第65話 怪獣殺しVSアジ・ダハーカ

 無事でよかった……。

 息があったヒメを見て、心の底から安堵をした。


 ただ怪我が酷い。


 全体を覆っている鱗に欠けているところがあるし、そこから血が流れてしまっている。

 焼け焦げている箇所も何か所かあった。

 

 途端、ヒメの身体が小さくなって人間の姿に戻る。

 そこに物陰に隠れていた雨宮さんが来て、ヒメを抱えた。


「ヒメさん!!」


「ちょうどよかった、ヒメを頼めるかな。それとコイツの手に乗って、ここから離れてほしい」


 僕がドレイクを召喚させた後、ソイツの手が雨宮さん達へと伸ばされた。


「ええ、もちろん……ヒメさん、今すぐ治療に……」


「ああ大丈夫ですよ……わたくしは死なない限り回復できますので……。とりあえず肩貸して下さい……」


「……はい」


 雨宮さんがヒメを担ぎながら、ドレイクの手へと乗る。

 ドレイクがここから離れようとした時、ヒメが僕へと向いた。


「一樹様……お気を付けて! そして救って下さってありがとうございます……!」


「友達なんだから当然だ。お礼は大丈夫だよ」


「……そうですね! 失敬です!」


 てへっと笑うヒメ。


 ドレイクは高らかにジャンプして、この巨大工場から離脱した。

 あとは……アイツだ。


「『獣の終着点』にいたのはお前だったのか、アジ・ダハーカ。まさか生きていたとは」


『よく知っていたな。奴ら、俺がアジ・ダハーカだと知ったのは今さっきだぞ? それにどうやってこの場所が分かった?』


「ちょっとした連絡手段があったんだ。なんとか間に合ってよかったと思うよ」


 ここに来る前に雨宮さんと連絡しようとしたものの、スマホが破壊されたのか繋がる事はなかった。

 ただ雨宮さんの耳にはイヤリング型マイクが付いていて、そこから情報を聞いた未央奈さんがこちらへと連絡してくれたのだ。


 それで雨宮さん達を攫ったのが、かの邪悪な大怪獣アジ・ダハーカだと知った。

 もちろん奴が、一連の事件の元凶だという事も。


 そしてこの場所が分かったのは、ヒメの発信機のおかげ。

 前もって僕のスマホに設定しておいたのが、功をそうしたようだ。


 攫った奴と攫われた場所が分かったところで、でここにやって来た。

 それで今に至る訳。


『にしても、まさかお前自らがやって来るとは……この汚らわしい血の存在が……』


「聞いたよ。お前、僕のお爺さんに返り討ちにされたんだってね。そのまま一生眠っていればよかったのに」


『……粋がるな下等生物が。確かに俺は貴様の先祖から屈辱を受けた……しかし俺は生きている!! だからこそ聖域に蔓延る虫ケラを焼き尽くし、再び俺が返り咲くのだ!!』


「ああそう。で、それだけ?」


『それだけ……? …………!!?』


「御託はそれだけなのかって……聞いているんだよ」


 僕はアジ・ダハーカへと、これ以上ないくらいの鋭い目つきで睨んだ。

 

 コイツは友達であるヒメ達を攫い、挙げ句の果てにはヒメを痛め付けた。


 さらによくよく見渡せば、周りにはおびただしい血痕や服の欠片が見受けられる。

 コイツが工場の作業員を虐殺していったのは明白だ。


 屈辱かどうとか正直どうでもいい。

 コイツは徹底的にまでに殺す。許しを乞うても既に遅い。


『その目……奴と一緒だ……。奴に引き裂かれた日の事を思い出す……!!』


 僕の凄みに怯んだアジ・ダハーカだけど、その手をわなわなと震わせていた。


『お前が奴の子孫だというのなら、絶対に生かしておけない!! お前はここで死ぬんだ!!』


 そうしてすぐに、右手から黒い電撃を放った。


 僕は逃げようとも避けようともしない。

 左腕にだけ障壁を纏い、向かってきた電撃をはじき返した。


 電撃は横へと逸れて、タンクへと直撃。

 盛大に爆発する。


『はじき返した……!? クソッ!! クソが!! クソがあああ!!』


 歯ぎしりしたアジ・ダハーカが、次々と電撃を放ってくる。

 

 僕は続けてはじき返す。

 はじき返すたびに建物や壁に当たり、轟音と爆発を起こさせた。


 さらに向かってきた電撃に対し、腕の角度に注意しながら反射させる。

 これが見事、撃ってきた張本人へと向かう事が出来た。


『何!? くっ!!』


 奴も僕と同じように腕を払って、電撃を逸らした。

 まさか自分の攻撃が向かってくると思わなかったのか、明らかな焦りの表情を見せていた。


『俺の電撃をはじき返す人間など聞いた事がない……!! 一体何なんだお前は……!?』


「お前が下等生物と馬鹿にした人間だけど? というかそろそろ元の姿になってみたら? その方が僕を殺りやすいだろ」


『ほざけ!!』


 激昂したアジ・ダハーカが、耳をつんざくくらいの金切り音を上げた。


 雨宮さんとの会話を通して、アレの正体はもう知っている。

 アレで知性の低い怪獣を操って、スタンピードや僕達への襲撃を仕掛けた。


 その金切り音に導かれるように、奥の建物がポップコーンのように爆ぜ、巨大な怪獣が姿を現した。


 ――ブオオオオオオオオンン!!

 

 以前、ヒメが退治したカトブレパスのようだ。

 しかも5体いる。


『真の姿は、人間共の街を焼き尽くす為に必要だ。そうみすみす解く訳にはいかない。お前にはコイツらと戦わせてもらう!!』


 ……どうしてこういう手合いは出し惜しみをするのか。

 それで後悔しても知らないのに。


 ――ブオオオ!!


 1体のカトブレパスが石膏の液体を放ってくる。

 向かってくるそれを僕が迎撃しようとした……その時。


 どこからかやって来た火球がブレスに当たり、蒸発させてしまったのだ。


『なっ!?』


 さらに僕の目の前に、軽やかに着地する1つの人影。

 僕は、あまりにも意外な姿に目を白黒させてしまった。


「君は……」


 それは何と、白いワンピースを着た金髪の女の子。

 僕らが『獣の終着点』に行く前、チンピラから助けた人物だったのだ。


『……貴様、まさか……』


 アジ・ダハーカがその女の子に対し、呆然とした表情を見せる。

 対して女の子は人形のような愛らしい顔を僕に向けて、ゆっくりと微笑んだ。


「さっきはありがとう……私も戦うね……」


 たどたどしく日本語を口にした後、彼女がアジ・ダハーカへと向き直る。

 その瞬間、周囲に炎が巻き上がっていき、彼女を包み込んだ。


 やがて炎が消えると、さっきまでの女の子の姿がなくなる。

 代わりに出てきたのは、鬼のような2本角と爬虫類の尻尾、10メートルはあるだろう巨体を持った黄金の狼。


 ――オオオオオオオオオオオオオオンン!!


「……フェンリル」


 間違いない。

 アメリカの人々を陰ながら救ってきた大怪獣フェンリルだ。


 まさかあの女の子がそうだったなんて。


『また貴様か!! 何故こうも邪魔をする!?』


『だって……お前のような奴がいるから。それに「獣の終着点」……私達にとって大事な場所を壊そうとした。決して許さない……』


『黙れ黙れ黙れ!! 貴様もここで朽ち果てろ!!』


 数体のカトブレパスが、石膏ブレスを吐いてくる。

 フェンリルは口から火球を吐き出し、石膏ブレスへと着弾させていく。


 石膏ブレスが爆発したと同時に、彼女が建物の上へと乗り移りつつ疾走。


 ――オオオン!!


 1体目のカトブレパスの頭部に喰らい付き、一瞬にして引きちぎった。

 そうして2体目には火球を吐いて焼き尽くし、残りの3体へと向かう。


 怪獣の中では小さいフェンリルが、自分の3倍ほどの敵を圧倒している。  

 頼もしいというのはこういう事を言うんだな。


 また彼女は、僕ら人間の為に戦ってくれているんだ。


『何故……何故どいつもこいつも人間共の味方を……!!』


「よそ見している場合か」


 彼女におくれをとる訳にはいかない。

 唸っていたアジ・ダハーカへと≪龍神の劫火≫を浴びせる。


『グウウ!!』


 奴が劫火をまともに喰らい、煙が立ち込める。

 僕が様子見している内に煙が晴れていくけど、そこにはさっきの少年の姿はなかった。


『……訂正だ。お前はさっさと片付けてやる……』


 まるで黒く禍々しい鎧を身に着けたような怪物がそこにいる。


 これは僕でも想像付かなかった。


 真の姿を現したアジ・ダハーカの身長は、見る限り3メートル弱。

 怪獣というより怪人だった。

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