第99話 怪獣殺しの殲滅

「高槻隊長、それに皆さん、ご無事で何よりです」


 僕はビルの屋上へと降り立ち、高槻さん達と合流した。

 彼女が榊原さんや他の隊員を見渡す。


「最初出向いた時には30人いたんだけどね……今じゃ私を含めて5人くらいしか……」


「そうですか……とにかくここは危険なので、コイツらの背中に乗って退避して下さい。後の事は僕がやりますので」


「お言葉に甘えさせてもらうよ。皆よく耐えたね。これより撤退する」


「了解……」


 榊原さんの返事がか細い。

 長らくこの火炎地獄にいたのだから、かなり疲弊していた事だろう。


 彼女達がワイバーンの背中に乗り始める。

 その際に襲撃してきた怪物の事を聞こうとした時、おぞましい咆哮が聞こえてきた。


 ――グァオオオオオオオオオオオンン!!


 遠くの方にいるテュフォエウスからだ。

 ビルとかで邪魔になっているけど、一応は見えている。


 奴の両肩にあるねじれた結晶から、破片がボロボロ落ちているようだ。

 破片がそのまま地面に落下するかと思いきや、形を変えてさっきのドラゴン型怪物へと成り代わる。


 一瞬のうちに、テュフォエウスの周りに集まる怪物達。


「奴ら、テュフォエウスが生み出した分身体だったんですね」


「そうらしい。全く今回の怪獣はとんでもないよ。大怪獣以上の大怪獣だ」


 吐くようにぼやいた後、僕へと振り向く高槻さん。


「≪怪獣殺し≫。出来れば君と共闘したかったんだけど、ダメージが大きすぎてね。本当に申し訳ない」


「とんでもありません、命あっての物種なんて言いますし。さぁ、早く行って下さい」


「……ならば」


 高槻さんが不意に敬礼をする。

 続いて、榊原さんや他の隊員達も同様に。


「私達は君の成功と帰還を祈っている。どうかあの怪獣を倒して、私達の元に戻ってきてほしい」


「俺もあなたの帰りを待っています……! どうかお気を付けて、心の師匠……!」


「おいおい、まだ師匠とか言ってるんかいな」


「い、いいじゃないですか!!」


 高槻さんに突っ込まれてあたふたする榊原さん。

 気のせいか、さっきまで憔悴しきっていた表情に生気が戻ったような気がした。


 ――ギュオオオ!!


 すると奇声と共に、さっきの怪物が群れを成して飛んでくる。


 仮に奴らは『眷属』と呼ぶ。


 数は50以上か、その眷属がまっすぐ僕の方に向かっているようだった。

 同じ力を持つ故、自然と引き寄せられているのだろうか。


「本当にすまない、あとは頼んだよ!」


 ワイバーン達がひと鳴き上げてから飛行し、高槻さん達を運んでいった。


 これで残ったのは僕と数体のワイバーン達。

 僕は顔バレ防止のヘルメットを脱ぎ捨て、改めて気合を入れる。


 眷属の群れが僕達に接近すると、その口からブレスを放ってきた。

 雨あられと降る無数のブレスに対して、僕はお馴染みの能力を使う。


「≪龍神の簒奪≫」


 突き出した右手へとブレスが吸い込まれていく。

 同時に奴らのエネルギーも根こそぎ奪い、ブレスを吐けなくさせるようにした。


 ――ギイイ……!!?


 ――ガアア!!?


 ブレスが吐けなくて、眷属達が目に見えて困惑しているようだ。


 そこをワイバーン達が強襲し、鋭い鉤爪で応戦していく。

 さながら戦闘機同士の乱闘になった後、戦闘に加わっていない大半の眷属達が僕へと襲いかかってきた。


 ……コイツらがウロチョロ動いていると面倒だし、少しコレをやっておくか。


「お前ら、少し大人しくしていろ……」


 ソイツらへと鋭い眼光を向けた。

 これには巨大な怪獣すら怯えさせる威力がある。


 ――……!!?


 眼光を向けられた眷属達がピタリと止まり、先ほどの威勢が嘘のように震え始めた。

 そこから動かなくなった連中には、斬撃状の劫火を放つ。


 ――ギャアア!!?


 僕の眼光に怯んだ眷属達が、もれなく首を斬り落とされる。


 動かなくなった敵をやるのは卑怯と言えば卑怯だけど、でも僕は効率の良いやり方を編み出したまでだ。

 

 それに戦場に卑怯も糞もない。

 油断したら負け……すなわち死に直結する。


 なおワイバーン達が相手にしていた眷属達も全滅。

 その死骸がボトボトと地表に落ちていった。

 

「後は……奴だな」


 次の狙いは、この惨事を引き起こしたテュフォエウス。

 ソイツを目指すべく、再び≪龍神の力場≫による飛行を行う。


 ワイバーン達も僕に付いて行こうとしたところ、ビルの陰から増援だろう眷属達が現れた。


「またか。だったらまとめて……」


『一樹様ぁ!!』


「!」


 その時、一直線に伸びた水が眷属達を斬り裂いていった。

 

 さらに火球もどこからやってきて、敵へと着弾。

 その身体を塵芥ちりあくたに還す。


 この攻撃……僕が飛んできた方向を見ると、怪獣になったヒメとフェンリルがいたのだ。


「ヒメ、フェンリル!」


 ヒメは空中に留まっていて、フェンリルはビルの屋上に陣取っていた。

 

 2人とも、うっすらと体表に切り傷のようなものが出来ている。

 つまりまだ怪我が治っていないはず。


 それなのにここまで来て……。


「まだ全快していないんだろ!? 何で……」


『もう動く程度には治った……後は戦いながら回復するから大丈夫……』


『それに一樹様がおっしゃったじゃないですか、もし傷が治ったのなら一緒に行けたって! なのでその通りにしました!!』


 ヒメが自身に迫り来る眷属達を、剣のような尾ビレで斬り裂く。


『一樹様を1人で行かせたのが辛かったんです! せめてコイツらの掃討だけでもさせて下さい!!』


『コレくらいならいいよね……テュフォエウスは任せたから……!』


 フェンリルも眷属に飛びかかり、強靭な顎で嚙み殺す。

 

 その一生懸命戦う姿を見て、僕は戻れと言うに言えなかった。

 ……2人とも、本当にすまない。


「ワイバーン達、2人の援護をお願い」


 ――ギュウオン!


「ここは頼む。すぐに奴を倒しに行ってくるから」


『はい!』


『うん』


 僕はワイバーン達をここに置き、ヒメ達から離れていった。


 2人に眷属退治を任せたんだ。

 僕もいち早くテュフォエウスを掃討しなければ。


 ――……グルウウウ……。


 テュフォエウスとの距離が狭まった途端、奴が喉を鳴らしながら振り向いてくる。

 そこから間を置かずして口を開け、金色の光線を放ってきた。


 僕はそれを難なくかわし、奴を睨む。


「決着を付けるぞ、テュフォエウス」


 いよいよお爺さんの負の力の化身……コイツとの最後の戦いだ。

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