第101話 怪獣殺しVSテュフォエウス 終

 ――グァオオオアアアアアアアアアアア!!!


 僕の変化を察したのか、テュフォエウスが仰々しい威嚇行為をした。


 その直後として、口や尻尾から光線を放つ。


 完璧なまでに僕を葬りたいだろうけど、しかし残念。

 背後のエネルギー体が2つの光線をはじき返し、実質ノーダメージだ。


 ――……!!?


「お返ししてやるよ……」


 爪に破壊のエネルギーを纏わせ、思いっきり振るった。


 放たれた真紅の斬撃が、テュフォエウスの身体を袈裟斬りする。

 左腕を斬り飛ばし、身体にも大きい斬り傷を作り上げた。


 ――グャアアアアアアアアア!!


 左腕を失い悲鳴を上げてもなお、尻尾を振るうテュフォエウス。

 尻尾が僕を叩き潰そうとする直前、ドレイクが両腕を使って止めてくれた。

 

 すかさず僕は尻尾に触れて≪龍神の爆滅≫を発動。

 尻尾を粉々に爆砕させ、粒子に還す。


 ――ゴアアアアアア!!?


(……いいぞ、一樹! その調子だ!)


 さっきは躊躇っていたお爺さんだったけど、一転して応援してくれている。


 それが嬉しい。


 僕は1人じゃないんだってのが分かる。

 洗脳でしか仲間を集められなかった五十嵐とは訳が違う。


 だからこそ、その期待に応えなければ。

 そして無事に帰って、絵麻や皆に会うんだ。


「覚悟しろ、テュフォエウス」


 ――グァオオオアアアアオオオオンン!!


 手負いになって凶暴性が増したのか、奴が火球を作り出して周囲にばらまいてくる。

 

 辺り一面の建物を、爆発炎上させる火球。

 これにはさすがに引き下がざるを得なかった。


 それから奴が失った箇所に粒子を集め、尻尾を再生させる。


 左腕も同じようにするも、そこをドレイク達が熱線を吐いて強引に阻止させた。

 盛大に爆発する中、僕は再び爪の斬撃を振り飛ばす。


 背後にあったビルごと、奴の右腕を斬り裂いた。


 ――ガアアアアアアアアアアアアア!!!


 両手をなくしたテュフォエウスが、ぐらりと大きく怯む。

 かと思いきやすぐに体勢を立て直し、その身体をまるで鈍器のようにして暴れ回った。


 それ自体が質量兵器になった身体を、高層ビルに叩き付ける。

 しかも身体からエネルギーの衝撃波を発しているらしく、それで2本のビルを豪快に叩き割る。


 そうして両方のビルが僕に襲いかかり、瓦礫とガラス片をばらまきながら倒壊。


 辺りに粉塵が立ち込め、視界は不良。

 そんな中で勝利を疑わなかったのか、テュフォエウスが両腕を再生させつつ咆哮を高らかに上げた。




「これで死んだと思ったか、馬鹿が」


 ――!!!


 だけど僕は、倒壊したビルの中から脱出した。

 諸々の打撃は障壁で防いでいる。


 僕は間髪入れずテュフォエウスに肉薄。

 奴が光線を吐こうと口内に光を溜めているけど、対して僕は≪龍神の劫火≫を放った。


 ≪獣化≫によって威力が高まった劫火の狙いは、奴の両脚。

 見事吹き飛び、そのままボロボロになったビルへと倒れ込む。


 ――グャオオオン!!


 僕は怯んだテュフォエウスの眉間へと到着。

 躊躇いもなく左手を叩き付けた。


「終わりだ。≪龍神の簒奪≫」


 僕が唱えた瞬間だった。 

 テュフォエウスの全身から青白い粒子が放出され、僕の左手へと吸収されていく。

 

 ――グガアアアアアアアアアア……!! ア゛アアアアアアアアアア……!!


 奴が苦悶の悲鳴を上げながら、もがき苦しんでいる。 

 最後のあがきか、両肩の結晶から火球を繰り出そうとしたけど、その両肩も粒子状になって吸収されていった。


 胴体も、両腕も、背中の結晶も、頭部も、文字通り一滴も残らず。


 ――……グアア…………グオアアアア…………。

 

 そうしてテュフォエウスという存在自体は、僕の中へと全て消えていった。


「……やった……クッ……」


 左腕が重く感じてきた。

 見てみれば、腕から細かい結晶が生えているという異様な状態になっていた。


 やっぱり無事では済まされなかったか……。


 思わず苦笑する中≪獣化≫が自然と解かれ、ドレイクも消えてしまう。


 そのまま僕が瓦礫の積もった地面に降り立つと、全身から力が抜けるように座り込んでしまう。

 怪獣サイズのエネルギー……吸収するのって結構キツいみたいだ。


「……お爺さん、テュフォエウスを倒したよ。僕はやったんだ……」


(ああ……でかしたぞ、一樹よ)


 お爺さんから労いの言葉。

 それを聞けただけでも感無量だ。


 僕は倒れるように仰向けになって、黒煙にまみれた空を見上げる。

 

 今回は色々ありすぎたな。

 特生対研究所が襲撃されて、お爺さんの頭骨が奪われて、五十嵐を倒して、そしてテュフォエウスを倒して。

 しかも今回の戦いは、街全体を巻き込んだスケールのデカいやつと来た。


 そりゃあ、さすがの僕も身体が動かなくなるってもんだよ。


 まるで徹夜まで残業し続けたサラリーマンみたく、泥のように眠りそうになる。

 でも寝てしまったら、そのまま気絶してしまいそうだな。


「一樹様……!!」

         

 そこに声がしてくる。

 重くなった顔を動かしてみれば、人間の姿に戻ったヒメとフェンリル、ワイバーン達がやって来た。


 僕には声を出す気力がなかったけど、代わりに彼女達を安心させるように微笑んだ。




 それから僕達はワイバーンの背に乗って、特生対の臨時基地である駐屯地に戻った。

 屋上には出撃した時と変わらず絵麻達がいて、絵麻が到着してきた僕達に向かう。


 僕は重い身体を上げて、最愛の妹を抱き締めた。

 温かくて、優しい気持ちになれる絵麻の身体……僕はぎゅっと腕に力を入れた。

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