第158話 ~とある第二王子らの遠征③~

「お手上げとは言わないが、決め手に欠ける。勝利の確証を得られない時点で、戦い続けるのは無謀か… 皆、一度ひるませて撤退するぞ!!」


 大声を張り上げながら、軍刀の他に飛び道具も扱うレオニスは短弓を構え、一本の矢すらつがえないままに弓の弦を弾く。


 空撃ちされた得物からは数本の光条が弧を描いてはしり、再び閉じられたタラスクの右眼付近へ収束して、硬いまぶたに傷を負わせた。


 直後、好機と見た某家の侍女が身体強化の術式を腕力一点にしぼり、独楽こまのように回転しつつも鋸刃のこばの大太刀を振るうことで、偽竜の左前あしに裂傷を与えて流血させる。


 ほぼ同時に吶喊とっかんしていた拳闘士の青年も渾身の一撃を喰らわせ、打突の衝撃を輻射ふくしゃさせる独自の固有魔法 “激震” にて、内側より右前あしを損壊させた。


「アァアアァ―――ッ!!」


 苛立たしげにえた怪物は六本肢のうち、たわめた四本に多大な魔力を宿やどらせると、なかば強靭な膂力りょりょくで巨躯を浮かせた状態となり、倒れ込むように地面を踏み砕く。

 

 轟音と共にき散らされたれきや土塊は、本能に根差した何らかの術理で硬質化されており、無秩序な散弾となって第二王子らに襲い掛かった。


「ッ、お嬢様!!」


 常に護衛対象との位置関係をかんがみているゆえ、一撃離脱の際に主のそばへ下がっていたイングリッドが身をていして楯となる。


 斜に構えた大太刀で最低限の急所をかばい、激痛に耐えようとするも… 僅差きんさで対物障壁の魔法が展開されて、彼女まで届くのは貫通時に威力をがれた飛礫ひれきのみ。


 ちなみにオルグレンも鍛え抜いた体躯たいくかして、両腕のガントレットを構えながら友の前方に躍り出たのだが、こちらも聖楯の魔法で逆に護られたので、幾つかの中程度に満たない負傷で済んだ。


「良い判断ですけど……」

「あまり無茶はするな」


 やや呆れ気味な無傷の仲間、エミリアとレオニスの短い言葉を受け、所々に血をにじませた二人が反駁はんばくするよりも早く、潮時と判断した斥候役の一組が草叢くさむらから、閃光音響弾フラッシュバンの魔封石を複数投じる。


 それを見た全員が素早く反転して、迫る六本肢の偽竜に背を向けた矢先、宙空でまばゆい閃光と爆音が連続的に生まれた。


「グゥッ!?」


 突然、視覚と聴覚を奪われたことで獰猛ねいもうな怪物は前あしを振るい、闇雲に尻尾の打撃まで放つが、湿地帯の草花を根こそぎ吹き飛ばすだけの徒労とろうに終わる。


 狩るべき獲物であった者達は攻撃の範囲におらず、直接戦闘に参加しないメンバーとの合流地点である階層の連結部へ向け、其々それぞれに悪路を駆けていた。


 その最中さなかに聖句を唱え、風に乗せて離れた相手の傷を治癒する魔法などつむぎ、身内の怪我を回復させた公子が忌々いまいましげに呟く。


「…… 失態以外の何物でもないな」


人死ひとじにが出てないだけ、救いがあると思いましょう」

「まだ、第一王子らと同じてつを踏んだに過ぎません」


 何やらネガティブな発言を聞きとがめて主従の令嬢が励ませども、運悪く斥候役の一人が飛礫ひれきの流れ弾を受けてしまい、側頭部を穿うがたれて死んだと知るのは少し後のことであり、地上への帰路を陰鬱いんうつなものに変えた。



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ここまで読んで頂き、ありがとうございます!!


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表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16816927860966363161 )

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