第60話 怪獣殺しを見つめる人影
「前に聞いた事があったけど、実物を見たのはこれが初めてだよ」
僕は『獣の終着点』を見下ろしながら言う。
以前の渡米の際、国防長官からこの場所の話を聞かされたものだ。
どうしてこの場所に怪獣の骨が集まっているのか。
それは死期が迫った怪獣が死に場所を求め、この地にたどり着いたというのが真相。
別に米軍が怪獣の死骸を投棄している訳じゃないのだ。
アメリカが広い土地ゆえ、人間側に放置される怪獣も存在する。
人口密集地にさえ近付かなければ殺される事はないけど、もちろんその際には寿命が迫りくるのだ。
それらが自らの死を感づいた時、自然とこの場所に向かい永遠の眠りに就くらしい。
何故この場所に集中して向かうのかは、今でも解明されていない。
一説には怪獣にしか感じ取れない何かがあって、それが怪獣を引き寄せる要因になっているというけど、あまりにも曖昧なので結局は原因不明のままだ。
「こうしてみると、なんだか博物館のようなものを感じます」
雨宮さんの言う通り、まるで広大な博物館の展示物を見ているような圧巻さを感じる。
正直、この土地の発生要因とかどうでもよくなってくるくらいだ。
「ヒメはどう思う、こういうの」
「うーん……なんか骨がゴロゴロ転がって気味悪いですねー」
「ああ……僕ら視点だと人間の骨が転がっている感じか」
確かにそれを想像すると気味が悪い。
絶対に供養しないと呪われてしまいそうだ。
「雨宮様、こんなの見てなんか得とかありますか?」
「得というより……勉強になる感じですね。それにこの『獣の終着点』、米軍にとっても重要なものらしいですから」
「はて? どういう意味です?」
「ちょっとヒメには分からないかもしれないけど、まぁアメリカの人達が怪獣を倒すのに、この墓場が役に立っているって事だよ」
「?」
僕がフォローするも、ヒメはちょこんと首を傾げる。
彼女は怪獣なんだから、米軍がどうこうなど分からないのは仕方がない。
実は『獣の終着点』周辺には、鉱石にも似た高純度物質が発掘されている。
その物質は怪獣の骨からあふれ出た生体エネルギーが、地下に浸透した後に結晶化したものだ。
さらに生身の怪獣に物質を注入させると、その怪獣の持っている生体エネルギーと物質の生体エネルギーが衝突し合い、内部から破壊を行う性質がある。
それに着目した米軍が、物質を弾丸に加工して米軍の主力火器にしたのだ。
……長い話になったけど、要は特生対のミスリルと同じようなものだ。
一点違うのは、こちらの物質がお爺さんの物質よりも殺傷力が格段に低い事。
なので米軍は威力低下を補うべく、特生対と違って戦車などを使っているのだ。
「『獣の終着点』は100年以上前には発見されたみたいですが、もうその時は対怪獣兵器が出来上がったんでしょうか?」
「いや、確かにこれ自体はそうなんだけど、特殊物質はもっと後らしいんだ。確かお爺さんの骨が発見されてから2~3年後」
「そうですか。もっと早く開発できていれば、日本に輸出したりなんて出来たんでしょうね」
「戦死者が減ったとは思うけど、それは結果論ってものだよ」
僕がそう言った時、突然ラインがやって来た。
未央奈さんからだ。
《未央奈さん:お疲れ様一樹君。そっちはどう?》
《一樹:お疲れ様です。こっちの事なら問題ないですよ。ヒメも初めてのアメリカに結構楽しんでます》
《未央奈さん:それはよかったわ。ところで上層部の伝言を授かったんだけど……なんか妙なのよね。「君に謝らなければいけない事がある。本当にすまない。もし君が望むなら直接言葉で伝えたい」とか。なんかオドオドというか焦った感じだったわ》
……何で上層部が謝っているんだろう?
ラインも覗いていた雨宮さんも状況が分からないようだ。
「もしかして五十嵐さんの件でしょうか? それを上層部が知ったとか」
確かに上層部に池上君の父親がいて、その池上君がぶん殴られる前の僕を見ていた。
だけど……それで謝るのかな?
