第100話 怪獣殺しVSテュフォエウス

 僕は近くのビルの屋上に降り立ち、テュフォエウスと相対した。


 奴は青白い2対の複眼で僕を睨んできている。

 僕もまた同じようにするも、眷属達と違って怯む様子はなかった。

 

 絵麻が原始的な本能を持っていると言っていたけど、やっぱりそんじょそこらの怪獣とは格が違うらしい。 

 そもそもコイツはお爺さんの力が凝縮した存在だから、僕の睨みなど屁でもないだろう。


 だからこそ、肉片が残らないよう倒さなければならない。


 恐怖に怯えていたアジ・ダハーカや、僕との力量の差で絶望していた五十嵐のようにはいかないはず。

 再起不能なまでに叩きのめすだけだ。


「……来い」


 ――グァオオオオオオオオ!!!


 僕が口にすると、テュフォエウスの咆哮が場の空気を震わせる。

 ビルが大きく揺れるのも感じた。


 テュフォエウスが右腕を青白く光らせた直後、地面に思いっきり殴りつける。

 そこから渋谷戦で見たエネルギーの衝撃波が発生するけど、それが高層ビルを呑み込むほど強力になっていた。


 僕が飛行して回避すると、衝撃波によって元いたビルが粉々に砕かれる。

 かなりの威力だな……喰らったらマズいのは確か。


「お前達、アイツを頼む」


 僕が別のビルに着地した後、ドレイクを4体召喚する。

 

 車が散乱している道路の中、肉薄するドレイク。

 対し、テュフォエウスが尻尾を伸ばして2体を叩き飛ばした。

 

 2体ともビルに激突して埋もれる。


 残り2体はテュフォエウスの懐に入り込み、両腕を掴みつつビルへと叩き付けた。

 奴の動きが止まったところで、僕が≪龍神の力場≫の飛行で向かう。


 ――グァオオオオオオアアアア!!!

 

 テュフォエウスがまたもや金色の光線を吐いてきた。

 そこで僕はこれを使う。


「≪龍神の簒奪≫!」


 ビルすら破壊尽くす光線も、僕の簒奪にかかれば瞬く間に吸収される。

 

 右手に少々の熱を感じながらも、光線を全部吸収。

 口元から光線が途切れたところで、奴の頭頂部に接近して手をかざした。


「≪龍神の爆滅≫!」


 何物も破壊し滅する能力。

 それをテュフォエウスの頭部に与え、爆砕する。


 ――…………ッッッッッ!!!?


 頭部が青白い粒子状に四散し、声にならない悲鳴を上げるテュフォエウス。

 頭部という最も重要な箇所をやられたおかげで、残った身体がビルにもたれかかった。




 ……だが、


「……!?」


 何と頭部が失った箇所に粒子が集まり、瞬時に元の形に戻ってしまった。


 ――グァオオオオオオオ!!!


 奴が自身を拘束していたドレイク達を、両腕からの衝撃波で吹き飛ばす。

 さらに両肩の結晶から放電をして、複数の火球を作り出してしまう。


「コイツ、簒奪を喰らったのに能力が出せるのか?」


 僕に戸惑う暇を与えないとばかりに、テュフォエウスが火球を繰り出した。

 

 破られる可能性を考慮して、あえて障壁は張らず回避行動に専念する。

 もうこの惨事において、周りの被害だとかビルの破壊だとかを気にしてられる余裕なんてない。


 火球をかわしてくごとに、ビルや建物に着弾し崩壊させる。

 元々火の海だったこの場が、さらに余計に酷くなったのが分かった。


「お爺さん、一体アイツは……?」


(……おそらくだが、奴は一樹から発している力を吸収している可能性がある。お前も奴も起源が同じだからな。お前の力を糧に再生し、能力を復活させているとならば矛盾はない)


 お爺さんに尋ねてみると、そんな推測が出てきた。

 

 という事はつまり、僕が戦う事で奴に餌を与えているという事なのか。

 たとえエネルギーを奪い取っても、僕から発するエネルギーを奪い取って元通りになる。


 まるで僕達の間で、エネルギーのやり取りをしているみたいだ。


 まさか自分へのメタを張る怪獣だったとは思ってみなかった。

 さすがはお爺さんの負の落とし子……そう簡単にはいかないという事か。


 ――グァオオオウウウン!!


