第98話 怪獣殺しの救出

 上層部の部屋を出た後、僕は駐屯地の屋上に着いた。

 そこから炎に呑み込まれた高層ビル群が見渡せれる。


 これ全部、あのテュフォエウスがやったというのが信じられないけど……お爺さんの力が暴走した存在なら、こんなの訳ないかもしれない。


 お爺さんもこうなる事を想定してなかった。

 それだけ彼の持つ力は、使い方次第で破滅へと導く恐ろしいものだったのだ。


 お爺さんが善良じゃなかったら、とっくの昔に日本はなくなっていたかも。


「一樹君、高槻隊長達の場所は分かるかしら……?」


 その後ろから未央奈さんがやって来る。

 彼女が「ある物」を取りに、一旦僕から離れていたのだ。


「ドレイクを出せば何とかなりますよ。超感覚と嗅覚で見つかると思いますし」


「そう……」


 まずやるべき事は、高槻さんら防衛班の救出だ。


 その救出が終わったら、テュフォエウスの掃討。

 それで全てのミッションはコンプリートだ。

 

(……いいか、相手は暴走した我が力そのものだ。今までの怪獣とはケタ外れに違いない)


 そこに脳内に響くお爺さんの声。

 今回の怪獣に危機感を抱いているのか、僕を心配してくれているようだ。


「分かっているよ。こういう時には冷静にやらないとね」


(決して油断するではないぞ。一瞬の隙が命取りになるのやもしれぬ。……それともう1つ)


「ん?」

 

(不安煽るような事を言っておいて何だが、我はお前が勝つ事を信じている。奴はあくまでも忌むべき我が落とし子……正統な後継者であるお前が負ける道理などないのだ)


「……そう言ってくれると嬉しいな。ありがとう、お爺さん」


 本当この人は……。

 それから未央奈さんへと向いた僕だけど、そこで彼女が悲痛な表情を浮かべているのを知った。


「一樹君……ごめんなさい」


 何故か急に謝ってきたので、僕は面食らってしまう。


「どうしました? 何でいきなり……」


「さっきの上層部に対しての発言よ。あなたにああいう事を言わせてしまったの、タッグを組んでる私の責任でもあるわ。あんなにも感情的になるの初めて見たし……本当にごめんなさい」


「……未央奈さんが謝る理由なんてないですよ。未央奈さんも絵麻の成長を見てくれたし……何より僕達のお姉さん的な存在なんだから」


「一樹君……」


 嚙み締めるような表情をする未央奈さん。

 そうしてキッと覚悟を決めた彼女が、「ある物」である黒いバイクヘルメットを渡してくる。


 高槻さん達のところに向かうので、どうしても顔バレ防止として必要になる。

 それを受け取ってから「絵麻達に自分が戦地に向かったのを伝えて下さい」と言おうとしたけど、


「兄さん!」


 そこに声がしてきて、バッと振り返った。

 見てみれば絵麻はもちろん、雨宮さんや森塚さんに担がれたヒメとフェンリルがいた。


「絵麻、皆……」


「一樹様、1人で行くなんて水臭いですよ! わたくし達も参ります!」


「一樹だけは行かせない……」


 ヒメとフェンリルがそう叫ぶ。


 怪我しているに関わらず、一緒に戦おうとしてくれている。

 それは嬉しい……嬉しいけど、それに応じてはいけないという気持ちが出てきてしまった。


「まだ君達は傷が治っていない。なるべく安静するんだ」


「ですが……!」


「頼みを聞いてほしい、僕は君達を死なせる訳にはいかないんだ。もし傷が治ったのなら、一緒に行けたとは思うけどさ」


「……ッ……」


 僕の言いたい事が伝わったのか、ヒメがそれ以上言わなくなった。

 そんな彼女の肩に、フェンリルが慰めるように手を置く。


「じゃあ……頑張って……。あなたならきっと……ううん、絶対奴を倒せる……」


「ああ、任せて」


 フェンリルへとうなずいた後、次に絵麻に向いた。

 もうコイツにかける言葉は決まっている。


「絵麻もここに残ってくれるかい? もしもの時の為に、お前が皆を守ってほしいんだ」


「……分かった。でもその代わり……」


 そう言った絵麻の周りに、複数のワイバーンが召喚される。

 その数、およそ20体。


「この子達を連れて行って。力になれると思うから」


「……もちろん。本当にありがとうな、絵麻」


「…………」


 しばし黙る絵麻。

 僕が見守っていると、不意に絵麻が抱き付いて、


 ――チュッ……。


「…………」


「おまじない……ちゃんと帰ってきますようにって」


 頬に伝わってきた柔らかい感触。

 どうも……絵麻から頬キスをされたようだ。

 

