第83話 怪獣殺しの打ち上げパーティー

「えー、昨日は文化祭お疲れ様。これから1日片付けに専念するから、終わりまでしっかりやるように」


 喫茶店を開いた教室の中、担任の先生がそう言った。

 

 土曜日に文化祭を行った後、本日の日曜日にその片付けをやる。

 これが終われば、月火が振替休日になるのだ。


 ちなみに騒ぎを起こした取り巻きとギャル達だが、取り巻きの方はかなり応えたのか教室の隅で縮こまっていた。

 ギャル達の方はよほど嫌になったのか、不登校になってしまっている。


 ともあれ早速片付け開始……と言いたいんだけど。


「なぁ大都! お前の妹すげぇ可愛かったな!! どこ中なの!?」


「義妹とかそういうの!? まさか実の妹って訳じゃないよな!?」


「俺達にも紹介させてくれないか!? 俺達クラスメイトだろ!?」


「…………」


 なんか片付けをしている最中、男子から次々と言われてきたんですが。

 片付けが中々出来なくて困る……。


「何で紹介しなきゃならんのさ……」


「だってあんな可愛い女の子、初めて見たもん! そんな子と一緒にいるなんて隅に置けねぇ奴だわ!」


「そうそう! なっ、いいだろ!? というか名前なんて言うの!? 好きなものとかは!?」


「俺達友達だろ!? 紹介させて!!」


 クラスメイト同士なのはともかく、友達になった覚えはないんだけどなぁ。

 というか今まで僕に対して無関心だったのに、絵麻が来た途端にコレとか調子がいいというか。

 

 彼らの事を悪く言うつもりはないけど、どこか釈然としない。

 それとまだ義妹扱いしているのが納得いかない。


「……なぁ、あれってどういう事なんだ?」


「あー、なんか大都の妹が文化祭に来たんだけど、その子が可愛いって評判なんだって。だからああして男子がたかっているというか」


「ふーん……」

 

 奥では池上君が女子と話していたけど、すぐに小物を持って出て行った。

 

 それよりもこの男子達だよ。

 片付けがやりにくいし、やけにうるさいし……もうちょっと静かに出来ないかな。


「大都さん」


 と、そこに声をかけたのが雨宮さんだった。


「森塚さんと一緒にゴミ袋持っていきたいんで、手伝ってくれませんか?」


 雨宮さんと森塚さんが、いかにも重そうなゴミ袋を持っていた。

 その近くに2個のゴミ袋があるので、それを持って行ってほしいと。


「ああうん、分かった」


「ごめんね大都君」


「いや、別に大丈夫だよ」


 謝る森塚さんに対してそう返しつつ、僕は男子の集団から潜り抜けた。

 これでやっと解放されるな……と思ったら、そう問屋が卸さないらしい。


「おい、まだ話終わってないぞ! 俺達に可愛い妹紹介させろ!!」


「そうだそうだ! 独り占めズルいぞ!!」


「ちょっと静かにしてもらえませんか。周りに迷惑でしょう」


 雨宮さんが騒ぐ男子達をジロっと睨んだ。

 それによってか、彼らが声を詰まらせてたじろいてしまう。


「そ、そんな事を言われても……」


「第一、今まで無関心だった男子に綺麗な妹さんがいたからって、すんなり手のひら返すのはどうかと思います。見苦しいですよ」


「それは……。ていうかその妹さん、雨宮さんと森塚さんに声をかけていたよな? まさか大都が関係しているのか!?」


「別に。彼女とはオンラインゲームのオフ会で知り合っただけです。大都さんがお兄さんだってのは文化祭の時に知りました」


「ってかあなた達、大都君のじゃないよね? そういう嘘はやめなよ」


「……なんか2人とも、急に大都を庇うようになったね?」


「いけないですか? 同じクラスメイトなんですし」


「……い、いえ……」


 すっかりタジタジになってしまった男子達。

 その隙に雨宮さん達が外に出るので、僕もその後を追った。


「なんかすいません大都さん……。今までああいうのあしらっていた大都さんが慌てたもんですから……」


「やっぱり雨宮さんもそう思ったんだ。さっきの大都君、あしらい方にキレがなかったよね」

 

