第90話 怪獣殺しの怒り

「ていうか妹いんじゃん!! 確かアイツも大都と同じ異能者なんだろ!?」


「ああ、五十嵐がそう言ってた。運がいいじゃねぇか俺達」


 何で彼らがここにいる?


 彼らは五十嵐の所属するサッカー部の先輩で、文化祭の時に絵麻に粉をかけようとした達だ。 

 

 だけどそれだけだ。

 彼らは怪獣でもないただの一般人だ。


 しかしどういう事か。

 渋谷で五十嵐と遭遇した際の違和感、それが彼らから感じてくる。


「『何でこんなところに?』って顔しているな? 実は俺達、五十嵐に頼まれ事をされてよぉ……」


「頼まれ事?」


「そうだよ……オメェをぶっ殺せって命令だ!!」


 するとその時、先輩2人の姿が醜く変形する。

 それはまるで、異形となった五十嵐を思わせるものだった。

 

「……やっぱり五十嵐の仕業か」

 

 厳密に言えば五十嵐の姿を簡略化したもので、どちらもやや薄い灰色をしている。

 いずれにしても五十嵐に何かされたと言わんばかりで、言動がおかしいのもそのせいかもしれない。

 

 ……まさか奴らが、お爺さんの頭骨を盗んだのか?

 あるいは盗みの手引きをしたのか?


「あんた達なのか……こんな事を仕組んだのは?」


『だとしたらどうするよ? まぁ、それよりもアイツから言われたんだよな。「もし妹を見つけたら、生きたまま捕らえろ」ってさ』


「……何?」

 

 その言葉に耳を疑った。

 僕はともかくとして、何で絵麻が関係しているんだ?


 そう思う僕をよそに、奴らが口を大きく歪ませていた。


『で、お前はそのまま殺していいとよ。俺もお前の事が気に食わなかったからさ、嬉しいもんだわ』


「……あんた達、さっきの言葉はどういう事なんだ?」


『さぁてね。とりあえず後輩は先輩の頼みを聞かねぇとなぁ!! 大人しく死んでくれよ!!』


 1人の先輩が獣のように飛びかかり、鋭い牙をこちらへと覗かせた。

 狙いはまっすぐ僕だ。


「兄さん!!」


『ガアアウウ!! ……えっ?』


 牙のある口を閉じた先輩が、間抜けな声を上げた。

 

 それはそうだ。

 奴が噛んだのは、何もない空虚なところだ。


 僕はというと、瞬時に奴の背後に回っている。


『……はっ? グウゥ!!?』


「答えろ、何で妹を生きたまま攫おうとするんだ? なぁ答えろよ……」


 僕は先輩の腕をひねり上げ、さっきの疑問を問いかけた。

 

 コイツらが絵麻を攫うなんて、明らかにマトモとは思えない。

 僕は少しばかりキレているみたいで、口調も冷たさが増していくのを感じた。


 そのままコイツの腕をやってしまいそうだ。

 あるいは回答次第では、四肢全部をやるのかもしれない。 


『コイツうう!!』

 

 もう1人が背後から迫ってくる。

 僕は捻り上げた先輩をぶん投げ、ソイツに当ててやった。


『『ガアア!!?』』


 もつれ合う2人。


 だけどすぐに体勢を立て直すと、後部から生えている尻尾を一斉に伸ばしていく。

 尻尾の先端は鋭く、まるで槍のようだ。


『クソがああ!! 首吹っ飛べぇ!!』


 まぁ、そんなもの。

 僕が指から生やした≪龍神の獄槍≫で斬り落としたけど。


 ボトリと落ちた途端、まるでトカゲのそれのようにジタバタ動く尻尾。


『なああああああ!! 尻尾がぁ!!』


『ば、化け物かよ!? 何で陰キャがこんなに強いんだ!! 聞いてね……』

 

「≪龍神の簒奪≫」


 なんかゴチャゴチャ言っているようだけど、その隙に新能力の簒奪を発動した。

 

 この能力の本質は『相手の能力を吸収し、使えなくさせる』事。

 2人の身体から青白いエネルギーが抜けていき、僕の右手へと収まっていく。


 持っている怪獣の力が抜けていくからか、どちらも目に見えて苦しみだした。


『カッ……カハッ……!!』


『アガ……ア゛ッ……助……け……!』


「もう一度聞く、何で妹を攫うんだ? それとここにあった怪獣の頭骨は? なぁ?」


「……兄さん……」


 ごめん絵麻、今の兄さん怖いかもな。

 でも今はすこぶる機嫌が悪いんだ。


 僕をそうさせた理由、それは五十嵐が絵麻を攫うとかほざいた事。

 そしてお爺さんの頭骨を奪った事だ。

 

 絵麻もお爺さんも、僕にとって大事な家族なんだ。

 ずっと僕のそばにいて、僕を一番に想ってくれている2人を、何故そういう風にするのか理解できない。


 理解できなすぎて……爆発しそうだ。


「言えよ!! 早く!!」


『ガッ……ガッ……』


 簒奪がエネルギーを吸い尽くすと、先輩達が元の人間に戻りながら崩れていった。

 

 全く動かなくなったので、僕は様子を窺う為に近付く。

 そうして分かったのは、どちらも瘦せこけながら痙攣している事だった。


 ただ1人だけ息があるらしい。

 僕は遠慮なくソイツの胸倉を掴み、宙へと上げる。


「五十嵐は何を企んでいるんだ? 妹をどうしようっていうんだ?」


「だ……誰かテメェ……なんかに……ゴハッ!!」


 ふざけた事を言う前に、ソイツの頬を殴ってやった。

 ほんとどうしたんだろう僕は……やっぱり絵麻やお爺さんの事で怒り狂っているのか?


「早く話せ。また殴られたいか?」


「言います……言います……! い、妹は……分かりません……そう言われただけで……」


「じゃあ、怪獣の頭骨はどこにやった? 知っているだろ、さっさと言え」


「……あれは……五十嵐が操ってる怪獣が運びました……場所は…………」


 声が小さかったものの、一応は答えてくれた。

 ただその直後として、ソイツが白目を剥いてうなだれる。


 以前、ヒメ達の能力を奪い取った時とは全然違う。

 生命力と怪物化に関するエネルギーが繋がっている影響だろうか。


 とにかくもう1人も気絶している以上、コイツらには用がなくなったので放り投げた。

 

 怪我? 後遺症? 

 知った事か、コイツらの自業自得だ。


「……お爺さん……」


 か細い声に振り返ると、絵麻が口元を覆っていた。


 涙は出していない。

 だけど敬愛するお爺さんの骨が奪われた事に、かなりのショックを受けている。


「……絵麻」


 僕はそっと近付いて、絵麻の身体を優しく抱き締めた。

 絵麻も僕の胸に預けてうずくまっている。


 ……五十嵐、絶対に許さないぞ……。

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