第91話 怪獣殺しに迷いはない

 お爺さんの頭骨を取り戻す為、どうしてもヘリが必要になった。


 それを未央奈さんに伝えるべく、僕と絵麻はいち早く研究所から出る。

 もう既に、ヒメ達の先導で外に出ているはずだと思ったからだ。


 ちなみに襲ってきた先輩達はワイバーンによって運ばれ、一応安全なところに放置している。

 後の事はどうでもいいし知った事じゃない。


 そうして出入り口を通り抜けたところ、僕達を待ち構えていたのは悲惨な光景だった。


「急げ早く!!」


「こちらは重傷だ! 優先するんだ!!」


「痛い……痛い……」


 外に避難して溢れかえった研究員と多くの救急車。

 そして至るところに見受けられる血まみれの怪我人。


 無事だった研究員もいるはいるけど、それ以上に重傷を負った方が多数だった。

 

 そういった人達はすぐさま担架で運ばれていき、救急車の中へと消える。

 ……中には顔を含めて布を被された人の姿も。


 僕はやるせなさに目をそむけたけど、その際に特生対研究所がどうなっているのか確認した。

 そして案の定というか、研究所は無残にも半壊されていたのだ。


 建物の3分の1は崩壊し、中の部屋などが見えてしまっている。

 事務に使っていたデスクや資料も外に四散していたり、漏電だろう火花が散っていたりと酷い有様だ。


「一樹様、絵麻様、お怪我はありませんですか!?」


 そんな時に、ヒメがこちらへとやって来た。


 彼女の奥にあるベンチには森塚さんや雨宮さん、フェンリルがいる。

 怪我はなさそうで安心した。


「ああ。君達は大丈夫なんだね?」


「はい、何とか! 怪我した研究員の方々も救出しました! ……それよりもお館様は?」


「…………」


「……そうですか……。クソっ、五十嵐って奴……このわたくしが八つ裂きにしてやりたい気分です……」


 僕達と同様、お爺さんを慕っているヒメが怒りの形相を浮かべた。

 

 そうだよ。もう五十嵐のしている事は、高校生のいたずらでは済まされない。

 死傷者が出ている以上、わざとやった訳じゃないとか言い逃れは出来ないのだ。


(……お爺さん……)


 それにお爺さんを呼びかけても、何故か返事が返ってこない。

 

 頭骨を奪われた事と関係があるのかもしれない。

 だったらなおさら早く行かないと。


「ヒメ、未央奈さんはどこにいるかな?」


「えっと……あそこです! 何か話してます!」


 未央奈さんが救急車のところにいるのを発見した。

 僕は絵麻に「ここにいて」と伝えてから近付くと、池上君と彼の父が救急車の中に入っていた。


「これからあなた方を別の病院に移送します。五十嵐の件はお任せを」


 未央奈さんが池上君の父と話していた。

 相変わらず父の方は恐怖で怯えてしまっている。


「頼むよ……アイツがまた来たら私は……!!」


「承知しております。それと今回の件、あなたに責任があるとして会議にかけられると思われます。申し訳ありませんが、その辺の覚悟はした方がよろしいかと」


「な、何でだ!!? 私は被害者だぞ!! なんで会議にかけられないといけない!!?」


「確かにあなたは、五十嵐に脅しをかけられた。その辺は理解しております。しかしあなたは言わなくてもいい余計な情報を五十嵐に与え、今回の事件を間接的に引き起こしてしまった。あなたもまた同罪なのです」


「ふざけるな!! 私は特生対上層部なんだぞ!! 何で罪に問わなければならない!! ほんとうにふざけんな!!」


「父さん、もうやめ……」


「うるさい!! じゃあアレだ!! 私が同罪だと言うのなら、それは貴様ら諜報班も同じだ!! 貴様らがあの化け物を事前に見つけられたら、こんな目に遭わなかったのだ!! この役立たずが!!」


