貴族令嬢と隣国王女

月夜るな

告白


「私、リリアナ・レア・リリーランドは……一人の女性として貴女のことが好きです。どうか結婚してください」

「!?」


 卒業パーティーが開催中の中、少し離れた学園内にある庭園で制服を着た2人と少女が対面で立っていた。


「え、え?」

「いきなり申し訳ありません。ですが、私は以前よりフィアナ様のことが好きでした。それは友達としててではなく、一人の女性として好きになっていました」


 銀色の髪を背中まで伸ばした小柄の少女……彼女の名前はリリアナ・レア・リリーランド。そしてそんなリリアナに告白された金髪の少女はフィアナ・フォン・エルバルト。

 リリアナとフィアナはこの学園で出会い、今までよく2人で仲良く学園に通っていた。きっかけは同じクラスで席が隣だったことからだった。


 フィアナに最初に話しかけたのはリリアナだった。

 リリアナは訳あって、隣国からこの学園へと留学してきていた。名前もリリアナとだけ名乗っており、家名を言うことはなかった。


 フィアナはエルバルト男爵家の次女で、爵位は低いものの領民からも愛されている令嬢だった。兄と姉が1人ずつ居て、フィアナは末っ子という位置だった。

 それもあって、姉や兄からも結構愛され甘やかされていた。と言っても間違ったことはちゃんと間違ってると言ったり怒ったりもしていたのもあり、立派な令嬢となっていた。


 元より、フィアナは我儘とかは言わない子だったのだが。


 男爵家というのもあって、結構色々と言われていたのもあったものの、リリアナが最初に話しかけ、それから一緒によく行動し始めてからは、そういった陰口なんて耳に入ってこなかった。

 なぜならリリアナと一緒にいる時間がとても楽しいから。それはフィアナの本心であり、本音でもある。


 しかし、そんなフィアナはいきなりリリアナに告白され、顔全体を真っ赤にしながら困惑していた。

 リリアナと一緒に居た時間はとても楽しく、面白かった。居心地も良かったし、このままずっと一緒に居られたら……なんて思ったこともあった。


「駄目、でしょうか」

「えっとえっと……私たち女性同士ですよ?」

「ええ知っております。知っておりますが、フィアナ様のことが前から好きでした。一目惚れとも言えますね」


 ふふっと笑ってみせるリリアナ。フィアナはその表情を見てドキッとなる。

 いけないと分かっているのに、フィアナのドキドキは止まらずに居た。フィアナもリリアナのことは嫌いではなく、むしろ好きな人であった。もちろん、最初は友達として、だったが。


 フィアナも後から気付き始めていたのである。いつの間にかリリアナという存在がフィアナの中で大きくなっていたこと。一緒に話したり、出掛けたりお茶したりなど……その時間はとても居心地の良いものだった。


 本当はフィアナも分かっていた。

 リリアナに対して恋愛感情を抱いていたことに。最初こそは否定していたものの、段々とそれを自覚していた。だけどそれは叶わない恋と分かっていたから胸の内に無意識に隠していた。


 この国では女性同士の結婚もとい、同性婚は認められていないのである。だからこれは叶わない恋だったのだ。


「……です」

「?」

「私も……リリアナのことが好きです」

「っ!」


 顔を赤くしてフィアナがリリアナに対して、なんとか絞り出した言葉はそれだった。フィアナの言葉にリリアナも嬉しくなって笑顔になる。


「私も……リリアナのことが好きです。この気持ちに気づいたのは少し前でしたが……」

「フィアナ……」

「リリアナ……でも、これは叶わない恋だと思って隠していました」


 女性同士の恋愛。

 何もそれ自体悪いことではない。同性婚を合法化している国も幾つかあるので、それはおかしなことではないのだ。


「この国では同性婚は認められていないからですよね」

「……うん。だから……リリアナのことは好きな気持ちに嘘偽りはないですが、答えられません……」

「フィアナ……」


 リリアナもこの国では同性婚が認められていないことは知っていた。知っていたのだが、彼女はこの国の人ではないので、そこは問題ないと判断していた。

 と言うより既に一目惚れした時から自国に居る家族に手紙を送っていた。一目惚れしたということを。そして長い休みに入る度に国帰って報告もしていた。


 リリアナの両親は恋愛結婚だったので、末っ子の娘であるリリアナの恋を応援していた。当然ながら同性であるということも伝えている上で、応援してくれていたのである。


 リリアナの家族構成はフィアナに似ていて、姉と兄が1人ずつ居る。唯一違うのは……身分だろうか。先ほどリリアナが本名を名乗っていたものの、フィアナはまだ気付いていないようだが。


