第74話 怪獣殺しの文化祭準備
そうして翌日、学校の日となった。
「ねぇ、ペンキまだあるー?」
「あるよー。何色ー?」
「そっち持ってて。うん、そのままそのまま」
「じゃあ、先生のところに行ってくらー」
「行ってらっしゃーい」
どの学年も教室、あるいは廊下に看板や装飾などを取り付けている。
それによって質素だった学校全体が、徐々に華やかなものになっていった。
前にも言ったように、4日後に始まる文化祭に向けての準備中だ。
僕達のクラスも例外じゃなく、専用のテーブルを用意したり、飾り付けを行っていたりしている。
ちなみにこの白神高校では土曜日に文化祭開催、それから日曜日に文化祭の片付けといった決まりになっている。
土日に登校する代わりに、月火が振替休日になるのだ。
「はぁ、喫茶店とかテンプレすぎてやる気でないんだよなぁ」
「それそれ。しかもメイド服は禁止っていうし、何の面白みねぇよ」
「男子! 喋っている暇があったら手伝ってよ!」
「はいはい」
今回やるのはオーソドックスな『喫茶店』。
まぁ、今言ったようにコーヒーやお菓子を出すだけのシンプルなものだ。
いわゆるメイド喫茶とかじゃない……興味はないけど。
僕は窓近くで、装飾を取り付ける仕事に取りかかっていた。
何でもクラスの中で比較的背が高いから、こういう仕事に向いているんだとか。
正直ちょっと嬉しい。クラスの立場からして「何もしなくてもいい」とか言われるのではと思っていたから、こうして仕事がもらえるのは助かる。
「おい、オメェこれやっておけよ」
「えっ? さっき皆でやれって委員長が……」
「あっ? なんか文句あんのか?」
「俺達は休憩しなきゃいけないんですよー」
「そんな……」
僕の近くで威圧感たっぷりの声がしてくる。
それは五十嵐君の取り巻き達が、気弱そうな男子に仕事を押し付けている様子だった。
なお、そこには五十嵐君の姿はない。
彼は2学期が始まっても顔を見せていなくて、実質不登校状態になっている。
取り巻き達の方はあのように普通にいる訳だけど、
「……行こうぜ」
「ああ……」
何故か僕の姿を見た途端よそよそしくなって、教室を出て行ってしまった。
以前の姿とは程遠くて、最初に見た時は心底驚いたものだ。
もちろんあの五十嵐君が姿を現していない事にも、クラス全体に衝撃を与えたのは言うまでもない。
「おい、備品持ってきたぞ」
「ああ、サンキュー」
「……なぁ、さっき五十嵐の取り巻きとすれ違ったんだけど、なんか1学期に比べて大人しくなった感じがしねぇ? 五十嵐も最近出てこなくなったし」
「あー、池上辺りが言ってたんだけど、アイツら終業式の後に大都に絡んでいたらしいんだ。それが原因じゃないかって」
「えっ? じゃあ大都ってああ見えてヤバい奴……?」
「池上も最後まで見てた訳じゃないけど、もしかしたらあり得るかも。ただ先生か大都の味方をしている誰かが駆け付けたんじゃないかって言われているけど」
「いずれにしても、そういう力とかバックとかがあるって事だろ……。やべぇ俺、大都の事を見くびっていたわ……」
僕の事を見ながら話している男子達……って何か酷い事になっているような。
いや、今の男子がそう言っているだけで「僕が五十嵐君達をやった」と断言されていないはず。
現にクラスの雰囲気は、あれから変わっていないのだ。
じゃあ、取り巻き達のよそよそしさは何だってなるけど、もしかしたらヒメが現れてボコられた事に混乱しているのかもしれない。
「話変えるけどさぁ、先月の米軍のスタンピード戦すごかったな!」
「ああ! なんか300メートルもあるアンタイオスやったらしいな! マジチート! ソイツをやった奴、絶対に英雄だわ!」
1月経っているのに、スタンピードの話題が尽きないんだなぁ。
まぁ、そんな事よりも仕事を早く終わらせないと。
僕に指示した委員長から怒られそうだし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして下校時間間近になったところ、僕の仕事は完了した。
「こんなものかな」
紙の花びらやらハートやらを窓際に貼る仕事だったけど、割と面倒だった。
でもこうして終えると「ああ、僕はちゃんと仕事したんだな」って達成感が出てくるな。
