第130話

「大司教の権限でリィナさんを祓魔師エクソシスト叙階じょかいします。以後、ウェルゼリア領主の嫡男につかえて、の者が道を誤らないように導いてください♪」


「…… 正気ですか、ディアナ様」


 “兼業冒険者なので場合によっては人も切りますよ” と疑問をていすれば、“私も無辜むこの民を護るため、がたい外道のやからを何人も冥府に送りました” と、物騒な答えが平然と返ってくる。


躊躇ためらうとね、わずかな時間で “救えたはずの命” が次々と消えるんですよ」


 手を汚すことを恐れて見殺しにするなど論外、救うために悪党どもをあやめる矛盾が罪なら、すべて背負い込むだけと真顔で大司教はうそぶく。


 そんなりも含めた押し問答の末、両親亡き後に拾われた教会への恩を捨てられなかったのか、半人造の少女ハーフホムンクルスは諦めたように両肩を落とした。


「まぁ… 別に下位四段の身分があっても損はないし、それが重荷になったら道端に投げ捨てても良いですよね?」


「何やら罰あたりな台詞セリフですが、今回はこちらの押し売りなので認めましょう」

「うぅ、神聖な位階がぞんざいに扱われてます」


 もっとこう、おごそかであるべきと頭を抱えたフィアを蚊帳かやの外にして、規模によっては聖書朗読を挟んで一刻ほど掛ける儀式も、至極簡単な略式で済ませられる。


 名を呼ばれてひざまずいたリィナの頭に大司教の掌が添えられ、言祝ことほぎの聖句を告げられると新任の聖職者が一人、王都の地に増えた。


「これからは斥候剣士じゃなくて、祓魔師エクソシストを名乗ろうかな」

「ふふっ、是非ぜひに活躍して地母神派の威光を強めてください、“踊る双刃” さん」


 優秀な人材を繋ぎ止められたのが嬉しいようで、清廉潔白な印象のわりに実は腹黒そうな淑女レディが微笑をたたえる。


 窓にめられたステンドグラス越しの陽光を受け、無駄に神々しい雰囲気などまとわせるディアナを見め、いまだ警戒中のウルリカが俺の服すそを強く握り締めた。


色好いろよい顔しか見せないやつ、ろくなのいない」

「むぅ、聞こえていますよ、これは徹底的に “分からせ” ないと駄目でしょうか?」


 さも楽しそうにのたまいながら、熱い視線を向けられた人狼娘はひるむも、小さく不満げな唸り声を漏らす。


ことわる、それはご主人だけでいい」

「あら、随分すいぶんと手が早いみたいですね、こんな年端としはのいかない少女まで……」


「ッ、人聞きの悪いことを言うな、冤罪だ」

「… ジェオ君、寝室へやに連れ込んで、猫っ可愛がりしてたじゃないですか」


 “嘘はいけません” と呟いたフィアのまぎらわしい指摘を受け、“狼はイヌ科だけどね” と茶化してくるリィナを睨みつつ、どう反論したものかと考えを巡らせていく。


 好きに言わせておくと尾鰭おひれが付いて不名誉な噂を流されそうなので、さっさと釈明を済ませ、おいとましようとするが… “女三人寄ればかしましい” の表現は正鵠せいこくを射ており、つややかな内容も混じった色恋沙汰の話に花が咲いてしまう。


 もういっそ、俺やウルリカの存在を忘れてくれたら良いのだが、唐突に同意を求められるような状況もあって、二人とも想定外の精神的な疲労が溜まった。



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