第6章 偉大なる龍神の禍々しい力
第70話 怪獣殺しのプール
まず結論から言いたい。
アジ・ダハーカが倒された影響なのか、はたまたそういう時期なのか不明だけど、大怪獣と呼べる個体があんまり出てこなくなった。
代わりに出てくるのは、防衛班の手で掃討できる通常怪獣くらいだ。
それが夏休み期間の時だ。
そういう訳でこれ幸いと、僕達はそれなりに楽しんでいた。
海水浴に行ったり地方の夏祭りに行ったり……まぁ満喫したものだ。
それで夏休みが終わって9月の半ば頃になっても、大怪獣はうんともすんとも出やしない。
なので僕達は未央奈さんから休暇を出され、東京のとあるホテルに来ていた。
「……ふむ」
今いるのはホテル内にあるプール。
といってもウォータースライダーとかはなく、25メートルのプールがあるだけの静かな場所だ。
トランクスを履いた僕は、ビーチチェアーに座りながら小説を読んでいる。
今回はつい最近発売された『大怪獣惑星』の第3巻だ。
これで物語は完結となるので、かなり気合の入った作りになっている。
どうもラスボスは別次元から来た金色の龍なんだけど、さてどんなラストを迎えるのやら。
「ねぇねぇ、君1人?」
「もしよかったら私達と一緒に泳がない?」
「えっ?」
そんな時、ビキニを着た20代らしき女性2人がやってきた。
何で誘ってきたんだろう?
一体どういう意図があって……あっ、もしや前にあった嘘告白とかそういう類い?
でなきゃ、こんなプールの片隅で本を読んでいる地味な奴を誘おうなんて思わないよな。
「いえ、ちょっと小説を読んでいるので……」
「えー、少しだけいいじゃない」
「なんか暇そうにしているし、お姉さん達と遊ぼうよー」
柔らかに断ったものの、中々彼女達が引いてくれなかった。
そこまでグイグイ攻めるなんて……もしかしてそういうノルマとかあったりするのか?
ともあれこの状況どうするか……。
そう悩んでいたところ、ひたひたと足音が聞こえてきた。
「すいません、私の兄に何か御用ですか?」
「えっ……ヒィイ!?」
そこに立っていたのは水着を着た絵麻だ。
ただ……目が怖い。怖すぎる。
あと目元辺りが陰りがあって、まるで怨念を抱いているような見た目だ。
「えっと、妹さんと一緒にいるんだ? どうもお邪魔だったみたいね!」
「じゃ、じゃあ私達はそろそろ……ごめんなさい!」
そう言って、彼女達がそそくさに僕達から離れてしまった。
残った僕は若干ポカンだ。
「何だったんだろう今の。というか物好きな人がいたもんだな」
「物好きというか眼鏡ないから……まぁとりあえず隣座っていい?」
「ああ、もちろん」
さっきまで泳いでいたので、絵麻の白い肌に水滴が付いている。
今の絵麻は、ヒラヒラが付いた水色のビキニを着用している。
その姿は実妹ながら可愛くて、本当に13歳なのかと思いたくなるくらいだ。
というより、絵麻は女子高生にも劣らない魅力を持っていると思う。
兄としての贔屓とかあると思うけど、今の絵麻を見るとそう感じせざるを得ない。
「……えっと兄さん、視線感じるんだけど……」
「あっと、ごめんよ」
ちょっと見すぎたかな。
絵麻も恥ずかしそうにしているし、兄ながら失礼な事をしてしまった。
ちなみにホテルに来ているのは僕達兄妹だけ。
未央奈さんと雨宮さんは、諜報班の事務作業などに専念中。
ヒメは特生対研究所内にある自室で、現代文化を宿題という形として勉強中らしい。
そして森塚さんは、法事があって田舎に行っているという。
僕達がホテルに向かうと聞いた時には、すごく残念そうな顔をしていたっけ。
もし法事がなかったら連れていきたかったところだけど、まぁしょうがないよな。
「……なんだがこうしてると、デートしてるみたいだね」
ふと絵麻がそんな事を言う。
小説から振り向いてみると、我ながらドキリとしてしまう。
あの絵麻が大人顔負けの、艶やかな笑みを浮かべていたのだ。
……コイツ、こんな表情を出せるのかい。
「デートは大げさだろう……ただホテルに来ているだけだし」
「兄さんは嬉しくないの?」
「いや……そういう訳じゃ……」
「ん-? よく聞こえないなぁ」
「黙りなさいな」
絵麻って、こんなにもおちょくる性格だったっけ?
単にホテルに来れて舞い上がっているだけかな。
「……そろそろプール出るか」
「うん」
僕達はプールを出てから着替えを済ませ、それから部屋へと戻っていった。
ここは高層ビルを見渡す事が出来る絶景ポイントだ。
ツインベッドもあるし、バルコニーもある。意外と悪くはない。
「疲れたぁ。そのまま寝ちゃいそう」
「だな」
絵麻がベッドへと寝転がる。
僕はその近くに座って、絵麻の顔を覗いた。
「そういえば明日、お爺さんのところに行くんだよね」
「うん。なんか久々だな、直接会いに行くの」
実は特生対研究所に眠るお爺さんから、直接来て欲しいと念話が来たのだ。
なお用件は例の如く聞かされていないまま。
またお爺さんの隠し事が始まったみたいだ。
「で、それが済んだら文化祭の準備があるんだよな。アレやれコレやれって押し付けられていて大変だよ」
「そうなんだ。もし嫌だったらちゃんと嫌って言った方がいいよ」
「善処しておく」
今の学校は近日に始まる文化祭の準備に入っている。
そんな中でクラスカースト上位がカースト下位に仕事を押し付けられたりしていて、下位の生徒はそれなりに惨めな思いをしている。
僕はというとまだそういうのはされていない方で、「アレやれコレやれ」というのは主に委員長からの指示だ。
といっても、言われていないだけで時間の問題かもしれないけど。
「まぁそれは置いといて、お爺さんに花持っていった方がいいよね。あそこに1人で眠っていて寂しそうだし」
「ああ、その方がお爺さんも喜ぶと思うな。というか、そういう風に考えてくれるお前はやっぱり優しいよ」
僕は寝転がっている絵麻の頭を撫でた。
サラサラで柔らかい触り心地……絵麻が髪を大事にしている証拠だ。
「フフッ、くすぐったいよぉ……」
「ごめんごめん。でも本当に綺麗な髪だよなぁ」
「もう……」
からかって大丈夫かなと思ったけど、まんざらでもなさそうかな。
すると絵麻がポンポンと自分の隣を叩く。
「一緒に寝転がってくれる? ほんの少しだけでいいから」
「えっ? そこ?」
「うん、もっと近くにいたい……」
そうして潤んだ瞳で訴えかけてくる。
……気付くと僕はその通りに寝転がって、絵麻と面向かうようになっていた。
絵麻の良い香りと妖艶な表情……。
何だろう……妹が相手なのに妙にドキドキするな……。
「……恥ずかしいなこれ」
「フフッ、兄さんでもそう思うんだ」
「おいおい……全く」
そう苦笑してしまった訳だけど、そんな愛らしく微笑む絵麻に胸がいっぱいになりそうだった。
僕はそっと絵麻の腰に手を置いた。
「……に、兄さん……」
「ん?」
「は、恥ずかしくなってきた……」
「いやいやお前もかよ。言ったそばから」
「だってぇ……」
やっぱり僕にとって……絵麻は大切な存在だな。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第6章開始です。
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