第61話 怪獣殺しへの不意打ち

 僕達は破壊されてしまった車の代わりが来るまで、ペンタゴンの司令室にいる国防長官とリモートをした。

 そのスマホで今の惨状を見せると、


『まさか「獣の終着点」に怪獣が現れるとは……』


 デスクに座る国防長官や傍らに立つ副長官が、酷く渋面じゅうめんを浮かばせていた。

 

『獣の終着点』は米軍にとって重要な場所であり、そこが破壊されれば対怪獣兵器が作れなくなる。

 それに問題はそこだけじゃなかった。


「怪獣があそこに現れたのは初めてですよね?」


『ああ、奴らにとって不可侵の場所と思っていたが……やはりそんな事はなかったのかもな』

 

 実はこの『獣の終着点』、死期が迫った怪獣以外の奴が現れた事なかったのだ。

 その意外さから「怪獣にとっても、あの場所は不可侵の領域になっている」という説が、研究者の間で流れるほどだった。


 もっとも、その説をあざ笑うかのように現れたんだけど。


「バジリスクの反応からして、奴は『獣の終着点』の破壊を目的としていたと思います。現れた理由もそれかと」


『そうか……となると警備を強化せねば』


 ため息を吐く国防長官。 

 まさかこんな事が起こるなんて思わなかったのだから、相当悩んでいるはずだ。


「そういえば国防長官、気掛かりな事が……」


『大都一樹、お前が「獣の終着点」に着いた時に怪獣が来たんだな?』


 僕がある事を言おうとした時、アダム副長官が尋ねてくる。

 また僕を睨んできて……これはアレかな。


「ええ、そうですが」


『本来、怪獣にとって不可侵の領域であった「獣の終着点」にバジリスクが出現した。それもお前がその場にいたと同時に……まるで引き寄せられたかのようだ』


『何だ、何を言いたいのかねアダム副長官?』


『≪怪獣殺し≫は太古の怪獣との混血児の子孫。この少年が持つ怪獣の血によって、バジリスクが引き寄せられた……そうではないのかという事です』


「つまりあなたは、僕が奴をおびき寄せた原因だと言いたいのですね?」


『それ以外に何がある……?』


 全く、そうやって罪の擦り付けをされても困るというか。

 そもそもそんな事があるとするなら、僕の学校とかに向かう怪獣が続出するはずだ。

 

『口を慎めアダム。彼はスタンピード収束の貢献者……彼をおとしめるのは大統領を貶めるのと同義だ』


『長官、それは言いすぎでは……?』


『言いすぎではない。彼はアメリカの脅威を払ってくれた、いわば我らの英雄であり救世主。その者を侮辱するという事は、それ相応の責任を負う事になる。……お前にその覚悟はあるか?』


『…………』


 ウィリス国防長官の凄みに、副長官はたじろいた。 

 それから『失礼しました……』と委縮しながら下がってしまう。


 国防長官……擁護してくれるのは嬉しいですけど、英雄とか救世主とか言いすぎですって……。

 ちょっと恥ずかしさでムズムズしちゃうんだよな……。


『すまないね大都君。それで君は何かを言いかけたね』


「ああ……はい。実はバジリスクが出現する直前、金切り音のようなものが聞こえたんです。バジリスクの咆哮とは明らかに違いましたし、まるでその音に導かれてバジリスクが出現したように感じました」


『それか。現場の兵士も聞いたとは言っていたが……』


「それと……いや、何でもないです」


『ん、まだ何かあるのかね? よければ言ってみてくれないか』


「……突拍子もない話でしょうが、バジリスクを倒した後の『獣の終着点』に、人影が立っていたのを見ました。大体僕くらいの歳の男だったかと」


 顔立ちとかは太陽の逆光でよく分からなかった。


 ただ身長に関しては子供にしては大きいし、大人にしては小さいといった感じで、ちょうど僕くらいはあったとは思う。


 さらにシルエットもごつさがあって、明らかに女性ではなかった。

 だからその人影が、すぐに男性のものだと僕は分かった。


「もしかしたら見間違いだったのかもしれないんですが……」


『なるほど。男の正体は分からないが、頭の片隅に置いておこう。とりあえず君達は車が用意された後、私の家に帰りなさい』


「ええ、ありがとうございます」


 リモートを終わらせた後、今まで黙っていた雨宮さん達へと向いた。

 と、ヒメがにんまり笑みを浮かべる。


「さすがウィリスのおじ様、分かっていますね! アなんとか様もたじたじでしたよ! 馬鹿にした罰が当たったのです!」


「ヒメさん、アダム副長官です……それとあまりそういうのは口にしない方が……」


「と言われましてもー。そもそも一樹様が優しすぎなんです! 少しばかり反論してもいいのでは!?」


「反論って……相手は軍のトップだしねぇ」


 こういう非常時に、副長官とあれこれ言い争いもしたくもないし。


「それよりも大都さんが見たという人影……なんともきな臭いですね」


「ああ、もしかしたらあの人影が何か関連しているのかも。といっても、また僕達の前に現れるとは限らないけど」


 雨宮さんへとそう答えると、車の音が近付いてくる。

 

 振り返ってみると、どうやら軍用車のようだ。

 運転手の方が、近くにいた軍人からそれを借りたらしい。


「とりあえず家に帰ろうか」


「分かりました!」


 僕達は軍用車に乗り、国防長官の家へと向かった。


 ……にしても、今回は妙な現象に立ち会いやすいな。


 原因不明のまま発生したスタンピード、不可侵の『獣の終着点』に現れたバジリスク、そして謎の人影。

 一体、このアメリカで何が起きているというのか。


「一樹様」


「ん?」


 窓を眺めながら物思いにふけていた僕に、ヒメが声をかけてきた。

 

「どうしたの?」


「いえ、アなんとか様がおっしゃってた怪獣を引き寄せた云々。一樹様はその、気にしてないですよね?」


「何だそういう事。別に証拠なんて出ていないんだから、気にするだけ無駄だよ。とにかく僕は僕のやり方でやるだけだ」


 現れた怪獣火の粉は徹底的に払う。

 そしてその火の粉は普通の軍人では太刀打ちできない場合があるので、必然的に僕がやる事になる。


 これからもそれは変わらないだろう。

 

「……やっぱり一樹様は……」


「?」


「一樹様はカッコいいですね……。好きになりそうです……」


「……そう?」


 そんな事を言うヒメの頬が、リンゴのように赤みがかっていた。

 ただその赤みが次第に顔全体に回って……。


「……って、今『好き』って言っちゃいました!? わぁ恥ずかしい!! 聞かなかった事にして下さいぃ!!」


「う、うん……」


 頬に両手付いてブンブン振るヒメ。

 ……大丈夫かな、彼女。


 それに『好き』ってのは、親愛の『好き』になるかな。

 そういう意味では、僕もヒメが好きなんだけどさ。


 ――ミシッ……。


 その時、下から妙な音を聞いた。

 何だろうと思いながら見下ろしていると、


 車が突然吹き飛んだのだ。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 これは余談ですが、国防長官の名前『ウィリス・オルセン』はかつての自作品のキャラから拝借したものです。

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