第71話 怪獣殺しの新能力

 そうして明日になって、僕達は帰路へとついた。


 自宅のマンションに荷物を置いた後、そのまま特生対研究所へと直行。

 そこのエントランスに着けば、未央奈さんと雨宮さん、そしてヒメや森塚さんがソファーに座っていた。


「ほぉほぉ、何と何と! これは操るのが難しいです!」


「最初あたしもそうだったんだけどねぇ。でも慣れればどうって事はないよ」


「むむむむ……! 『れいわ』には摩訶不思議な呪物が多いですね!」


 森塚さんがヒメに対して、スマホのタップの練習をさせているようだ。

 彼女は非戦力なりに僕達の役に立とうと、ああやって現代文化の勉強を手伝っているのだ。


「じゃあ最初に番号を押してみて。で、その後に緑のボタンをポンと」


「は、はい……! 0……9……0……えっとこうして……はいっ!」


 ――プルルルル……。


「わあああ!! 鳴き声出した!! 怖いですううううう!!」


「それは相手が出るまで鳴るやつだよ。というか怪獣なのに怖いものあるんだね」


「そりゃありますよ! わたくし、実は幽霊が駄目なんです! 実際に見た事があって!!」


「えっ、マジで……」


「それは怪獣特有の超感覚の影響かも……あっ、一樹君、絵麻ちゃん! ごめんなさい気付かなかった!」


「いえ、大丈夫ですよ」


 ヒメ達に夢中になっていたせいか、どうも未央奈さんは僕達に気付いてなかったようだ。

 僕としてはもうちょっと様子を見ていたかったが。

 

 また彼女が気付いたのを機に、森塚さんとヒメがこちらへと振り向いた。


「大都君、絵麻ちゃん、お帰り」


「お帰りなさいです!」


「ただいま。森塚さん、なんか法事と被っちゃったって悪いね」


「ううん。ちょっと残念だなぁって思ったけど、夏休み中に海水浴とか行ったから十分だよ」


「そう?」


 確かに森塚さんとは海に行っていた。

 その時の水着はまだ覚えていて、本当に綺麗だなぁって思ってたり……まぁ、人の姿を思い浮かべるのは失礼だからこれくらいにしておくか。


 と、ヒメが頬を膨らませながら、


「わたくしは勉強とかありましたから我慢しましたけど、やっぱり行きたかったです! 特に絵麻様、抜け駆けは禁止です!」


「うっ……! べ、別に兄妹だから抜け駆けだなんて……だよね、兄さん!?」


「えっ、まぁうん」


「ほらっ! 絶対に抜け駆けじゃありません! あくまで兄妹水入らずの慰安目的です!!」


「「…………」」


「皆、黙んないで下さい!!」


 ……絵麻よ、キャラ崩壊を始めているぞ……。


「まぁ、それはさておいて。一樹君と絵麻ちゃんは私と一緒に付いて来なさい。凛ちゃんと飛鳥ちゃんは引き続きヒメちゃんの教育を」


「了解しました」


 雨宮さんの返事と共に、未央奈さんが先へと進んでいく。

 行き先はこの研究所の地下7階だ。


「じゃあ森塚さん、また」


「うん。ところで絵麻ちゃんのその花、渡す人がいるんだ?」


「うん、僕達にとって大事な人」


「……そっか。その人によろしく伝えておいて」


 実は研究所に来る前、絵麻が花束を買ったのだ。

 森塚さんは花束を見て何か察したらしいけど、しかしそれ以上深入りはせず促してくれた。


 僕達は未央奈さんの後を付いて行きながらエレベーターに乗り、地下7階に着く。

 未央奈さんが目の前のドアの暗証番号を押せば、体育館より広いルームと巨大な怪獣の骨が見えてきた。


 この骨こそが、かつて『偉大なる龍神』とも称されたバハムートのもの。

 そして僕達のご先祖でもありお爺さんでもある方だ。


「やぁ、お爺さん」


(よく来たな、一樹、絵麻よ。こうして対面するのは久方ぶりだ)