この上層部と池上君の父親が同一とも限らないし。
「いや、あれは関係ないはずなんだけど……でもまぁ、理由も聞きづらいし」
《一樹:「わざわざ申し訳ありません。僕は全く気にしていないので」って伝えて下さい》
《未央奈さん:分かったわ。絵麻ちゃんと凛ちゃんの面倒はちゃんと見てるから、こっちの事はあんまり気にしないで。あと飛鳥ちゃんには宿題ちゃんとやるようにって伝えておいて》
《一樹:(「了解!」と言いながら、サムズアップをする怪獣のスタンプ)》
「これでよしっと。どうしたんだろうね、上層部の人」
「さぁ?」
まぁ、その人がどう考えていようが僕の知った事じゃない。
とにかくこの『獣の終着点』。
国防長官から聞いていたよりも想像以上で、僕は内心驚きを隠せない。
写真に収めたいところだけど、さすがにこういう軍事に関するものは撮影禁止となっている。
なので記憶に残りやすいよう、目に焼き付けておかないと。
「……そろそろいいかな、雨宮さん」
「ええ、とても素晴らしい体験になりました。一皮むけた気分です」
雨宮さんは僕からでも分かるくらい、目を輝かせていた。
僕と同じような事を考えていただろうな。
「じゃあ、そろそろ国防長官の家に戻……」
――キイイイイイイイイイイイイイイイイイインン!!!
車に乗ろうとした僕達に、突如として異様な怪音が響き渡る。
まるで、獣の鳴き声みたいな金切り音のようだ。
「何だ?」
思わず僕達は足を止めてしまい、辺りを見回していた。
――すると突然として、足元が揺れ始まる。
アメリカで地震が起こるなんて稀だ。
僕達だけじゃなく、外に出ていた車の運転手を動揺している。
「……逃げて!!」
振動からして、何かが僕達の足元から迫ってくる。
僕は雨宮さんやヒメと共に離れると、元いた地面が爆発にあったかのように吹き飛ぶ。
その時に出てきた落石が、僕達の乗っていた車に激突して爆発炎上。
幸い運転手は寸前に逃げたので、どうにか巻き込まれずに済んだ。
「あれは……」
地面から巨大な影が這い出てきた。
粉塵が徐々に消えると、姿形が把握してくる。
腕の長く、斧のようなトサカを生やしたTレックス型怪獣……バジリスクだ。
――ギイウウウウオオオオオ!!
「
「だろうね」
雨宮さんへと答えている間、バジリスクが『獣の終着点』を見つめていた。
そこから一つ咆哮を上げながら向かおうとしたものの、その頭に爆炎が発生する。
「Fire!! Fire!!」
見張りをしていた軍人達が駆け付け、銃撃を始めたのだ。
彼らの持っている銃器はミスリルに近い性質を持つゆえ、バジリスクの頭部に損傷を与える事が出来ている。
しかし生皮が剥がれ頭骨が見えてもなお、奴が軍人達を殺そうと迫っていった。
――ギュウオオオオオオオ!!
「……ッ、≪龍神の眷属≫」
この際、正体がバレないかと言ってられる場合じゃなかった。
ただし劫火を出したら怪しまれるので、軍人が見ていないところでドレイクを放った。
――グオオオオオオンン!!
ドレイクがバジリスクに激突し、近くの岩場へと転がり込んだ。
岩などが四散する中、ドレイクとバジリスクがまるで相撲するかのように取っ組み合いをする。
そんな時、バジリスクが口から黄色の霧を放った。
おそらく瘴気の類か。
それがドレイクの顔面に直撃したが、僕とリンクしている以上そんなのは効かない。
――グオオオオオオオン!!
――ガアアアア!?
すぐにバジリスクを張り倒すドレイク。
攻撃が効かなかった事に混乱しているのか、バジリスクが目に見えて狼狽えている。
そのまま奴が逃げようとするも、ドレイクが追いかけて頭部と肩を掴んだ。
――ブチイイイイイ!!!
蛮力でバジリスクを紙のように引きちぎった。
バジリスクは黄色い体液や内臓を垂らしながら、ぐったりと事切れた。
「ふう……」
僕はドレイクを消して、息を静かに吐く。
どうにか被害が出なくてよかったよかった。
ただそんな僕をよそに、応戦していた兵士達がひそひそとざわめている。
「雨宮さん、何て言ってるの?」
「『急に現れて急に消えたぞ……』『怪獣を一瞬にして……俺達は夢を見ていたのか』『あれは間違いない、怪獣の幽霊だよきっと』『すげぇよアイツ……』」
「……バレていないっぽいね。よかった」
「む~、わたくしには引っかかりますねー。いくら隠しているとはいえあんまりです!」
「いやいや、これでいいんだって」
僕の秘密が明かされるよりかはマシだよ。
それにしても……まさかこんなタイミングで現れるとは思ってもみなかった。
怪獣側が奇襲してくるなんて前代未聞だ。
そう思っている中、僕はおもむろに『獣の終着点』へと目線を向ける。
すると奥の崖の上に思いがけないものがいて、僕は思わず眉をひそめた。
「人……?」
あれは……人影だろうか。
太陽の逆光で影になっているけど、明らかそれっぽいものが立っている。
それに必然なのかたまたまなのか、こっちを見ているようだ。
「どうしました?」
「あっ、いや……」
雨宮さんに向いてからもう1回見てみると、そこにはもう誰もいなかった。
一体なんなんだ……?
僕は幻覚でも見てたのか?
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