 恥ずかしくないと言うと嘘になる。

 温もりが微かに残っている辺りが、特にそう感じさせる。 


 でも同時に、すごく嬉しかった……。


「嬉しいよ、絵麻……元気が出てきた」


「うん、よかった……」


 絵麻が顔を赤くしながらも笑ってくれた。


「森塚さん達も、ここで待っていて」


「分かった……大都君、気を付けてね」


 森塚さんも複雑そうな表情を見せたものの、それでも応じてくれた。


 いよいよだ。

 僕は黒のバイクヘルメットを被り、能力を唱える。


「≪龍神の力場≫」


 自分の身体を浮かせてから、燃え上がる都市に向けて飛行。

 ワイバーン達もまるで隊列を組むかのように、僕の周りを付いてきている。


 ……思えばさっきまで、僕と絵麻達は池袋で遊んでいたんだよな。

 そこから数時間経ったらこの地獄絵図だなんて、その時の僕らが予測できただろうか。


 それと考えてもしょうがないけど、白神高校やクラスメイトはどうなったんだろう。


 白神高校はここから近い訳じゃないから大丈夫かもしれないとして、クラスメイトの何人かはこの怪獣災害に巻き込まれているはず。

 

 飛行している際、遠くの方に橋があったのを発見した。

 火炎地獄から逃れるように、その上を大勢の市民が渡って避難している。

 

 あの中にクラスメイトの何人かがいるか、あるいは火の海に取り残されているか。


 しかし後者の事があっても、どうする事も出来ない。

 僕は対怪獣の異能者であって、救助隊員じゃないのだ。


 この中にいるという高槻さん達を救出するのが精いっぱいだ。

 

「皆、高槻さん達の居場所を探るんだ」


 本来、高槻さん達の捜索はドレイクの担当だったけど、ワイバーン達がいるのでそちらに任せる事にした。


 ドレイクやワイバーンは僕達のエネルギーで構築された分身体でもある為、彼女達の匂いを覚えている。

 それに数があるので、すぐに見つけられるとは思う。


 ――……ギュウオオン!! ギュウオン!!


 1体のワイバーンが吠えだし、進路を変えていった。


 僕や他のワイバーン達が後を追ってみると、とあるビルが見えてくる。

 その屋上から銃撃音が発生しているのも聞き取れた。


 高槻さんと榊原さん……そして他隊員も一緒だ。


「隊長!! もう弾が……!!」


「だったら殴ればいいだろ!! 救助が来るまで諦めるな!!」


 彼女達が数体の怪物に襲われているようだった。


 細身のドラゴンのようだけど、全身が半透明の結晶で覆われている。

 ソイツらが口から光弾ブレスを出して、防衛班を攻撃している様子。


 もちろん防衛班もミスリルで応戦しているものの、飛行による素早さでかわされているようだ。

 その中で『早撃ちの裕』こと高槻さんが、二丁拳銃型ミスリルで次々と撃ち落としている。


 だけど焼け石に水らしく、あまり数は減っていなかった。


「≪龍神の劫火≫。消え失せろ」


 僕は劫火を複数放った。


 敵の怪物が気付いた頃には、劫火によってことごとく焼き尽くされる。

 生き残りの奴らがこちらに振り向く中、追加の劫火をありったけかます。


 ――ギアアアアアアア!!


 生き残りも劫火を受けて、ぼろ雑巾のようにグシャグシャに。

 まるでゴミのように地上へと真っ逆さまだ。


「すいません、遅くなりました」


「≪怪獣殺し≫!!」


 危機が去った事に、高槻さんや榊原さんが安堵の表情を浮かべる。

 これで第一段階はクリアだ。

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