第115話

「11番Lostロスト… 戦闘力は皆無に近いし、当然か」

「えっと、探索につかわせた従魔の話ですよね?」


 小首をかしげたフィアにうなずかたわら、宰相付きの調整官という身分を遺憾なく発揮して、中央行政府の官吏かんりに借りた見取り図を広げると、気をかせたリィナが角灯カンテラで照らしてくれる。


 現在地からの経路を俺の指でなぞり、水妖の反応が消えた地点を示せば、連れ合いの二人は表情を曇らせた。


「ん~、下水道に踏み込んで汚れるよりマシだけど、微妙かも」

「旧時代の人々が眠る墳墓カタコンベ、土足で荒らしたくはありません」


 半人造の少女ハーフホムンクルスと司祭の娘、其々それぞれの性分を反映した忌避の理由はあれども、明らかな異変を無視する訳にいかない。


 取り急ぎ、付近にいた9番の個体も偵察に向かわせるが、やはり先刻と同じく消息を絶ってしまう。


 これは当たりだぞと思いながら “人々の生命線” であるがゆえ、委託された冒険者組合ギルドが小動物除けの結界等を要所に張り、厳格な管理を徹底する水道区画の外まで抜ければ、埋葬地の前庭にあたる400平米ほどの広場へ辿り着いた。


 警戒しつつも歩を進めると、角灯の硝子ガラスおおわれて風の影響は受けないはずの火が一瞬だけ揺れ、避けて通れない順路の奥で突発的な魔力の高まりが生じる。


「ッ、連なる小楯アイギス!!」


 用心に怪我なし、発動段階にあった術式をフィアが励起れいきさせて、稠密ちょうみつ六方格子状の魔素配列による小さな浮遊障壁を幾つも前方に並べた直後、僅差きんさで大量の金属球が散弾のごとく突き刺さった。


 自己相似的なハニカム構造の壁面は余さず、次射まで含む小鉄球を受け止めたものの、雨あられのような弾丸は途切れる様子もない。


「… 夜鬼が二体、交互に連携しているようだな」


 同心円状に飛ばした魔力波の定位反射を受け、ゆるりと左腕を突き出した俺は司祭の娘が維持する障壁越しの前方目掛けて、続けざまに領域爆破の魔法を撃ち放つ。


 言うまでもなく埋葬された人骨にも被害は生じるが、防戦一方だとらちかないので多少の狼藉は目をつむって欲しい。


「うぅ、また、ジェオ君が罰当たりなことを… 聖母様、申し訳ありません。家に帰ったら、ご飯抜きで分からせておきます」


 何やら不穏な懺悔が聞こえるも、敵方が完全に沈黙するまで爆撃を重ねていれば、通路の奥に咲き乱れる紅蓮の焔をやぶり、かおのない黒面の怪物らが吶喊とっかんしてくる。


 以前に遭遇した個体と違い、蝙蝠のような翼の代わりに二本角がある筋骨隆々な夜鬼どもは肩を突き出して、速度と慣性のままに巨躯でのぶちかましを仕掛けてきた。


「「―――ッ、―――!!」」

「きゃあ!?」


 激しい衝撃にフィアの悲鳴が混じると、無数の小鉄球を受けてもろくなっていた浮遊障壁にひびが入り、縦横無尽に広がっていく。


 すぐさま後方の俺達に接触しないよう、浅い斜度で左側へ飛び退いたリィナにならい、硬直気味な専属司祭の首根っこを掴んで右側へ下がれば、ほぼ同時に倒れ込みながらの重い剛拳が護りを貫いた。

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