第157話 ~とある第二王子らの遠征②~

 そうして送り出された四人ではあるが… 早々に苦戦をいられてしまい、有効打を与えられないまま、不本意にも防御の一辺倒となっていた。


 さりとて未だ崩壊せずに済んでいるのは、ひとえに壁役をになう “鉄腕” のオルグレンが皆の前へ立ち、巨大な “六本肢の偽竜” タラスクが放つ猛撃をしのいでいるゆえだ。


「ヴォオオォ―ッツ――」

「ぐぅうッ、気合と根性ぉおお――!!」


 などと叫んでいるものの、重ね掛けの身体強化術式をほどしている当人は瞬時の算段により、適切な傾斜けいしゃを持たせて構えた両腕の手甲にて、旋回しながら振るわれた丸太のごと尻尾の一撃テールバッシュを斜め上空へ受け流す。


 みずからの武装にまでマナから転じた魔力をまとめて付与するという、極めて高度な手法で物理強度を引き上げているあたり、まったくって精神論とはほど遠い。


 その有様ありさまに失笑しつつも攻撃後の隙を突いて、疾風のように駆けた公爵家の侍女イングリッドが重量を支える前あしのひとつ目掛け、鋸刃のこばの大太刀を添えて引き切った。


 ただ、皮膚までもが硬い偽竜を相手取るため、いつもの暗器を諦めて切り替えた両手持ち武器の効果は十全と言えず、一瞬にして三連の斬撃を加えたところで幾ばくかの切傷せっしょうが増えるだけ。


「ッ、これだと毒の効きも期待できない」


 様々な知識を求められる立場の職業病と言うべきか、特徴的な刃金はがねに塗り込んだ植物系の神経毒につき、無駄になってしまうと嘆く黒髪少女に向け、ぞんざいに振るわれた太い前あしが迫る。


 攻めに意識をいていたので回避の初動が遅れ、柔らかい太腿を鋭い爪でえぐられそうになった刹那、突発的な魔力や装着者の危機意識に反応する “斥力せきりょくのタリスマン” が砕け、すべての運動エネルギーを即時に逆転させた。


「グゥ?」


 想定外の不自然な押し戻しに偽竜は違和を感じるが、六本もあしがあるだけに安定しており、体勢の揺らぎは微塵も生じない。


 それでも、貴重な金貨六枚分の贈り物プレゼントが失われた事実に目をつぶって、大きな顔面へ撃ち込んだ公爵令嬢エミリアの中級魔法、“紅蓮華-繚乱” による焔は着弾の直後に炸裂して、爬虫類染みたまぶたを閉じらせた。


 派手に咲き乱れる爆炎が湿地帯を照らす中、第二王子たるレオニスが機に乗じて退いたオルグレンを回復させるべく、発動段階にあった治癒の複合魔法を行使する。


「風よ、生命の息吹を運べ……」

「助かる、もうあと数発は耐えられそうだ」


 目立った外傷がなくとも、猛威をいなすたびに浸透してくる重い衝撃の蓄積や、過度な強化術式の負荷もあって、の青年が内部に受けたダメージは計り知れない。


 これは引きぎわも考えなければなと、主従の令嬢からの攻撃を物ともせず、前衛に残ったイングリッドを食い千切ろうとする偽竜の姿など見遣みやり、金髪碧眼の公子は密かに悪態を吐いた。



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Wiz風に言えば第二王子=君主ロード、公爵令嬢=魔術師ウィザード、侍女=忍者アサシン、細マッチョ=戦士ファイターという構成です。

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