「……なんでそこで未央奈さんのせいになるんだ?」


「ッ!!?」


 僕はそれを聞き捨てられなかった。

 たとえ相手が上層部であったとしても、それは許さないと思ったから。


「確かに五十嵐の件は同情するけど、そうやって未央奈さんに当たって何の得がある? なぁ、教えてよ? 何で未央奈さんが責められるんだ?」


「……あ……う……す、すいません!! 調子に乗っていました!! 大都さん申し訳ありません!!」


 またもや土下座をしてくる。


 何でもかんでも土下座すればっていいもんじゃない。

 周りの目があるんだから。


「別に土下座しろって言ってませんよ。みっともないからやめて下さい」


「で、でも!!」


「やめろ」


「……はい……」


 僕の一言で、やっと池上君の父が立ち上がる。


 やがて彼は息子の肩を借りて救急車に乗り、研究所から離れていった。


 機嫌が悪いといえ、上層部に対して強く当たってしまったな。 

 ほんと何やっているんだろう僕は。


 未央奈さんも相当苛立っているのか、懐から煙草を出して火を付けた。


「ごめんなさい一樹君、口論に巻き込んでしまって……」


「いえ。それよりもお爺さんの頭骨が奪われたので、すぐにヘリの手配をお願いします。五十嵐のところに行きますので」


「バハムートの……場所は分かったの?」


「もちろん。奴は奥多摩のキャンプ場跡地にいるって聞きました」


 ついさっき、五十嵐に操られたバカが教えてくれたのだ。


 奥多摩には、経営悪化で封鎖されて以来使われていないキャンプ場がある。

 経営悪化は2020年代に流行したという感染症が原因だ。


 そこを五十嵐が根城にしていて、お爺さんの頭骨も運ばれているらしい。


 そのキャンプ場のどこにいるのかというのは分からないけど、まぁ奴の事だ。

 僕が駆け付けば、自分から顔を出すだろう。


「それじゃあ、早速操縦士に連絡しておくわ。あと五十嵐の事なんだけど……」


「言わなくてもいいですよ。もう決めましたので」


「……いいの、本当に?」


「ええ。奴は怪獣ですしね」


 五十嵐がもたらした被害、殺傷、そして奴の性格。

 そこから導き出される結論なんて、もう分かりきっているのだ。


 僕はもうその気になっている。

 だからあえて未央奈さんの言葉をさえぎったのだ。


「……分かったわ。じゃあ、あなたはすぐに……絵麻ちゃん?」


「!」


 背後にはいつの間にか絵麻が立っていた。

 

 何より目についたのがソイツの表情だ。


 そこにはさっきあった憂いも悲しみもない。

 あるのは、覚悟と怒りが入り混じった複雑なものだった。


「……付いて行くのか?」


「うん……五十嵐って奴はお爺さんの頭骨を奪った。……絶対に許さない」


「…………」


 正直なところ、あの五十嵐に絵麻を会わせたくなかった。

 

 だけどコイツだってお爺さんの孫で、彼の事を愛しているんだ。

 それなのに行くなと突っぱねる方が、それこそおかしいというものだ。


「僕の側にいた方が安全だよな。でも無理するなよ」


「……ありがとう」


 待っていてお爺さん。

 あなたの頭骨は必ず取り返してみせる。




 ――グァオオオオオオオオオオ!!


「!?」


 その時に聞こえてきたのは、耳をつんざくような獣の咆哮だった。


 さらに爆発音にも似た轟音が響き渡ってくる。

 かなり遠く離れた高層ビル群かららしく、そこから大きな瓦礫が四散しているようだった。


「一体何!?」


 未央奈さんが驚く中、僕はすぐさま動画サイトを開いた。

 映像による情報を見るには、これが一番手っ取り早い。


 それでビルの中から撮っている映像があり、そこにはとんでもないものが。


「五十嵐が操っている怪獣です!」


「えっ!?」


 絵麻と未央奈さんが僕のスマホへと集まる。

 映像には、ビル街を闊歩する眷属怪獣の姿があったのだ。


 ――グァオオオオオオオオオオオンン!!


 まだ道路には大勢の市民が残っていて、50メートル級の怪獣の出現によって必死に逃げ惑っている。

 そんな中で、怪獣が口を開けたと思うと……躊躇なく金色の光線を吐き出した。


『ギャアアアアアアアアア!!』


 道路の市民達が光線に呑み込まれてしまう。

 その悲鳴がビル内からも聞こえるようだった。


 さらに怪獣が大きく首を振り、辺り一面のビルへと薙ぎ払っていった。

 あたかもバターのように裂かれ、崩れていくビル。


 その光線がビル内から撮影していた撮影者へと……。


『うわあ!? うわああああ!!? こっちに来る!!』


『逃げろぉ!! 逃げ……』


 ――プツン。


 光に包まれたと思ったら、映像は真っ黒に暗転した。


 ちょうどその瞬間、遠くの方にある高いビルが爆発する。

 光線が走っている事から、あそこにさっきの撮影者がいたという事に。


「あのクソガキが!! 一体何を考えているっていうの!?」


 未央奈さんの怒りはごもっともだ。

 一体何を考えているのか分からない……でもこれはもう立派な怪獣災害だ。


「未央奈様!! 怪獣ですか!?」


 そこにヒメとフェンリルが駆け付けてきた。

 その後ろには森塚さんや雨宮さんも。


「あの方角に怪獣がいるわ! 一樹君達が五十嵐のところに行くから、あなた達はアイツを止めてくれる!?」


「はい! ではフェンリル様、行きましょう!」


「うん……」


「一樹様、ここはわたくし達にお任せして、奴のところに行って下さい! なんとか食い止めてみせますんで!」


「分かった」


 怪獣の場所へと颯爽と走るヒメ達。

 未央奈さんは2人を見届けた後、僕達へと振り向いた。

 

「頼んだわよ。あのガキを止められるのはあなた達だけだわ」


「了解です」


 僕や絵麻は同時にうなずく。

 もうとっくに、腹に据えかねていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 一樹の独白から、この世界観においても某感染症が流行ったのがお分かりになったと思いますが、実は倒された怪獣が保有していた新種のウイルスが源流という裏設定があります。

「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やフォローよろしくお願いします!

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