「フィアナ。それについては問題ないわよ」

「え?」

「私、今本名を名乗ったでしょう?」

「そ、そう言えば……リリアナ・レア・リリーランドって……!?」


 今になってフィアナはリリアナの名前にはっとなって驚く。

 リリーランド王国……それはこの国、コバルト王国の海上隣国の名前だ。コバルト王国とは友好国でもあり、貿易をも盛んに行っていた。


 海を超えた先にある海上王国。街の中も水が流れており、移動は基本的にはゴンドラ等を使うことで有名な国だった。観光先としても有名な国だ。

 そしてそんなリリーランドの名前が入っているということは……つまり。


「王族……!?」

「ふふ。驚きましたか? その通りです。と言っても私は第二王女という立場ですけどね」


 驚愕するフィアナ。そんなフィアナを見て笑うリリアナ。


「私の国では同性婚は認められています。王族にもかつて女性同士で結婚して女王になった方も居りますよ? だからどうでしょうか、私と一緒にリリーランドに来ませんか。そしてそこで……結婚しませんか?」

「!」


 そう。

 リリアナは彼女をリリーランドへ招待するつもりで居た。そのための根回しも既に済ませており、後はフィアナの意思だけだった。

 リリアナは一目惚れだったのでフィアナがどう思っているかは分からないでいた。だから変に深く関わったりはせず、間接的に好意を伝えていたのだ。最も、フィアナは気付いていなかったようだが。


 そして告白。

 リリアナは知っての通りリリーランド王国の人であり第二王女である。なので学園を卒業した後は自国に帰るしかない。だからこそ、このタイミングでフィアナを呼び出して告白したのである。

 もし、断られたはその時は潔く引き下がろうとしていたが、フィアナもリリアナのことが好きだったということを知ったのでこのまま連れ出そうと考えていた。


「嬉しいですが……でも両親や家族が……」

「ふふ。そこは安心してください。ちゃんと許可を頂いております」

「え……お父様のサイン?」


 そう。

 さっきも言ったようにリリアナは既に根回しをしていたのである。だからこそ、フィアナの両親や家族の許可ももらっていた。当然ながらリリーランド側もそれを許可しているので何も障害はない。

 フィアナがリリアナに対して好きだというのであれば問題ない……そう男爵は言っていたのである。リリアナも別に強制する気はなく、フィアナの意思を尊重するつもりだった。


 やろうと思えばリリーランド王家の権限で婚約するという荒業は出来たのだが、それを良しとはしなかった。エルバルト男爵も恋愛結婚だったというのもあるだろう。


「貴女の家族については悪いようには致しませんよ?」

「リリアナ……」


 男爵一家がこの国居たいのであればそれを止めることはしない。だけど、もしリリーランド王国に来てくれるのであればそれ相応待遇をすることを約束している。

 第二王女とは言え、王族との結婚である。無下にすることは出来ないのである。それが好きな相手の家族ならば尚更である。


「改めて……フィアナ。私と結婚してくれませんか?」

「……はい、喜んで」


 そう言ってフィアナはリリアナの手を取る。

 丁度そのタイミングで花びらが舞い上がったのは、偶然なのか故意なのか。2人を祝福している……そんな感じであった。






▽▽▽






 その後、リリアナが根回ししていたのもあり非常にスムーズに色々と手続きが終わった。男爵一家はリリーランド王国に移住することを決め、爵位を国に返還した。


 リリーランド王国にやってきた元男爵一家はリリーランド国王陛下……リリアナの父によって子爵の爵位を与えられ、王都から少し離れた場所にある領地を管理する貴族となった。

 その領地を持っていた前子爵が、色々と変なことをやらかして爵位剥奪。しばらくの間は王家直轄の管理地になっていたが、今回その場所をエルバルト元男爵に託したという形になる。


「お父様もお母様も新しい領地に張り切っているみたいです」

「ふふ。それはいいことね」


 国王陛下……リリアナの父に与えられた屋敷の中で、そんな会話をする2人の少女が居た。

 

 そう、リリアナとフィアナである。

 リリアナは確かに王族であり、第二王女ではあるが兄と姉がいるので王位を継承することはない。それも合ってかなり自由な身ではあったのだが、流石に隣国への留学については色々とあった。

 それでも何とか許可をもらい留学し、そこでフィアナと出会った。


「リリアナ……これからも末永くよろしくおねがいしますね」

「こちらこそ」


 そう言って笑い合う、2人の指にはキラリと光る指輪が付いていたのだった。





 リリアナとフィアナ。

 2人はとても仲がよく、人前でも気にせずイチャイチャしていたことで有名であった。それは領地でも広がっており、見せられる側も黄色い声を出してしまうほどだったという。


 イチャイチャしすぎて侍女に注意されていたのは、もう屋敷内では一種の名物となっている。





 同性でも子供が出来る技術によって、リリアナとフィアナとの間には2人の女の子が生まれとても平和で穏やかな暮らしをしていたそうな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴族令嬢と隣国王女 月夜るな @GRS790

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