 テュフォエウスが長い尻尾をこちらに向け、その先端を光らせた。

 これはマズい。


「ドレイク、避けるんだ!!」


 僕はそう叫びながら、すぐさま回避行動に移った。


 瞬間、尻尾の先端から光線が放出され、あろう事か尻尾自体を振り回してくる。


 周囲にあるビルが次々と切り倒されていき、真っ二つに折れてしまう。

 さらにドレイク達がかわしきれず、残らず両断されてしまった。


「くっ!」


 僕の方にもビルの上部が倒れてくるけど、劫火を放って大きい穴を開けた。

 

 ビルはその穴に僕を潜らせるように倒壊。

 道路へと落下し、まるで30年以上前に起こったという最大テロよろしく粉塵をまき散らしていった。


(……まさに災厄そのものだな、奴は……)


 裂かれたビルと粉塵がまみれた光景……お爺さんが呆然とする訳だ。

 僕としても、こんな凄惨なものは生まれて初めて見た。


(このまま放っておけば、日本はおろか世界が奴によって滅ぼされる。それだけは避けなければ……)


「そうだね……」


 さてどうする、大都一樹。


 テュフォエウスは僕のエネルギーがある限り稼働する、正真正銘の生きた災厄。

 奴を徹底的に葬る方法がきっとあるはずだ……方法……方法……。


「…………お爺さん、1つ提案が出来た」


(何だ……?)


 そんな中、最善の策が浮かんだ。


 奴は≪龍神の簒奪≫にも≪龍神の爆滅≫にも耐えられる大怪獣。

 そんな恐ろしい奴を完封するには、もうコレしかない。


「≪獣化≫で戦力を削った後、簒奪で奴ごと吸収する。奴がエネルギーそのものなら出来るはずだよ」


 エネルギーを奪っても能力が途絶えないのなら、奴ごと吸収すればいいという判断だ。

 さっきから力そのものだって言っているのだから、上手くいくはず。


(無茶だ! 奴のような強大な力を吸収したら何が起こるのか分からない! 他にも方法があるはずだ!)


 それを告げると、お爺さんが動揺するのが分かった。


 確かにあれほどのエネルギーを吸収したら、ロクでもない事が起こるかもしれない。

 もしかしたらエネルギーの吸収しすぎで、身体が崩壊だなんてあり得たりもする。


「いや、これで行くよ。アイツはお爺さんの負の化身なんだから、子孫の僕がケジメを付けないと」


 ただそれでも、僕はそれに賭けようと思った。


 これはやけっぱちじゃない。

 あくまでそうするべきだと考えたまでだ。


「……それにさ、さっきお爺さんが言ったじゃん。奴はあくまで忌むべき落とし子だって。正統な後継者の僕がくたばる訳ないって」


(……一樹……)


「僕は、僕と絵麻は、お爺さんの孫なんだから」


 そして死ぬつもりなんて毛頭ないのだ。


 僕の意志に応えるかのように、今まで倒れていたドレイク達が上体を上げる。

 光線によって寸断された身体は瞬時に塞がれ、元の状態へと戻っていった。


(……なら一樹よ、我から言わせてほしい事がある)


 お爺さんが口にした時、テュフォエウスから再び光線が放たれる。

 それを避けると同時に、言葉の続きがやって来た。


(必ず生きて戻ってこい。お前の愛する絵麻や仲間達の為にも)


「……言われるまでもないよ」


 僕は自分に秘める怪獣の力を全開放させる。


 それによって両目は赤く光り、爪が鋭くなり、背後にお爺さんの顔をしたエネルギーが発生する。


 アジ・ダハーカ戦で見せた≪獣化≫。

 また発動しないといけない日が来るとはね。


「さぁ、お前の最期だ。テュフォエウス」


 でもこれで、全てを終わらせるんだ。

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