第75話 怪獣殺しの違和感
どうも五十嵐君達は夜の森にいるようだった。
彼は映像を映しているカメラマンと、いかにも軽薄そうな男性と行動している様子。
この後者ってどこかで見たような……。
『そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 何で不登校になってまで、この俺の動画企画に参加したのか』
『……俺、特生対の防衛班を目指しているんですけど、夏休みに入る前に怪獣に出会った事のない奴が特生対に入るなんて甘いって言われまして……。なんで杉田さんの企画に参加しようと思いまして』
『へぇ、それは面白い! そういう事なら協力するからさ、もし怪獣に出会ったらアクションしてくれよな』
『本当に会えるんですかね、怪獣?』
『俺の情報網はすごいんだぜ? 各地に俺の協力者がいて、さらにネットワークで情報を共有し合っている。ぶっちゃけ諜報班以上かもな』
杉田……そうか、ユーツーバーで有名な杉田か。
有名といっても炎上的に有名という意味で、怪獣災害の被災地を面白全開で見回ったり、自ら暴れている怪獣に近寄って実況したりと、それはもうコメントが批判だらけになる行動ばっかりしている。
僕も軽く動画を見た事があるけど、よくこれで人に刺されたり怪獣に喰われたりしないなと思ったものだ。
『今日も怪獣に接近して実況するつもりだからよ、100万再生を目指したいぜ』
『なるほど。あと、これは怪獣と無関係かもしんないんすけど』
『あっ、何?』
『俺のクラスメイトに陰キャ1人いまして。ソイツに立場を分からせようとしたら……急に変な奴が出て仲間をやっちゃって。いや、あれは幻覚かなんかだったかもしんないけど、俺が驚いている間にその陰キャに気絶させられちゃったんですよ。……あの時の陰キャの顔、今でも怖いと思ってます』
ああ……そういう事あったなぁ。
『でもあの時、俺は冷静じゃなかったんで、きっと気のせいだと思うんすよ。仲間はアイツヤバいって尻込みになったんですけど、これが終わったら説得しようと思いまして』
『へぇ、色々あったんだな』
『まぁ。とにかく怪獣に会えるのなら、ぜひとも協力しますんで。そんで最高の動画を作りましょうよ!』
五十嵐君は未だ雨宮さんに言われた事を気にしていて、それでこのユーツーバーと手を組んだって感じか。
彼らは夜の森を突き進みながら、あれこれ動画の事を話していた。
『よぉし、怪獣の姿が見えたら実況始めるからな。カメラマン、気合い入れてくれよ』
『りょーかい』
『にしてもどんな怪獣がいるんでしょうかねぇ? なんか光っているとか言ってたんですっけ?』
『ああ、身体中がピカピカしてたんだって。多分発光怪獣だから、すぐに見つかるはず――』
瞬間、杉田の身体が浮き上がった。
――グシャアアッ!!
直後として、画面外から柔らかいものを潰すような音が鳴り響く。
さらに上から垂れる赤い液体……いや鮮血。
『えっ?』
五十嵐君やカメラマンが呆けた声を出して、頭上を見上げていた。
そこには惨たらしい姿になった杉田が、宙に浮いている。
というより目を凝らしてみると、半透明な腕が杉田を握っているようだ。
さらに暗闇の中でぼんやり全体像が見える。
ワニのような長い頭部に赤く光る目、手足の長い2足歩行。
そして腕と同様、半透明をした10メートル程度の身体。
……コイツは驚いた。
五十嵐君達の前に現れたのは、全身が結晶で出来た怪獣だった。
『う………うわあああああああ!!』
『おい、置いていかないでくれぇ!!』
真っ先にカメラマンが逃げ出し、その後を追いかける五十嵐君。
全力で走っている影響で、映像が激しくブレ始める。
そんな中で巨大な足音が聞こえている事から、怪獣が追っかけているのは明白だ。
『ハァ……!! ハァ……!! グアッ!!』
するとカメラがポトリと落ちた。
ちょうど映像は、怪獣に捕まったカメラマンの姿を捉えている。
右手に鷲掴みされたカメラマンが、樹木に何度も叩き付けられて……。
『やめっ……グエッ!! ゴボッ……!! アゴッ……!!』
『ヒ、ヒイイ!!』
カメラマンの惨状を見た五十嵐君が、恐怖の顔を浮かばせながら逃げようとした。
だけど怪獣がそんな彼目掛け、血まみれのカメラマンを投げた。
五十嵐君は彼に当たってしまい、地面に倒れてしまう。
『グワッ!!』
そこに地響きを上げながら迫る怪獣。
五十嵐君は完全に腰を抜かし、地べたを這いずりながら下がるしかなかった。
『嫌だ……死にたくない……俺はまだ誰ともヤれてないし、防衛班にも入っていないのに……!! こんなんで……死にたく……死にたくないよぉ!!』
――グオオオオオンン!!
