第67話 怪獣殺しVSアジ・ダハーカ 終

『目が……赤くなって……?』


 アジ・ダハーカの言う通り、僕の瞳が赤く染まっている。

 

 瞳孔が細くなって、あたかも怪獣のようになっているはず。

 同時に爪もやや鋭くなっていった。


『何……? 奴の顔が……』


 そして僕の背後に、炎にもオーラにも見えるエネルギーが現れる。

 そのエネルギーがお爺さんの顔になって、アジ・ダハーカを睨んでいた。


「……お爺さん、この力を使う時が来たよ。あまり出したくはなかったんだけど」


(いや、いたし方がないさ。今のお前は我が怨敵と対峙している。むしろ遠慮せず使うべきだ)


 脳内に響くお爺さんの声。

 やっぱりこの戦いを見守っていたようだ。


其奴そやつは自身の悪意に身を任せ、人々に災厄を与える悪鬼そのもの。しかも、あろう事か我が可愛いヒメを嬲っていた。許す訳にはいかない)


「それは同意見だよ。ヒメにそうした罰は償わなせきゃ」


『……誰と話している……?』


 当たり前とは言えば当たり前だけど、アジ・ダハーカにはお爺さんの声が聞こえていないようだ。

 とりあえず僕は右手を振り上げ、鋭い爪にエネルギーを纏わせる。


 従来の技を構成していたエネルギーは文字通り『赤』だったけど、今となっては血のような『真紅』へと濃くなっている。


『何をやるのか知らないが!! 人間如きが俺に勝てると思うなぁッ!!』


 アジ・ダハーカが纏う3体の龍が一斉に向き始めた後、電撃を斉射した。


 まっすぐ向かってくる3本の黒い電撃。

 対し僕はかわそうとはせず……一気に腕を振り下ろした。


『なっ!?』


 爪から真紅の斬撃が飛ぶ。

 それが電撃を打ち消し、アジ・ダハーカへと直進。


 奴の右腕、龍の首2本、そして背後にあった建物を破壊寸断させた。


『ギャアアアアアアアアアアアア!!?』


 積み木のように破壊され、巨大な火を上げる建物。


 一方で腕の断面から黒いエネルギーを垂れ流しつつ、地面に落下するアジ・ダハーカ。

 寸断された龍の首2本は、うめき声を上げながら粒子状に消滅していった。




 ≪獣化じゅうか≫。




 それが、今の僕の状態を指し示すものだ。


 僕の中に眠る怪獣の血を最大限に引き出し、怪獣そのものへと擬似的に変化する能力。


 特徴としては、何と言ってもこの破壊力。

 これがメリットでありながらデメリットでもあり、迂闊に使用すると周りを巻き込みかねない。


 この能力が判明したのはそう……まだお爺さんの子孫だと気付いていなかった幼い頃だ。


 僕が絵麻と両親と共に山に出かけた際、そこで運悪く怪獣にでくわしてしまった。

 その時に奴が絵麻を襲いかかろうとして、気付くと僕は奴を八つ裂きにしていて。


 後で知ったんだけど、この時に怪獣の血が膨れ上がって≪獣化≫状態になっていたという。

 そこから僕や絵麻が普通の人間じゃない事を知られ、両親に恐れられたりしたものだ。

 

 尋常じゃない破壊力と相まってあまり良い印象を持っていない能力だけど、今回だけは特別。


 相手があのアジ・ダハーカなのだから、出し惜しみをする気はない。


『……あの時だ……あの時と同じ……!! 俺は……俺はまた八つ裂きにされるのか……!? また同じ事を繰り返す羽目になるのか……!!?』


 斬られた右腕を押さえながら、アジ・ダハーカが狂ったように叫ぶ。


 多分、今の奴はお爺さんに倒された時の事がフラッシュバックしているかもしれない。

 すごくどうでもいいけど。


 僕がゆっくり近付いていくと、今までの威勢がどこに行ったのか奴が怯えだした。


『く、来るなぁ!! 来るなぁ!! ウワアアアアアアアア!!』


 ――キュオオオオオオオオンン!!


 残った龍の首から電撃が発射。


 しかしお爺さんの顔を模したエネルギーが、電撃をはじいてくれる。

 まるでお爺さんに守られているようで、悪くない気分だ。


「もう1回……」


『ヒイッ……!?』


 再び腕を振りかぶり、爪の斬撃を飛ばす。


 地面を抉りながら突き進み、残り1本の龍をズタズタに吹き飛ばした。

 さらにその余波で、アジ・ダハーカの身体も裂かれていく。


『グギャアアアアアアアアアアアア!!』


 奴がいた地面もまた吹き飛んで、盛大に爆ぜる。


 もはや上半身しか原型が残っていなくて、下半身がボロボロの雑巾のようにちぎれている。

 見るからに歩行はもう出来ないだろう。


 鎧のような外殻にも所々傷が出来ていて、そこから黒いエネルギーが血のように噴出している。

 そんな奴の周りに地面の瓦礫がなだれ落ち、その中に紛れていった。


『こ、こんな……こんなはずは……俺が……俺が下等な人間如きに……!!』


「…………」


『ウ、ウワアアアアアアア!!!』


 近付いた僕に対し、アジ・ダハーカが飛びかかってきた。

 鮮血代わりのエネルギーが流れる中、唯一残った左腕の鉤爪を振るってくる。


 が、その前に僕が奴の首根っこを掴んだ。

 僕の手の中で、足搔こうともがくアジ・ダハーカ。


『死にたく……!! 死にたくない!! 死にたくないいぃぃ!! やめろおおおぉ!! やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』


 錯乱しているのか、真の姿と人間の姿が交互に激しく入れ替わっていた。

 もはや奴は野望や憎悪をかなぐり捨て、死への恐怖と生への執着に囚われていた。


 だけどね……。


「ヒメを殺しかけておいて、お前だけ死にたくないってのは通る訳ないだろ」


 爪を首に強く食い込んで、破壊のエネルギーを一気に注ぎ込んだ。

 アジ・ダハーカが真の姿に変わったところで、鎧のような外殻が風船のように膨れ上がる。


 徐々にひび割れていき、裂け目などから真紅の光がほとばしった。


『グッ……ギイッ!! グギャガアアアアアアアアアアア!!!』


 空気を入れすぎた風船が破裂するのと同じく、奴の身体が砕け散っていく。

 次の瞬間には大爆発が起き、目の前が赤く染まっていった。

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