第4話 火災の原因

 僕は最寄りの警察署へ事情聴取を受けにきていた。

 悪いことをしたわけじゃないのに、なぜか警察というだけでドキドキしてしまう。


「出火の原因は今のところ調査中なんだけど、君の下の家には誰も住んでいなかったから放火の可能性もあるね。それと、君が心配していたストーカーの件は警察にまでは連絡がきていない。きっといたずらのつもりだったんだろうけど。どうする訴えることもできるけど?」


 僕はそのまま力なく首を横に振る。今さら会社にいたずらだと言ったところで、クビという判断をした会社はわざわざ僕を復帰させたりはしないだろう。


「まぁ、そうだな。辛いこともあるだろうけど、君はまだまだ若いんだからそんなに落ち込むことはない。今日のところは帰ってゆっくり……うっゴホッ、ゴホッ近くにホテルとかあるからそこで少し今後のことを考えてみたらいい。大丈夫だ。君には未来があるからな」

「ありがとうございました」


 僕の部屋は完全に燃え尽きるのは避けられたが、家の中は水と煤で汚れてしまって使えるものは何もなかった。いや、新しく買った薬缶はもちろん無事だった。


 手元にあるのは通帳、薬缶、財布にスマホ……もう、心折れてもいいだろうか?

 そんなことを思ってしまう。本当に身体に力が入らなくなることってあるんだな。


「はぁー」

 警察署をでて大きくため息をつく。

 本当にすべてを失ってしまった。


 ここまでくればいっそ開き直るしかない。どこか楽しいところにでも旅行に行こうか。


 そうだな。樹海でのハイキングや断崖絶壁から海を眺めるなんていうのはどうだろうか?


 僕を縛るものは何もない。守るもののない人間ほど強いものはないのだ。


 警察から出たその足で近くにあった漫画喫茶に入り、僕は足をまっすぐに伸ばせて寝れないフラットシートを借りて仮眠をとる。


 明日から僕の素敵な人生が始まる。もう引きこもる場所さえなくしたんだから、行動するしかないのだ。


 僕は身体を丸めてゆっくりと眠りにつく。

 明日はきっといい日になる。

 だって、これ以上失うものなんてないんだから。



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