第11話 ~ とある少女の視点① ~

「うぅ、酷い目にったよぅ… えっと、地母神派の侍祭で冒険者をしているフィアと申します。こちらの槍術士がクレア、斥候はリィナです。名前をお聞きしても?」


 法衣に付着した砂塵を払ってから尋ねると、を蜘蛛糸から解放してくれた黒髪に薄あかい瞳の少年がうなずき、ぶっきらぼうな態度で応じてくれる。


「ジェオ・クライスト、連れ合いの男は師事しているサイアスだ」

「あぁ、後始末はしてやるから適当に話をまとめておけ」


 師と呼ばれた瘦身そうくの美丈夫は興味なさげに言葉をつむぎ、皆の視線から離れるように喰い殺された暴漢達の遺体へ歩み寄って、彼らが身に付けていた冒険者ギルド発行の識別票ドッグタグを回収し始めた。


 それが終わればほふった土蜘蛛を簡易に解体して、素材として扱える部位やマナ結晶体を確保するのだろう。特に意識を惹き付けられる事柄でもないらしく、少年の方は私達に向き直って話し掛けてくる。


「事前に確認しておくが、お前らは港湾都市ハザルの住民か?」


 一応、助けてもらった事実はあるけれど、年齢と釣り合わない隔絶した技量を持ち、ともすれば不遜ふそんな言動をする相手から、踏み込んだ質問をされて口籠くちごもってしまう。


(任意の空間を爆散させる魔法とか、見聞きしたことありませんし、服装からしても貴族の…… って、クライスト?)


 確か、教会や修道院への支援をほとんどしてくれないと、司祭様がなげいていたウェルゼリア領主の家名が同じだったはず。


 そんな事を思い出していたら、胡乱うろんな眼差しで少年を見つめていた斥候のリィナが身動みじろぎ、軽く鳴らした音で傾注けいちゅうさせてから口を開いた。


「なにか、ふくみのある言い方ね……」

「いや、他意は無い、独善的な行動の理由が欲しかっただけさ」


「あたし達がここの領民だと都合が良いのか?」

「クレア、多分だけどジェオ君、領主様のご子息だから」


 直截ちょくせつな物言いをする槍術士の幼馴染みに対して、ややたしなめるように釘を刺しながら横目でうかがうと、黒髪の少年が小さく頷いて私の発言を肯定する。


 彼をいぶかしんでいたリィナも露骨な仕草は賢くないと判断したようで、微かに険のあった表情をやわらげて取りつくろった。


「ん、ご領主の身内に隠しても仕方ないか… お言葉の通り、三人とも港湾都市の出身です。窮地から救って頂き、ありがとう御座います」


「子どもを相手にへりくだらなくていい、民を護るのは領主家の務めだ」


 毅然と言い切った当人の父親がどちらかと言えば悪い噂のある為政者なため、妙な違和感を拭えないものの、さといリィナは情動を悟らせないように柔らかく微笑む。


「そう言ってもらえると嬉しい、敬語のたぐいは苦手なの」

「俺も雑な口調だからな、遠慮はらない」


 素っ気なく前置きした数歳下の少年は改めて私達を見遣みやり、いささか不機嫌そうな表情など浮かべながら、その愁眉しゅうびを寄せた。

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