第77話 怪獣殺しの妹の来訪

「うわぁ……アイドルみたいで可愛い……」


「このクラスにあんな子がいたらなぁ……」


「というか兄さんって言ったよな? 誰かの妹?」


 絵麻の登場に、クラス全体がいきり立っていくのが分かった。

 

 アイツは今、白フリルブラウスに黒スカートと愛らしい格好をしている。


 そのフリルブラウスの胸に大きめのリボンが付いていて、これまた良いアクセントになっていた。

 さらにたしなみ程度にやったというナチュラルメイクが、実年齢よりも大人びた魅力を出している。


 ちょっとばかりクラスが一波乱になっているけど、まぁこうなるのは目に見えていた。

 

 そもそも、あの時の絵麻に来ないでなんて言える訳がない。

 来たのなら、出来る限りのおもてなしをしないと。


「待ってたよ、絵麻」


「フフッ、待たせちゃいました。雨宮さん、森塚さん、おはようございます」


「おはようございます」


「うん、おはよう。よかったらゆっくりしてて」


「はい」




「……もしかして、大都の妹?」




 誰かが呟いたのを機に、またもやひそひそ話が聞こえてきた。


「あの陰キャ眼鏡が可愛い妹を? いや、あれはそう言わせているだけの赤の他人だろ?」


「あるいは従妹とか遠い親戚かもしれない。それなら納得かな……」


「にしてもあの子、森塚さんと雨宮さんと知り合いだったのか……。どういう関係?」


「まさか大都のハーレム……いやそんなのないか、アイツなんかに限って」


「……チッ……」


 絵麻がクラスメイトに背を向けていながら、その目を鋭くさせていた。

 というか舌打ちが聞こえたような……いやいやコイツがそんな事するはずが……。


「絵麻ちゃんどうどう……大都君、案内させて」


「うん……絵麻こっちだよ。それで注文どうする?」


 僕は絵麻をテーブルに案内させた後、メニュー表を見せてあげた。

 豊富なレパートリーのおかげか、絵麻の目がキラキラだ。


「うわぁ、いっぱいあるんだね。あっ、シュークリーム! 私これ食べたい!」


「お前シュークリーム好きだもんな。じゃあ飲み物は?」


「えっとね、とりあえずオレンジで」


「ね、ねぇ!! 大都どういう事よ!?」


 と、さっきまで絡んでいたギャル達が声をかけてきた。

 五十嵐君の取り巻き達と同様、呆気にとられた顔をしている。


「どういう事って?」


「その子って本当に妹!? なんであんたみたい奴がそんな妹を!? もしかして義妹!?」


「さてはあんた、適当な女の子を自分の妹にしているとか!? 犯罪よそれ!!」


「…………兄さん、ほっとこう」


「うん……」


 何か支離滅裂な事を言っているなぁ……。


 ちゃんと絵麻は実の母親から生まれたし、DNAとかも限りなく一緒。

 しかもお爺さんの力を持っている者同士。


 何でそこで、絵麻は義妹だとか他人だとかになるんだろう。

 言いたくないけど、現実を認めたくないのか?


「ねぇ、何とか言ったら……」


「お、大都!! 俺達友達だよな!? ていうか今までのはすまんかった!! あれはちょっとしたじゃれ合いだったんだ!!」


「俺もだ、許してくれ!! てか君可愛いな! どこ中!?」


 今まで黙っていた取り巻き達がグイグイ迫ってきた。

 一体何だってんだ……?


「ちょっとあんたら、何を急に!!」


「うるせぇブス!! 少し黙ってろよ!!」


「ブ、ブス!?」


「だってそうだろ!? オメェらみたいな化粧濃いのと、この……大都の妹? 全然見た目に雲泥の差があんじゃねぇか!」


「ていうか彼女との話に邪魔すんなよ!! そのうるさい口閉じとけっつうの!!」


「ハァアア!? 何よ偉そうに!! この五十嵐君の糞が!!」


「んだとテメェ!!」


 今度は取り巻きとギャルで喧嘩が始まったぞ……。

 これどうすればいい? やっぱり店員として注意するべきか?


「周りのお客さんの迷惑になるから、静かにしてくれないかな?」


「おお、悪い悪い! それよりもお前の妹なんだろう!? 俺達にも紹介させてくれよ!!」


「俺達、同じクラスの友達だろ!?」


「何で?」


「「えっ?」」


「だから何で? 君達と友達になった覚えないし、紹介して何になんのさ?」


「「…………」」


 別に今までの事は全然気にしていないけど、いきなりトンチンカンな理由で絵麻に近付くのは許せない。

 これで引き下がると思いきや、彼らはそうはいかなかった。


「じゃ、じゃあ妹の意見は!? なぁ、俺達と一緒に回らない!? 上手くエスコートしてやるからさ!」


「体育館で軽音部のライブやるんだけど、よかったらそっちに……」


「ねぇ兄さん、いつぐらい空くの?」


「ん? 大体10時半くらいかな。……んと、注文出来たから持ってくるね」


「あっ、ありがと。というかあと1時間なん……」


「ちょっ、無視しないでくれ!! まだ話が……」


 と言って、絵麻に食い下がろうとする取り巻き達。

 しかし絵麻がそんな彼らに対し、今までにないような冷たい目をしてきた。


「何なんですかさっきから? あなた達のような人達と話す事なんてないんですが」


「い、いや……でも……」


「そもそも女の人をブスとか言っている人達と一緒にいて、何が楽しいっていうんですか? そうでなくても、あなた達と回りたいなんて微塵も思ってないですけど」


「うぐっ……」


 おぅふ……絵麻、結構ズバッと言うなぁ。

 って、僕も言えた口じゃないか。


「それよりも周り見た方がいいですよ」


「えっ……?」


 そう、取り巻き達は今まで気付かなかったらしいけど、周りから彼らへの苦情が出ていたのだ。

 それもこの学校の生徒だけじゃなく、来客の方からも。


「何だアイツら……店ん中でいきなり怒鳴って……」


「マナーのない連中だなぁ……」


五十嵐によく付いていた連中だもんなぁ。お里が知れるわ……」


「……そ、それじゃあ場所を変えて話を……」


「しつこいよ。それよりも飲み終わったら、そろそろ席離れてくれないかな。他のお客さんが待っているんだから」


「「……おう……」」


 僕の一言に、取り巻き達がお金を置きつつ外に出ようとする。

 その後に続く、顔真っ赤にしたギャル達。


「ああもう!! あんた達のせいで文化祭最悪だわ!!」


「ハァ!? 俺達のせいだってのかよ!?」


「実際そうでしょう!? 大体さっきのブスって何よ、ブスって!! ちょっと話聞いてる!?」


「うっせぇな、付いてくんな!!」


 そうして彼らがいなくなった事で、喫茶店に静けさが戻った。

 そんな中、僕が持ってきたシュークリームを絵麻が美味しそうに頬張っている。


「うーん、美味しー」


 大好物にありつく事が出来て、何とも幸せそうな顔をしていた。

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