第178話 ~ とある劇の傍観者たち ~

「苦悩するダーリン、かっけぇ」

「さすごしゅ……」


「ん~、黒の王、負けちゃいますけどね」

「そう、勝つのは銀の王を演じるルベルト」


 ぼそりと呟いたフィアの隣席、関係者向けの特等席に腰掛けた猫虎人のセリアがこたえれば、うんうんとセリカもうなずく。


 この物語は多様な形態があって、中盤から終盤にかけての変化にんでいる反面、最後は主人公が黒の王ジェオに打ち勝つという結末へいたるのだが、劇中の話と聞き流せない忠犬が一匹。


「黙れ、雌猫」

「何、喧嘩売ってるの?」


「もうっ、言葉づかいが乱れていますよ、ウルリカ」

「リア姉、年端としはもいかないに本気で怒っちゃだめ」


 一瞬だけ、飼い主をあなどられた際の沸点が低い人狼娘と、猫虎娘が睨み合って目に見えない火花を散らすものの、姉代わりの司祭と実妹にとがめられてしまう。


 そうこうしている内に次幕は上がり、領土の一部に居座った辺境伯と諸侯らの連合軍を追い払うべく、交戦国の王が大規模な軍勢を派遣する場面となった。


 迎え討つ黒髪緋眼の王も編成させた二千の軽装騎兵に加えて、彼らに追随ついずいする従卒や輜重しちょう隊をともない、初戦の勝利によって見解や利害の差が生まれた貴族達をまとめるため、く占領地まで駆けつける。


 急転する状況下、まだ事の発端ほったんとなった銀髪碧眼の王は迷いの中にあり、麾下きかに出撃の号令を掛けられないでいた。


「…… 援軍の兵を動かすなら、いまが瀬戸際せとぎわです」

「隣国が侵略者にあらがえず、手遅れとなる前に御英断を……」


 優しさゆえ、優柔不断な性格が演者本人に似ているかも? と双子姉妹が思っていれば、苦悶の末に結論を導き出した銀の王が立ち上がって、側近の者達に宣誓せんせいする。


「もはや勝とうが負けようが、この腕に最愛の人を抱き締めることはない。それをって私怨によらず、我が国の利益によってのみ、兵卒らの血を流すと証明しよう!」


「御心のままに… こちらへ飛び火しても困りますからな」

「中長期的に見ると国家間の均衡きんこうが崩れるのもよろしくない」


 人的損失を恐れるあまり、敵対勢力の隆盛を許して、後世に滅ぼされるのは勘弁願いたいとうそぶき、側近らは戦支度いくさじたくの為にきびすを返した。


 その一幕を半人造の少女ハーフホムンクルスが呆れ交じりに一言。


「理想や大義に生きる馬鹿おとこって、身勝手よね」

「えっと、これって渦中かちゅうの娘が幸せになれる御話おはなしでしたっけ?」


 想い人から見放されるような展開にフィアが不安を覚え、そっと誰にでもなく問い掛ければ、愛しい先輩の台詞を聞き逃すまいと猫耳など立てていたセリカが答える。


「終盤の展開は何通りかあるけど、悲恋に終わりそう」

「うぐっ、磔刑たっけいとか、火炙ひあぶりされないのを希望……」


 歴史的に異端扱いされていた地母神派なのもあり、魔女裁判的な絵面えづらを司祭の娘が脳裏に浮かべるも、そうまとを外している訳ではない。


 順当に物語は進み、黒の王が優れた統率力で交戦国の本軍を退しりぞけた後、王都まで追撃する道中にて、手枷をめられている若い娘が陣幕へ連行されてきた。

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