第169話

「さて、幕引きにするか… 任せたぞ、落とし子クトゥルヒ

いぁうあるおぅしょうがないなぁるぅもぅ~』


 やれやれと言った感じを声に滲ませて、背後より意志ある水で形作られた禍々まがまがしい雰囲気の戦巫女が紫電のごとく飛翔する。


『くくっ、あはは!!』

「ウゥ、グガァ―アァ――ツッ!!」


 響く嘲笑ちょうしょうに名状しがたい脅威を感じたか、または溜め込んだ諸々もろもろが臨界に達したのか、身のたけ三メートルに及ぶ大きな人外娘を狙い、容赦なく六本肢の偽竜が炎熱のブレスを斜に放った。


 念のため、足場となる浮氷ふひょうを瞬時に形成しつつ、連続的な跳躍での退避を選んだ俺が観戦する最中さなか蕃神ばんしんの眷属は戦斧ハルバードの切っ先で豪炎を切り裂きながら突撃して、大きく開かれた口腔こうくうに武骨な得物を込む。


 断末魔を上げることも許されず、一瞬で内部から臓腑ぞうふを凍らされたとおぼしき巨獣が表皮まで霜まみれとなり、か細い呼気を漏らした。


「―ッ――ッツ―――」

「身体の内側を鍛えることは難しいからな」


 これも一つの結末かと、急速な “多臓器不全” で死に逝くタラスクのまぶたが閉じられるのを眺めていれば、人外娘がぐりぐり戦斧ハルバードをこねくりまわし始めて、錨爪びょうづめの部分に引っ掛けた小岩のようなマナ結晶体を抜き出す。


 それを大事そうに抱えて近寄り、悪意なく上空から投げ落としてきた。


「ちょ、おま……」


 身体強化の術式は継続しているので、50~60㎏ほどの質量を受け止めることに問題はないものの、浮氷ふひょうの上で激しくバランスを失い、冷たい湖沼に落ちてしまう。


『いあいあ、むぐるうなふ~♪』


 水没する間際まぎわあせり顔で見上げた水の戦巫女は満足げに歌い、ささげた希少な “青い灰簾石タンザナイト” ごと虚空に消えていった。


 くして、偽竜の結晶体と魔導書を水中で別次元の空間へ納めた後、ずぶ濡れになった俺はうの体で泳ぎ、何とか湖面の凍っている場所まで辿り着く。


 ふと差した影に顔を上げれば、微妙な表情で縁に立つリィナが手を貸してくれた。


「ダーリン、いつも最後は締まらないね」

「ふふっ、最初に土蜘蛛から助けてくれた時もです」


「いや、糸が髪にからんで、切られそうだったフィアに言われてもな」


 照れ隠しの軽口を叩きつつ引き上げてもらい、二本のなた剣を軽く擦り合わせて獲物の解体へ向かう半人造の少女ハーフホムンクルスに対して、甲羅の棘以外も誘爆し兼ねないので魔力探知を挟めと忠告する。


 きっと彼女の性格なら、巨獣の亡骸が宝の山に見えているはずだが、すべての部位を持ち帰ることはできないため、これから多少の時間を掛けて厳選するのだろう。


 その隙に身体をかわかすべく、深く考えないまま落水らくすいともなう常識通り、装備や濡れた衣服を脱いで半裸になると、阿吽あうんの呼吸で司祭の娘が外套を差し出してくれた。


「使ってください、ジェオ君」

「ありがとう、気づかいに感謝する」

 

 ほのかな香りが残る防寒具を受け取り、遠慮なくそでを通していれば、“引き締まった体躯たいくき… 水もしたたるいい男?” とフィアの小声が漏れ聞こえてくる。


 武士のなさけで指摘せず、何事もなかったように衣服持参で岸辺へ移動して、適当に散乱する流木や小枝を集め、生活魔法の火を強めに左掌の先へともした。 


 どれも水分が抜け切ってないようで、あまり派手に燃えることなくくすぶり、徐々に灰色の面積を広げていく。


 そんなり合わせの焚火が弱まった頃、大きな爪や牙などの目ぼしい生体素材の確保を済ませたリィナも、ほくほく顔で一時的な休憩の場に加わった。



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とりま、タラスクの討伐編もここまでです!

読んでくれた皆様に感謝!!


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表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16816927860966363161 )

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