うん、悪くない。
「それじゃあ、放課後に残る生徒は私に連絡して下さい。先生に報告しますので」
ホームルームが終わった後、委員長がグリップボードを持ちながら呼びかけていた。
文化祭当日前になっても間に合わない場合、残業という形で仕事する人もいる。
ただ僕に課せられた仕事は終わったし、特に追加も頼まれてもいない。
家で待っている絵麻を安心させたいので、僕は早く帰ろうと支度を始めた。
「ねぇ、大都~」
「ん?」
そんな僕の元に、3人ほどの女子がやって来る。
五十嵐君と仲良かった化粧濃いギャル達だ。
「何?」
「実はさぁ、まだあたし達の仕事が終わってないんだけどさぁ、あんた残ってやってくれない?」
「あたし達これから遊びに行くから。ねぇ頼むよ~」
「まさか断ろうとか思ってないよね? よね?」
あー、なるほど。
要は仕事の押し付けか。社会に出たらよく言われるやつだ。
「それは無理だよ」
「はぁ?」
「僕の仕事は終わったし、そろそろ帰らないといけないからさ。悪いけど他の人に頼めないかな」
「何ふざけた事言ってんのよ。可愛いあたし達がやってくれって言っているんだからやりなさいよ」
自分で可愛いって言うかな。
そもそも化粧濃くてそんなに……って感じだし。
「委員長、僕はもう帰っていいよね?」
「えっ? まぁ、そうだけど……」
「だって。それにさ、僕と君達は頼み事を交わすほど仲が良い訳じゃないじゃん。仲良いなら分からなくもないけど、いきなり何も知らない人から『はいやって』って言われても困惑するだけだ。そうだろう?」
「…………ぐうう……」
歯ぎしりするギャル達。
うーむ、ちょっと言いすぎたかなぁ。
「大都君の言う通りだよ。それに彼が帰りたいって言ってるじゃない」
「……! 森塚……」
するとそんな時、森塚さんがやって来てギャルに物申したのだ。
これは意外だ。
「自分の仕事は自分でやる。大都君は自分の仕事を終わらせたんだから、それで十分でしょ。そんな事も分からないの?」
「分から……ねぇ、あんた達も何か言ってよ!! コイツらウザいんですけど!!」
1人のギャルが帰ろうとしている取り巻き達に叫ぶも、彼らは妙に弱腰だった。
「いや……大都は……まぁうん……」
「それに森塚さんは五十嵐が好きらしいしさ。手ぇ出せないよ……」
「~~~~!! もう行こう!!」
ギャル達が大股で歩きながら帰ってしまった。
結局仕事やんないだね……。
なおギャル達の後に、取り巻き達もそそくさに帰ってしまった。
「ありがとう、森塚さん」
「ううん、どうって事ないよ。あたしは雨宮さんと一緒に仕事あるからさ、早く帰りなよ」
雨宮さんは奥で看板を作りながら様子見していたようだけど、今は安心した顔になっていた。
「……森塚さんが大都を庇った?」
「もしかしてデキちゃっている系?」
「いや、大都に限ってそんな……でも羨ましいなぁ……」
「……まぁ、周りもこんなんだから早く帰った方が」
「そうだね……じゃあね、森塚さん」
「うん」
雨宮さんも無言ながら、軽く手を挙げてくれた。
僕は2人に見送られながら学校を出ていく。
それで家に着いて玄関に入るも、絵麻の靴はなかった。
どうやらまだ帰って来ていない様子だし、もし遅くなったら夕食の用意を先にやっておこうか。
僕は手洗いを済ませてから自室へと入る。
「……ん?」
伊達眼鏡を外した時、スマホにラインが届いたのだ。
《未央奈さん:一樹君。今からある映像を流すから、穴が開くくらいによく見なさい》
「映像?」
今回の未央奈さんのメッセージ、今までにない感じだ。
一体何だろう。
メッセージの下には映像アイコンがあるので、言われた通りすぐタップをした。
すると画面全体が暗くなる。
いや、これは夜の映像を映したものらしく、さらに映像を流している者は車の中にいるようだった。
そんな中で映像を流している者が車の外を出る。
男性の声もしてきた。
『本当にここにいるんすか?』
『ああ、俺の情報網では間違いない。絶対に怪獣に会えるぜ』
……一番最初の声って。
その映像が移動して、ある人物を映し出す。
それは紛れもなく、最近姿を見せていない五十嵐君だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます