第66話 怪獣殺しVSアジ・ダハーカ 2

 アジ・ダハーカはカメラのない数世紀前に出現したきりだった為、詳細な姿が明かされていなかった。


 精々分かっていたのは『3つの首を持った龍』という事だけ。

 伝承においては『破壊者』とかいう抽象的な名前だったのだが、その姿から後に米軍が『アジ・ダハーカ(ゾロアスター教に伝わる3つ首の魔龍)』と名付けた経緯がある。


 しかし実際のアジ・ダハーカの姿はどうだ。

 まるで龍を模した黒い鎧の怪人という趣だ。


 その目は赤く、両肩には棘が生えていて、さらには尻尾が生えている。

 確かに破壊者の名に相応しい禍々しい姿ではあるけど、それはまさしく生物の延長的な姿をしていた今までの怪獣とはかなりかけ離れている。


 それに身長も3メートルほど。

 怪獣とか龍とかいうよりは、魔人と言った方がいい。


『お前はここで必ず殺す!! そうして奴の血を断ち切り、意趣返しをしてくれる!!』


 よほど倒された事に根に持っているのか、お爺さんに対して強い恨みを持っているようだ。


 ……お爺さん、あなたの尻拭いさせてもらいます。


『死ねええええ!!』


 奴が鋭い牙を生やした口を開けると、その周囲の空間が揺れ出す。

 

 直後として極太の黒い電撃が発射され、僕へと直撃する。

 さらに僕の後ろにあった建物にも豪快に貫通していき、そこに1本道のような破壊の傷跡を作り上げていった。


 僕はというと……無事だ。

 一応は。


 障壁を張って防いでいたものの、割と破れるんじゃないと思ったくらいに威力が凄まじかった。

 電撃を受け止めた際に障壁が揺らぐなんて、一度もなかったから少しヒヤリとしてしまった。


『しぶとい奴……ならばその障壁ごと噛み砕いてくれる……!!』


 周りに漂う粉塵の中、アジ・ダハーカが翼もなしに浮遊していった。

 お爺さんのような重力制御能力を持っているとでもいうのか。


 やがて奴がある程度の高さまで上がると、またもや周囲の空間が揺らぎ始めた。


「あれは……」

 

 アジ・ダハーカの背中に黒いエネルギーが集まっていき、形を変えていった。

 それも三方に伸びるような感じになってだ。


 ――キュオオオオオオオオンン!!


 無数の赤い複眼を持った、3つ首の巨大龍が現れた。

 ついさっき、ヒメ達を攫ったのはコイツらだったようである。


 アジ・ダハーカの背中を中心に蠢く姿は、さながら3体の龍が集結しているようだ。


「なるほど、そういう事か」


 確かに遠目だと『3つの首を持った龍』にも見えなくもない。

 伝承はこの時の姿を捉えたものだったのだ。


 それにこのエネルギー体も身体の一部として加算するなら、アジ・ダハーカもまた巨大な怪獣とも言えるだろう。

 エネルギー体の大きさも、ちょうどお爺さんや他の怪獣にも合っている。


『これが俺の本来の姿……さぁ、破滅の雷を受けるがいい!! ひれ伏すがいい!!』


 ――キュオオオオオオオオンン!!


 独自の意思があるかのように龍達がもたげた後、その口から電撃を放ってきた。


 それらが辺りの建物やタンクへと乱雑に放たれる中、僕へと地面を走りながら向かってくる。

 僕はそれらを避け、さらにもう1回向かってきた電撃には≪龍神の劫火≫を放つ。


 劫火と電撃が相殺し合い、盛大な大爆発が起こった。


「……強いな」


 障壁で爆炎を防ぎながら僕は呟く。


 あの怪獣、アメリカの同種達を操るだけあって手強い。

 今までの敵とは別次元だし、もしかしたらお爺さんと同格とも言えるじゃないだろうか。


 と、考えている暇はなかった。

 爆炎の中から3体の龍が迫っていき、僕の障壁へと噛み付いた。


 ――ギリギリイイ……!!


 しかもそれだけじゃなく、障壁から嫌な音がしてくる。

 

 まさか破ってきているというのか。

 今まで鉄壁を誇っていた障壁を。


『貴様の血肉は俺の一部となり、その力をもらい受ける!!』


 爆炎が消えたと同時に、そう高らかに叫ぶアジ・ダハーカの姿があった。

 

 これは障壁を張り続けていたらマズいな。

 僕は障壁を消した瞬間に、地面からジャンプ。


 喰らい付こうとした龍達がぶつかり合った隙に、後方へと下がる。

 さらに≪龍神の劫火≫を龍達へと直撃するけど……なんと無傷だ。


 ちょっとやそっとではやられないという事か。


 それと今の戦闘で、工場全体が火の海と化している。

 まさにこの世の地獄のような有様だ。


『なんてすばしっこいんだ……何故すぐにやられない!? 何故涼しい顔をしている!? その目だ……その目が先祖と全く同じだ!! この忌々しい!!』


『アジ・ダハーカ……!!』


 怒りに震えるアジ・ダハーカへと、フェンリルが奥の建物から飛び降りた。

 

 アジ・ダハーカが自分の口から電撃を放つも、彼女はそれを潜り抜けながら懐に入った。

 だが突如として彼女の前の地面から、黒い波のような物体が出現する。


 ミルメコレオが集まって出来た巨大な集合体だ。


『くっ……!』


 さながら黒い絨毯か巨人のようになったミルメコレオ集合体が、フェンリルに覆い被さろうとする。

 フェンリルは一旦下がり、火球を浴びせる。


 ミルメコレオ集合体に当てて穴を開けるも、瞬時にそれが埋まってしまった。


『前に邪魔が入った時は油断していたがな、これでも俺はどうすればお前の動きを封じられるか学習している。ヘマなんかしないんだよ』


『……ッ……』


『野犬はアリ共に任せるとして……貴様は徹底的に嬲り殺す』


 僕へと目線を向けるアジ・ダハーカ。

 異形の顔をしていても分かるくらい、その赤い目は憎悪にまみれていた。


『ここまで俺を手こずらせたのは、人間で貴様が初めてだ。決して許さん……俺をわずらわさせた奴は楽に死ねると思うな!!』


「…………」


『その四肢を引き裂き、地獄の苦しみを味わいながら死んでもらう!! そうして俺はこの聖域にいる人間共を焼き尽くし、無数の悲鳴を上げさせてやるのだ!!』


「……しょうがないな」


『何?』


 僕は戦闘の構えを解き、ふぅと一息ついた。


「お前と似た感想になるけど、こんなにも手間取った怪獣なんてお前が初めてだよ。それに加えてお前は他の怪獣と違い、明確な悪意を持って暴れている。どの怪獣災害よりも危険極まりないよ」


『何が言いたい……!?』







「お前みたいなクズは、絶対に殺さなきゃって思ったんだ」


 僕からでは見えないけど、自分の目がのが分かった。

 

「だからしょうがないから、マジの本気を出させてもらうよ」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 アジ・ダハーカについては『(バハムートから見て)外から来た侵略者』『背びれを持った怪獣に撃退される』『3つ首の悪役怪獣』と、お気づきかと思いますがキングギドラがモチーフです(というか龍のエネルギー体が、黒くなった黄金の終焉のような見た目だったり)。

 また怪獣にしてはサイズが小さいのも、『小さいほど最強で特別』というフリーザ理論です。


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