「……よく気付いたね。すごいな2人とも」


 言われてみればさっきまでの自分、かなり戸惑っていたなぁ。

 今まではアーハイハイってあしらっていたのに。


 それに気付いて2人が割り込んだという事かな。


「未だ絵麻ちゃんを義妹扱いしているの何なんだろうねぇ。ちゃんと見れば似てるってのに」


「別に気にしてないさ。何でなのか分からないけど」


「まぁ、大都君にあんな実の妹いる訳ないって感じなんだろうけどさ。五十嵐だったら絶対にそう言いそう」


 五十嵐君……思わず雨宮さんへと向くと、彼女が苦い顔をしてくる。

 

 森塚さんは彼の姿を知らない。

 この中で知っているのは僕と雨宮さんだけだ。


 あれから地道に彼の捜索が続いているけど、未だ影も形も見当たらないらしい。

 もちろん自身の家にも帰って来ていないとの事だ。


「それよりも2人とも、放課後が終わったら集合ね」


「ん? ああ、もちろん」


「抜かりなく。ちゃんと神木さんには伝えておきました」


 その辺の準備はバッチリだ。

 片付けが終わった後、彼女の家で打ち上げパーティーが行われるのだ。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 下校時間になったのはいいけど、片付けはまだ半分も終わっていなかった。

 なので水曜日へと持ち越しとなって、生徒達全員が帰宅を始めた。

 

 僕も森塚さん達と共に学校を出た後、道中で絵麻と合流。

 それから森塚さんに導かれるように、彼女の家へと向かっていった。


「アレが森塚さんの家?」


「うん」


 僕達の前に一軒家が見えてきた。

 目的地である森塚さんの家らしい。


「お母さんとお父さんが旅行に行っててさ、代わりに1人暮らしてるお姉ちゃんがいるんだ」


「お姉さんか。こう言うのもなんだけど、あれからどう?」


「元気にしてるよ。仕事もバリバリやっているんだって」


 以前、森塚さんのお姉さんがカルト『恵みの会』の被害に遭っていた。

 精神的な後遺症などが心配だったけど、今の台詞からして大丈夫そうだな。


「……あっ。大都君、眼鏡外して」


「えっ?」


「いいからいいから。お姉ちゃんには眼鏡外した大都君見せたいからさ」


「そんな得するもんじゃないんだけどなぁ……。まぁ君が言うなら……」


 言われた通り、僕は伊達眼鏡を外した。

 そうしたら絵麻と雨宮さんがジト目をして……何でそんな急に?


「お姉ちゃん、ただいま」


「あっ、凛ちゃんお帰りぃ」


 森塚さんを先頭に玄関に入ると、彼女のお姉さんが出迎えてくれた。

 

 確かに顔色とかは問題なさそうだ。

 その彼女が僕を見た途端、目をパチパチとさせる。


「……凛ちゃん、良い男の子連れてきたね……」


「言い方……!! えっと……左から大都一樹君に妹の絵麻ちゃん、雨宮飛鳥さん。あたしの友達だよ」


「あっとごめん。こんにちは皆、今日は来てくれてありがとうねぇ」


「いえ、こちらこそありがとうございます。それとよろしければなんですが……」


「わぁ、最近開店したっていうケーキ屋さんの! ありがとう大都君!」


 僕はあらかじめ用意したケーキの箱を、お姉さんに渡した。

 こういうのは絶対に大事。


「もう準備しているから中に入って。凛ちゃんは野菜切るの手伝ってくれる?」


「はいはい」


「あっ、もしよければ私も手伝います」


「絵麻ちゃんも? じゃあお言葉に甘えようかなぁ」


 こうして僕達はゾロゾロと居間へと入った。


 そこにある大きなテーブルには、ホットプレートと多くの肉パックが置かれている。

 つまり今から焼肉パーティーが行われるという訳だ。


 五十嵐君が気掛かりじゃないというと嘘になるけど、この時だけは楽しんでおこう。

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