第82話 怪獣殺しと同じ力

「じゃあ高槻隊長、僕達はこれで」


 事態が収束した後、僕達はヘリで東京本部に戻る事にした。

 高槻さん達はル・カルコルを担当する怪獣解体業者が来るまで、渋谷で待機するつもりだ。


「今回は本当に助かったよ、いやマジで。ミスリル撃てなくなってどうしようって思ったからさ」


「お察しいたします」


「ヒメもフェンリルもどうもねぇ」


「いえ、礼には及びません!」


「こちらこそどうも……」


「うむ、いい返事だ。にしてもあの怪獣もどきは何なんだろうねぇ。≪怪獣殺し≫を知っているぽかったけど」


「…………」


 僕は無言で返すしかなかった。

 口が裂けても、あの怪物が僕のクラスメイトだなんて言えるはずもない。


 やがて察しただろうか、高槻さんが苦笑を浮かべる。


「そういうのを聞くのは野暮か。私達の仕事は、市民の脅威となる怪獣を掃討する事。調べるのは諜報班の仕事だもんね」


「申し訳ございません」


「いいって事よ。まぁ、ヒメ達とよろしくやっていきな」


「よろしくって……」


 それを聞いたヒメが「いやぁ、よろしくって~」と頬に手を当てていた。

 何でなの。


 ともかく僕達は高槻さんや榊原さんに見送られつつ、ヘリに乗り込んだ。

 ヘリが宙を浮いたところで、顔バレ防止用のヘルメットを取り外す。


「ふぅ、もう名前言っていいよヒメ」


「やっとですか! あそこで一樹様の名前出せなかったの、違和感ありますって!」


「よく耐えたわね、ヒメちゃん」


 僕はヒメとフェンリルの間に挟まるように座り、未央奈さんはその向かいに座っている。

 おかげでヒメ達の温度差には困惑しているも、口には出さない事にした。


「怪獣の攻撃から守って下さった一樹様、本当にすごかったです! 惚れ惚れしちゃいました!」


「ああ……ありがとう。あっ、頭を撫でないとね」


「ふにゃん! やっぱり一樹様のお手々気持ちいいです~」


 僕に撫でられて蕩けるヒメ。


 それでフェンリルの方を見れば、彼女がやや寂しそうな顔をしている。

 彼女にも撫でてやると、花が開くような笑みが浮かんできた。


「一樹の手……温かい……」


「むしろ君の方が温かいと思うんだけどね」


「ほんとに怪獣にモテモテね、一樹君って」 


 未央奈さんはというと、僕達の様子を見てニコニコしていた。

 が、すぐに険しい表情をしながら尋ねてくる。


「それで一樹君、あの怪物の正体が五十嵐君だった……これは間違いないのね?」


「はい、この目でハッキリと」


「わたくしも以前会った事があるので、すぐに分かりました! どうみてもアレ、普通の人間じゃありませんって!」


 そう、アレはまさしく人間のものとは思えなかった。

 

 異形の姿は言わずもがな。

 人間としての姿も、どこか目が虚ろで言動もおかしいと来た。


 錯乱しているのか、それとも怪物になった影響か。

 いずれにしてもおぞましいこの上ない。


「彼はル・カルコルの死骸を喰らっていた。となると、彼がクリスタルを返り討ちにして喰らったのかもしれない。本人や召喚した怪獣から結晶が生えているのも、それ由来だとしたら矛盾はないわ」


「怪獣を喰う事で……その性質を取り込んだ……」


 フェンリルが渋面を浮かべている。


 彼女でさえ、あのような光景を見るのは初めてだったに違いない。

 それくらい今までの怪獣にはない異様さがあった。


「それに全身の力が抜けるだけじゃなく、ミスリルが使えなくなったって聞いてます。さっき周りにあった結晶が原因でしょうね」


「もしかしたら、そういった動きを阻害する電波を発していたのかもしれない。ミスリルも発砲の際には電力を使用するからね。……ほんと何があったのかしら、彼」


 未央奈さんの言葉は僕の疑問でもある。

 

 ル・カルコル戦の後に感じた違和感は、彼から発せられたもので間違いないはず。

 アレを感じた理由……何かあるのかもしれない。


(お爺さんはどう思う?)