 脳内での会話は多々あるものの、面向かうのはたまにしかない。

 絵麻はお爺さんの頭骨に近付き、そっと頬をくっつけた。


「お爺さんただいま。ごめんね、たまにしか会えなくて……」


(可愛い孫娘の顔が見れるなら、別に構いはしないさ。その花、我への手向けか)


「うん、花瓶も用意したから。場所はここでいい?」


(もちろん。にしても美しい花だな……この時代の人間の管理は実に上手い)


 絵麻はお爺さんの近くに、花を挿した花瓶を置いた。

 意識があるからピンと来ないけど、ある意味墓参りとも言えるべきか。


「バハムート、喜んでくれている?」


「ええ、孫の顔が見れてウキウキしてますね」


 未央奈さんにはお爺さんの声が聞こえないので、僕が伝える感じになっている。


「この間ヒメちゃんも連れてきたんだけど、彼女わんわん泣いていたのよね」


「ヒメが?」


「『お館様~!! 何ともおいたわしい姿に~!! でもお館様がそばにいて下さるのは嬉しいです~!!』ってね。彼女にも慕われているなんて、本当バハムートって下手な人間よりも人格者よね」


「人間の心を持った大怪獣ですから。てかヒメの声真似、上手くないですね」


「うっさいなぁ」


 僕もお爺さんの頭骨に近付き、そっと表面を触れる。


 ほんのり温かい。

 冷たい印象を持つ他の骨と違い、どこかぬくもりに似た感触があった。


「それでお爺さん、僕達を呼んだ理由って?」


(よくぞ聞いてくれた。お前はこの前、我が仕留めきれなかったアジ・ダハーカを葬ってくれた。我としては嬉しい事ぞ……感謝する)


「いや、そんな……」


 そうだよね。

 お爺さんが仕留める前に逃げられたと言っていたから、その事に悔やんでいたとしてもおかしくない。

 

 僕は知らずに、お爺さんの無念を晴らしたという訳か。


(それでそのお礼をしてあげたくてな。お前にはを使ってほしい)


「2つの能力?」


(ああ。頭骨に添えている手をそのままにするんだ)


 僕はさっきから頭骨に触れているので、言われた通り離さないようにした。

 すると手元にほんのりと光が灯る。


 その光が僕の腕を通じて、身体へと浸透していく。

 熱い何かが全身を駆け巡った……そう感じた時には、光が身体の中へと消えていった。


「……何が起こったの?」


 一連の現象が終わった後、未央奈さんが僕の代弁をしてくれた。

 

(アジ・ダハーカを倒したお前に贈るべく、着々と我が内部で編み出した能力だ。その名は≪龍神の爆滅ばくめつ≫と≪龍神の簒奪さんだつ≫……っと、神木未央奈に伝えてほしい)


「……未央奈さん、お爺さんが≪龍神の爆滅≫と≪龍神の簒奪≫という能力を僕にくれたらしい」


「新能力!? しかも骨から!? ……やっぱりこれは人知を超えているとしか言いようがないわね」


 まさか能力を与えられるとは思ってもみなかった。

 しかも爆滅やら簒奪やら……一体どんな能力なんだろう?


(能力を教えたいところだが、もちろん相手が必要だ。何か最適なのはいないか?)


「相手……模擬戦か。どうするかな……」


 こんな時に運よく怪獣が出てくる訳がないし、忙しい防衛班を呼び出す訳にもいかない。

 僕が悩んでいると、絵麻が近付いてきた。


「よかったら私が模擬戦相手になろうか?」


「えっ? でも……お前やワイバーンを傷付ける訳には……」


「直接攻撃しなければ大丈夫だよ。私もその能力を見てみたいし」


「…………」

 

 妹を模擬戦の相手にしたくなったけど、でもそこまで言うのなら……。


「頼める……かな?」


「うん」


 やれやれ……やっぱり僕は絵麻に甘いよ。

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