第93話 怪獣殺しと五十嵐
「絵麻、ちょっと下がってて」
「分かった……」
僕は絵麻を後方へと下がらせた。
その時こちらへと向かってくる連中から、取り巻き達が先行してくる。
『死ねよ、大都ぉおおお!!』
まず1人目の取り巻きが、鋭い鉤爪を振るってきた。
僕は身体を傾け、その爪を軽くかわす。
続いて他の奴らも攻撃するけど、それも同様。
当たりはせず、次々と空を切っていく。無駄に鉤爪を振るっているだけだ。
『クソっ、当たらねぇ!!』
『じゃあこれはどうだぁ!!』
もう1人の取り巻きや数人が口を開ける。
それを仲間達が気付いて下がった瞬間、取り巻き達の口から金色の光弾ブレスが放たれた。
ますます人間離れしているな……。
僕は障壁を張った腕でブレスをはじき返し、放った本人達へと反射させた。
『ギャアア!!?』
喰らった奴から吹っ飛んでいき、樹に叩き付けられる。
ブレスを放ったら自分達に返ってきた……奴らにはこう見えるはず。
「どうした? こっちは大して能力を見せていないんだけど? この程度?」
俺達は強いとかのたまっていたんだけど、冗談抜きでコイツらは弱すぎる。
僕はあらゆる大怪獣を倒しながら、修羅場を潜り抜けたんだ。
1日2日で力を得て、良い気になっているコイツらとは訳が違う。
正直下手な大怪獣の方が相手になっていたし、あくびが出てしまうよ。
『対処すんじゃねぇぞクソがぁ!!』
『だったら一斉攻撃だぁ!!』
他の連中も殺意をもって飛びかかってきた。
自分達が弱いから、こうして数で圧倒しようとする……本当に素人だ。
「≪龍神の力場≫」
僕は自分の中心に反射力を発生させた。
それを受けた直後、紙吹雪のように吹き飛ぶ連中。
『グアアアアアアアアアアアアアア!!』
ある者は地面に転がり、またある者は苔むした大きな岩に激突する。
全員もれなくうずくまりながら、僕に対して驚愕していた。
『な、何でだよおい!! 本当にコイツ、お前のクラスで地味な奴だったのかよ!?』
『そうですよ!! 怪獣を倒せるって言っても、どうせ水増しだろうって思ったのに……クソがクソが!!』
『じゃあ、妹の方を人質にすれば!!』
その中で取り巻きの1人が立ち上がり、絵麻の方へと向かう。
僕はあえて見ている事にした。
もちろんそれは絵麻を見捨てた訳じゃない……というかそんな選択があるはずもない。
――バキイイ!!
『グエエオオ!!?』
「ウジ虫が……私に近付かないでよ」
絵麻が綺麗な突き蹴りを奴にかます。
そう、絵麻にとっても奴らは雑魚同然なのだ。
そうして奴が転んだところで、ワイバーンが馬乗りになって噛み付こうとした。
必死にもがく取り巻き。
『ワアア!? ワアアアアア!! やめろ!! やめろ!! ガアアアいでえええ!!』
――グオオオオオオオン!!
『ウワアアアアアア!! ギャアアアア!!』
ワイバーンが取り巻きの肩に噛み付き、乱暴に振り回した。
『コイツ!!』と言いながら取り巻きの仲間が向かうも、ワイバーンがソイツをこん棒代わりにして叩き付けた。
『グアアア!!』
「そろそろ終わらせるよ、ウザいから」
正直遊んでいる場合じゃないので、さっさと済ませようと≪龍神の簒奪≫を発動した。
右手を連中に向けて、体内にあるエネルギーを奪い取る。
『グオオ!? 力が……抜け……』
『ぐ、……ぐる……じい……』
『ア゛……ア゛アアア……』
全員、徐々に干からびたミイラのようになっていき崩れていった。
その五十嵐に託されたという力は、いとも簡単に僕に奪われたのだ。
「ア゛ッ……アア………あ……れ?」
ただワイバーンがくわえている取り巻きに対しては、あえて中途半端に終わらせた。
異形の姿から人間の姿になって戸惑っているところ、僕は首を容赦なく掴んだ。
「ガハッ!! テメェ……何……を……」
「五十嵐はどこにいる? さっさと案内しろ」
「…………」
奴を中途半端にさせたのは、五十嵐の場所を聞き出す為。
僕が凄みを利かせれば、それはもう素直に従ってくれた。
「……分かり……ました……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕達は取り巻きの案内の元、五十嵐がいるという目的地へと向かっていった。
舗装されていない凹凸の激しい地形を歩くのは骨が折れるけど、奴のところに行けるならこれくらいどうって事はない。
そうしてしばらくして、ついにあるものが見えてくる。
『……やっと来たか。ヘリの音がしたから、もうすぐだと思っていたけどよぉ』