『う、うわあああ――』
五十嵐君の断末魔の直後、映像にノイズが走った。
怪獣がカメラを踏み潰したのだろうか。
「…………」
衝撃すぎる映像だった。
呆然としてしまった僕だけど、整理をしておきたい。
あの怪獣の全身は、半透明の結晶で構成されていた。
杉田の口にした「身体中がピカピカ光っていた」という証言は、おそらく日中の太陽光で身体が反射され、あたかも光っていたように見えていたのかもしれない。
それを杉田が「光っているから夜でも見つけやすい。それにいざという時は逃げやすい」と思ったのだろう。
しかし結晶の特性上、夜の暗闇では見えにくくなってしまい奇襲されてしまった。
怪獣は縄張りに侵入する者を許さない。
たとえそれが自分より
そしてハッキリと映らなかったけど、五十嵐君はもう……。
「……あれ?」
《未央奈さん:映像を見終わったらリモート開始したいの。出来れば今すぐ》
未央奈さんから追加のラインが来た。
不思議に思いつつもリモートのアプリを開いてみると、未央奈さんの顔が映し出された。
『一樹君、お勤めお疲れ様。さっきの映像の意味分かったでしょう?』
「ええ、僕のクラスメイトが映ってました」
『今のは3日前、埼玉県の山奥で発見したカメラの映像よ。ユーツーバーが怪獣を撮りに出かけると言ったきり戻ってこないって情報を聞いてね。そうして捜索していたところ壊れたカメラを発見して、映像データを修復させた訳。まさかそこに見覚えがある顔が映ってたなんて思わなかったけど』
未央奈さんはケツァルコアトル退治の際、五十嵐君の姿を目撃した事があった。
よく覚えていたものだ。
『発見した時は酷い有様でね……遺体とかが転がっていたわ』
「そうですか。じゃあ五十嵐君は……」
『いや、彼の事なんだけど……実は同行していた男性2人と違って、何故か遺体が発見されていないのよ』
「えっ?」
『しかもこれを見て』
未央奈さんの顔が離れていき、部屋が映し出された。
特生対研究所内のルームだと分かった後、そこに映像の結晶怪獣がいるのが分かった。
よりによって、バラバラに四散した死骸となって。
『カメラと共に回収した結晶怪獣「クリスタル」。この通り、奴は何者かに惨殺されて仏様になっているわ。しかも断面には歯形が付いていた』
「という事は」
『推測なんだけど、このクリスタルを喰い殺した怪獣がいた。そしてその怪獣が五十嵐君を連れて行方をくらました。五十嵐君の生死については今なお不明……いずれにしても彼を捜索すべく力を入れている最中よ』
「……そうですか。すいません、僕に話してしまって」
『いいえ、同じクラスメイトだから耳に入れた方がいいかなって思って。それじゃあ、私はこれで』
「はい」
通話はこれで終わり。
まさか五十嵐君がそのような目に遭ったとは……しかも何だろう。
「違和感があるな……」
そんな事を呟いた時、奥から扉の音が聞こえてきた。
どうやら絵麻が帰ってきたらしい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
今回の怪獣は幻獣からかけ離れた名前をしていますが、実はこれに相応しい幻獣名が思い浮かばず「クリスタルもファンタジーでよく出るしそれでいくか」となってまんま「クリスタル」にしたという裏事情があります。
「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やフォローよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます