死なれたりして本当の事故物件になってしまうことを危惧しているらしい。だけど、僕には他に選択肢とかない。
それに一軒家で1万円なんて、そんな物件探したところで絶対にでてくるわけない。幽霊と同居くらい、今の不幸から比べたらなんとことはないのだ。
「大丈夫です! 僕、霊感とかまったくないんで!」
「困ったなぁ。本当に気を付けてよ」
僕は、田崎さんのおかげで敷金礼金などもすべてなしで家を貸してもらえることになった。
幽霊なんてまったく信じていなかった僕だったけど、その家には本当に幽霊が住んでいた。
とっても可愛いくて、ちょっと秘密がある、そんな幽霊が……。
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