 ダメ元でお爺さんに尋ねてみた。

 聡明そうめいな彼なら何か分かるのではと思ったからなんだけど、何故か返事がすぐに来なかった。


(お爺さん?)


(……一樹よ、この話を神木未央奈達に伝えてくれるだろうか?)


 やっと出てきたお爺さんの言葉は、やけに重たく感じていた。

 

 お爺さんが未央奈さん達への伝言を、僕へと言ってくれた。

 ――そして僕は、その思いもよらない内容に耳を疑ってしまった。


(……以上だ。では頼む)


「……未央奈さん、お爺さんの言葉を伝えますね」


「バハムートの?」


「はい。五十嵐君のあの状態、お爺さんの力そのものらしいです。つまり僕と同類という事になります」


「…………」


 ヘリ内が凍り付くのが分かった。

 未央奈さんもヒメ達も、信じられないといった目で僕を見つめてくる。


「それは本当なの、一樹君……?」


「お爺さんも彼が現れてやっと分かったらしいですけど、どうも彼にお爺さんの血が混ざっていて、それが発現している状態だそうです。なので彼は僕や絵麻と遠縁だったという訳です」


 お爺さんことバハムートは、人間の女性と交わって子供を産んだ。

 その子供がバハムートの力を引き継いでいて、僕と同じように大怪獣を倒せる事が出来たらしい。

 

 それからネズミ算式に子孫が増えていったけど、同時にバハムートの力が薄れていき、自身がバハムートの子孫だと気付かない人が多くなってきた。


 五十嵐君もまた、僕達と同じようにバハムートの子孫だったのだ。


 クリスタルに襲われた事がトリガーだったのか、はたまた偶然だったのか。

 急に彼にバハムートの力が発現し、クリスタルを返り討ちにしてその身体を喰らった……それが真相なんだろう。


「何であのような姿に……いや、それよりも彼を確保するのが先決ね。ヒメちゃん、フェンリルちゃん、もし防衛班や諜報班の捜索が遅れるようだったら、あなた達にも出てもらうわ。匂いとかは覚えているよね?」


「……はい、もちろんです」


「それまで研究所で待機させてもらうわ。一樹君も同じようにしながら、学校生活に戻ってくれる?」


「ええ。雨宮さん達にはなんて報告します?」


「……飛鳥ちゃんにだけこの事を伝えるわ。凛ちゃんと絵麻ちゃんは保留という事で」


「分かりました」


 同級生が怪獣のような存在になったと聞いたら、森塚さんはどんな顔をするのだろうか。


 それからヘリは東京本部に到着。

 僕は自宅、ヒメ達は研究所に戻る事になった。


 僕が本部前のバス停で行こうとしたところ、そこにヒメが声をかけてきた。


「一樹様……」


 憂いに満ちた表情だ。

 五十嵐君の真相を聞いた後から、不安を抱いているみたいだ。


「……心配ないよ。何とかなるさ」


 僕はヒメの頭に手を置いて、安心させようとした。

 彼女はまだ納得していないものの、何とか微笑んでくれる。


 その後に僕はバスや電車を使って自宅に戻り、そこで待つ絵麻に顔を見せた。


「ただいま」


「兄さんお帰り!」


 絵麻の嬉しそうな顔に、何だか元気が湧いた気分だ。

 

 家に待機している間、諜報班による五十嵐君の捜索が開始されたらしい。

 それでも中々実らず、鼻が利くヒメとフェンリルを動員するも結果は同じ。


 そうして1日が過ぎようとしていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 お察しとは思いますが、五十嵐君の怪獣姿はスペースゴジラがモチーフです。

 そのスペゴジにあった『主人公と同質の力を持った敵』というコンセプトを受け継いでいる訳です(もちろん格には雲泥の差がありますが)。


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