第100話

 なお、従魔に勝とうが負けようが、試験中に貴重な品が壊れるのは勿体もったいないため、お持ち帰り可能な方法を検討するも… 悪知恵が働くまで、せっかちな進行役の講師は悠長に待ってくれない。


 公爵令嬢の言葉にたがわず、自身のマナより変換した魔力を召喚具に注いで同調させ、呼び込んだ魔物のたぐいを討てば探索許可証がもらえると告げられた後、互いに一定間隔の距離を開けるよう指示がされた。


「では、御武運を……」

「そっちの二人もな」


 短い言葉をエミリア達に伝え、適当な位置取りを済ませて少し待つと、皆の移動を見届けた講師の声掛けにより、屈強な老教授がひざまずいて大地に右掌を突く。


 反対側の左掌には私蔵であると聞く魔導書、『エメラルド陶片』が収まっていた。


「錬成、樹牢結界弐式 “鳥ノ籠”」


 魔法の発動をって、一瞬だけ巨大な錬成陣が地面に広がり、中庭の至る所から次々と現実的にはあり得ないほど、細長い枝でまれた支柱が幾つも生えてくる。


 曲がりくねりながら時にからまり、約64~66平米の敷地ごとに学生達を収監する立方格子の骨組みとなって、面の部分には半透明な障壁を生じさせた。


 衝動に駆られてマナの制御を行い、一時的に右腕の筋力増強と拳の硬化をほどこした状態で強度を確かめるべく、肩や腰の動きと連動させた渾身の一撃を叩き込んだ瞬間、凄まじい轟音と共に壁面が砕け散る。


 向こう側にいる学生の唖然とした顔を見遣みやり、やらかしに気づいて誤魔化し笑いを浮かべたものの、舌打ちしたメイド少女とアンダルス教授に睨まれてしまった。


「また貴様か、ウェルゼリア卿の小倅こせがれ

「面目ない、ついカッとなってやった、今は猛省している」


 以前、悪戯好きなリィナが幼馴染の二人を怒らせたおり、釈明に使った言葉を引用しつつ、“反省” を “猛省” にアレンジしたが、あまり効果のほどはうかがえない。


 そう言えばフィアもクレアも逆に苛立っていたなと、身も蓋もない顛末てんまつを回想しているうちに壊れた障壁が修復され、咳払いなど挟んだ講師が衆目を取り戻した。


「余談だが、器物損壊は慮外とする。其々それぞれの領域内で召喚した相手に討ち勝つこと。事前の術式構築を禁じた上、認定試験の開始は各自の判断に任せる」


 相応に長かった説明も終わり、すぐさま実行に移す連中がいるかと思いきや、誰もが出てくる従魔の傾向を知ろうと考えたのか、お見合いのような状況が生じる。


 仮にも未踏領域への進出及び実地調査をこころざす者達なので、迂闊うかつな行動を軽々けいけいに取らないのは好感が持てるとして… このままだと話は進まない。


 やや意固地になって風見鶏を決め込んでいれば、王族たる自身が先陣を切るべきだと判断したのか、金髪碧眼の公子であるレオニスが召喚具のチャームを励起れいきさせた。


 虚空に展開した球門スフィアより、黒衣と折れ曲がった三角帽子、青焔をまとったカブ頭の小柄な精霊 “ジャック・オー・ランタン” のペアが現れて、甲高い哄笑こうしょうを響かせながら飛び回る。


「「ケヶッ、クケェエ!!」」

「…… 収穫祭も近いからな、教授らしい着想だ」


 比較的に近い位置の樹牢へ囚われているため、漏れ聞こえた公子の呟きを皮切りにして一人、二人と対戦相手の召喚に踏み切っていく。


 どうやら今回は季節柄もあって、とある北西の島国を起源とした天国にも、地獄にも行けない哀れな存在が全員平等にけしかけられたようだ。



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ハロウィンの精霊ジャックは2000年間ほど、カブ頭であってカボチャになったのは歴史的にごく最近の話です。故に本作ではアメリカンな文化より、源流のケルト文化を尊重します。

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