ある岩の上に、無造作に腰かけている五十嵐の姿があった。
もちろん取り巻き達のように異形の姿であるものの、今回は以前出会った時とは様子が違う。
両肩にはミスリルだろうか。それらしき銃器が2本装着されている。
さらに顔を含めた全身には、銀色の装甲版のようなものが取り付けられていた。
まるで癒着しているようにフィットしていて、五十嵐の歪なスタイルに合った鎧として機能されている。
どちらも雨宮さんが言っていた、試作品のミスリルと盾なのだろう。
奴はミスリルで攻撃力を、盾で防御力を上げていると見た。
「五十嵐……」
僕は奴が睨む。
するとワイバーンに捕まれていた取り巻きが暴れ始めた。
「五十嵐助けてくれ!! コイツらマジでやべ……ガアア……!!」
うるさいので奴に残っている力を吸い尽くし、ミイラの状態にさせる。
弱まったところで、ワイバーンがソイツを投げ捨てた。
『ハン、ソイツらを全滅させたのかよ。でも、俺の力をほーんの少しもらっただけの雑魚だからな。ソイツらを倒したからといって、俺を倒せると思うなよ?』
「…………」
僕が黙っている中、五十嵐が岩から立ち上がる。
『それよりもテメェ、いつ森塚とデキてたんだ? 何でテメェみたいなカスが森塚と一緒にいるんだ、ええ?』
「答える義務なんかない」
『……まぁ、あんなオッパイでかいアバズレはどうでもいいか。俺にはやらなきゃいけない事がたくさんあるしよ。
それに見ろ! 特生対研究所に試作品のミスリルと盾があったから、手下の怪獣に持ってこさせたんだ!! この通り俺と融合して最強になったって事だ!! どうだすごいだろ!?』
「そんなのどうでもいい。お爺さんの……お前が奪った怪獣の頭骨はどこにやった?」
五十嵐が今の姿を自慢したがるのに対して、僕はにべもなくそう返した。
正直驚きもしないし心底どうでもいい。
それで案の定、奴が苛立つように青白い瞳を鋭くさせる。
『……はっ? 俺の姿にはノーコメントかよ……クソが。クソ、クソ、クソクソクソ……本当に相変わらず空気が読めないんだなぁ。ていうか眼鏡外したりキャラ変えたり中二病かよ、あっ?』
「御託はいい。早く答えろ」
『……チッ』
奴は舌打ちを鳴らしながら立ち上がり、岩の後ろへと手を突っ込んだ。
『これだろ? お前の言う怪獣の頭骨』
「……………………」
その岩の後ろから取り出したのが、お爺さんの頭骨だ。
だけど普段通りという事はなく、まるで虫に食われたみたいにボロボロの姿になって……。
後ろにいる絵麻から、息を呑む声がしてきた。
『俺の予想通りだったよ。コイツには今までの怪獣にはない、膨大なエネルギーが保有されていた。食べた時なんか力がみなぎるようだったぜ』
奴が自分よりも大きいお爺さんの頭骨を、こちらへと投げ捨てる。
僕の目の前で転がる、お爺さんの痛々しい姿……。
……ほんと……何してくれてんだよコイツ……。
糸が切れるのを覚える中、絵麻が頭骨へと駆け寄った。
「お爺さん……!」
その瞳に一筋の雫を流しながら、お爺さんに寄り添う。
僕は悲しみに暮れる絵麻の肩を叩いた後、2人を守るように立った。
あまり爆発させるな、一樹。
コイツには色々と聞きたい事がある……キレるのはその後でいい。
「五十嵐……お前に聞きたい事が2つある」
『あっ?』
「1つ目。何でお前は東京に怪獣を放った? 人が死んでいるんだぞ?」
まず東京の怪獣についてだ。
僕の元じゃなくて、そちらに送り込んだ理由が分からないのだ。
それで返ってきたのは、
『そりゃお前を殺した後、俺が倒して有名になる為だよ』
「何……?」
『特生対の攻撃を物ともせず、東京を破壊的なまでに蹂躙する怪獣。しかしそこに現れる俺。俺はその怪獣を倒して、特生対に功績を称えられてめでたくヒーローに……完璧なシナリオだろ?』
「…………」
意味が分からない答えだった。
ハッキリ言って理解したくもない。
自分の力を制御できなくて思考が吹っ飛んだのか、それとも元からこうだったのか、あるいはその両方か。
どちらにしても狂っているし、支離滅裂だ。
これ以上は無駄だと思い、僕は次の質問を問いかける事にした。
「2つ目。お前が僕の妹を攫おうとしたのは? 一体何を企んでいる?」
『そんなの決まっているだろ? もしかしてお前は考える頭がないのか? なら教えてやるよ』
五十嵐が牙の生えた口を歪ませながら、さも当たり前のように言い放った。
『ソイツを孕ませて最強の子供を作るんだよ』
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