第81話 怪獣殺しの邂逅

「えっ、新しい怪獣?」


 ヒメ達のところに向かう最中、急に未央奈さんから連絡があった。

 それも彼女にしては焦っている様子だ。


『ええ! 周囲を封鎖していた諜報班が、ビルの上を飛ぶ影を目撃したの! それでソイツがヒメちゃん達の前に現れて、手下の怪獣をけしかけているらしいわ!』


「一体何なんだ……?」


『分からない! とにかく彼女達のところに向かって! かなりヤバイんだって!』


「……了解」


 僕は≪龍神の力場≫による高速滑走を駆使し、ヒメ達のいるポイントへと向かっていった。

 

 さっき感じた違和感はソイツのせいだったのか。

 それにヒメ達を苦戦させるなんて、一体どんな奴なんだろう。


 そう思いながら角を曲がった時、思わぬ光景が目に飛び込んできた。


 ――グァオオオオオオオオオオオンン!!


 まず敵は2体いる。


 1体目は灰色の巨大怪獣。

 肩や背中から無数の結晶を生やし、翼のないドラゴンのようなマッシブな体系をしている。


 頭部には青白い複眼があり、左右2対持っていた。

 さらに口元の牙が鋭くも不揃いで、実に不気味だ。


 そしてその奥に、人間より気持ち大きめの怪物がいる。

 2体目の敵だ。


 ちょうど怪獣の方を人型に押し留めたような姿で、おそらくその同類かもしれない。


「う、動けない!! どうすれば!!」


「くう……」


 それよりもヒメ達の方、どうみても様子がおかしい。


 全員もれなく膝を突いて苦しんでいる。

 さらに防衛班がミスリルのトリガーを引いているが、銃口から全く弾が出てこないらしい。

 

 周りには電流を発している複数の結晶がある。

 というと、あれが関係しているのか?


『ヒャハハハハハハ!! 手も足も出ないだろぉ!! これでお前らはおしまいだぁ!!』


 ……怪物の方の声、どこかで?


 いや、それよりも怪獣の左肩から生えている結晶。


 そこに電流が発したと思うと、左腕へと血流のように伝達。

 青白く光り始めた左腕を、怪獣が思いっきり道路に殴りつけた。


 ――ドオオオンン!!


 道路からエネルギーの衝撃波が発生し、ヒメ達へと襲い掛かる。


「ヒイ!?」


 ヒメが悲鳴を上げている中、僕はジャンプして彼女達の前に立った。

 すぐに前方全体に障壁を展開し、衝撃波を受け止める。


 衝撃波は2つに分かれた後、防衛班を通り越して後ろへと向かってしまう。

 そのまま両脇の建物に当たり、派手に爆破。


 ……建物の所有者さん、許してほしい。

 これは絶対にどうしようもなかったんだ。


「かず……あっ、いえ何でもありません!」


「大丈夫?」


「は、はい……! ですが身体が重くて……怪獣の姿にもなれないんです……!」


 異常の原因だろう結晶を破壊したいところだけど、巨大怪獣が邪魔するかのように迫ってきている。


 僕は怪獣を仕留めるべくジャンプをする。

 対し怪獣が喰らい付こうとするので、それをかわして頭頂部に乗った。


「≪龍神の爆滅≫」


 僕が頭頂部に手を添えれば、それがトマトのように破裂。

 身体は後ずさるように倒れ、青白い粒子となって消滅した。


「粒子になった? まぁいいか」


 これで大きい奴は仕留めた。

 あとはあの怪物を始末するだけだ。


『……この匂い……まさか……嘘だろ……ええ?』


「……?」


 僕が臨戦態勢に入ろうとした時だった。


 怪獣を操っていたらしい怪物が、そんな声を出して狼狽え始めたのだ。

 僕が呆然としている中、奴は頭を抱えている。


『嘘だ……嘘だ嘘だ噓だ噓だ噓だ噓だ……!! 何でコイツがここにいる!? 何で俺の手下の攻撃をはじき返した!? あの陰キャクソ野郎が!? こんなの夢だ!! 夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だぁ!!』


 まるで現実逃避しているかのような錯乱の仕方。

 コイツ……僕の事を知っているかのようだ。


 そう思っていると、怪物の身体が徐々に変化して…………えっ?


「五十嵐……君?」


 ヒメ達みたいに、怪物が人間の姿になった。

 しかもあろう事か、その正体は怪獣に襲われていた五十嵐君だったのだ。


「クソクソクソクソ!! こんなのおかしいだろう!? おかしいだろうぉお!!」


 彼が道路へと拳を振り下ろし、粉塵や瓦礫を舞い上がらせた。


 僕がすぐ彼のところに駆け込むも、その姿はどこにもなかった。

 代わりに大きな穴がある事から、そこから離脱をしたか。


 ――パキン!


 その直後、周りの結晶が次々と砕ける。

 同時にさっきまでうなだれていたヒメ達が、何事もなかったかのように立ち上がる。


「あれ……身体が……やっと体調が良くなりました!」


「…………」


「どうしました?」


「……ああごめん、ちょっとね」


 五十嵐君の事件から抱いた違和感が、やっと確信に繋がったような気がした。


 あの時、五十嵐君はクリスタルや別の怪獣に殺されてはいなかった。

 理由はよく分からないけど、彼は人外となって生き延びたんだ。

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