第58話 怪獣殺しとの添い寝
夢を見ている気がする。
僕は中学辺りに行っていた大型プール施設にいて、そのプールの中で絵麻と未央奈さんが楽しそうにはしゃいでいる。
僕はビーチチェアーに座りながら、その微笑ましい姿を眺めていた。
やがて未央奈さんから水をぶっかけられて「こっちに来なさいよ」と言われた。
すぐに向かおうとする僕だけど、絵麻からも尋常じゃない量の水をぶっかけられて、それはもう冷たくて冷たくて……。
「……んん……ん?」
目を覚ますと、煌びやか装飾が施された天井が目に入った。
ここはウィリス国防長官の屋敷の客室だ。
やっぱり僕は夢を見ていたらしく、それにもうとっくに早朝の時間となっている。
昨日、アメリカへの脅威となっていたスタンピードが収束され、平穏が戻りつつあった。
もちろんニュースとかで「米軍の活躍によってスタンピードが収まり~」と報じられ、市民は安堵をしたらしい。
その中に僕達の名前はないけど、これも恒例なのでむしろ安心をした。
そうしたのを確認していたら夜になったので、泥のように眠ったものだ。
……にしても、布団の中に被っているというのにやけに冷たい。
まるで中に水が入っているような……。
「……えっ?」
「スゥ……スゥ……」
何でだ、何で隣にヒメが寝ているんだ……?
あっ、だからこんなにも冷たいんだ。
彼女の体温ってあまりにも低いから。
もしかしてプールの夢を見ていたのも、これが原因とか?
「えっとヒメ、何でここで寝ているの? 起きなよ」
「ん? ふぁわ……一樹様、おはようございまーす」
やっと目を覚ますヒメ。
今は森塚さんが用意したパジャマを着ているけど、それが崩れて色白の胸元が見えてしまっているという。
僕は思わず目を逸らしてしまう。
胸はなさそうだけど……さすがにこれは色んな意味でキツい。
「どうかしましたー?」
「いや……それよりも雨宮さんと一緒に寝ていたんでしょう。どうしてこんなところに?」
「えっとですね、雨宮様と一緒に寝ていたらお腹減りまして。それで外にいたカマキリを食べてから戻ったんですけど、どうも部屋間違えたみたいです」
「しれっととんでもない事を言い出したね、君」
そこはトイレとかじゃないのかい。
でも言われてみれば、トイレに行っているところを見た事がない。
多分、彼女には人間で言う排泄が必要ないんだろう。
「だったら早く部屋戻らないと」
「うーん、ここでいいですー。というか一樹様、温かいです、ぬくぬくします、気持ちいいですー」
「あのね……」
これは参った。
ヒメがいない事に気付いて、すぐに雨宮さんが飛んでくるはず。
――コンコン。
「大都さん、ヒメさんの発信機がそちらを示しています。いますよね?」
ほらっ、もう来た。
ノック音と共に、扉越しから雨宮さんの声が聞こえてくる。
「いるよ。今から外に出すから」
「えー、まだいたいですー。一緒に一樹様と寝たいですー」
「わがまま言わないの。雨宮さんを困らせちゃ駄目だって」
「むー、しょうがないですねー」
渋々ベッドから出て、渋々扉を開けるヒメ。
扉からは、ジト目をした雨宮さんが顔を出していた。
「ヒメさん……分かっているとは思いますが、男と女という区別がありまして……」
「知ってますよー。でも、一樹様と一緒に寝れて結構気持ちよかったです!」
「……大都さん、ヒメさんにしたとかないですよね?」
「ないない」
さすがにそんな勇気なんてない。
すぐに首を振った。
「ならいいですけど……。それで大都さん、例の口添えどうかよろしくお願いします」
「分かってるよ。ただその辺は未央奈さんが話通していると思うんだけど」
「そうでしょうけど……仮にもあの方の手前ですから、かなり勇気がいるんですよ。どうか忘れずに……」
「はいはい」
実は僕達、これから戻ってくるウィリス国防長官に対してお願いがあるのだ。
ヒメが外に出たのを確認した僕は私服に着替えた後、食堂で用意された朝食を皆で完食。
それからほどなくして国防長官が帰ってきたので、僕達は応接室で彼と落ち合いソファーに座った。
「大都君、改めてスタンピードの件を感謝する。シルバースターは改まった場で贈りたいから、それまで我慢してくれるかい?」
「構いません。ただ軍の皆様の前ってのはご勘弁願いたいですが」
「ああ、分かっているとも。それで雨宮君、私に話があるそうだが?」
「え、ええ……。おこがましいのは重々承知していますが、ぜひとも『獣の終着点』の見学をお願いしていただきたく……」
「そういう訳です。僕からもお願いできますか?」
雨宮さんは、努めて冷静にお願いをしている。
しているんだけど、ほんの少し身体が震えているのでかなり緊張しているらしい。
実は未央奈さん直々に宿題を課せられているのだ。
それはズバリ米軍が保有する『獣の終着点』を見学する事。
『獣の終着点』という仰々しい名前から察するように、アメリカ大陸においてもっとも重要な場所とも言える。
未央奈さんが雨宮さんを同行させたのは、そういう米軍の現状を把握させておきたいという考えがあったからなのだ。
「いえ、自分が口で言っても仕方ないのですが、決してこの情報を悪用する事はなくて……」
「分かってるよ。特生対上層部もあの辺の事を知っているし、君が情報を取得してもどうって事はないさ」
「では……」
「ああ、構わない。車だとかなり掛かるからヘリで……」
「いえ、ヒメにアメリカの街を見せたいので車で大丈夫です。いいよねヒメ?」
「もちろんです! 異国の地がどうなっているのか確かめたいですしね!」
アメリカを見れる事に嬉しく思っているのか、ヒメがそれはもう大はしゃぎだ。
よっぽど異国の地を巡るのが楽しみなんだなぁ。
「……ところで国防長官、
「彼女?」
僕はある事を思い出して、その質問を口にした。
雨宮さんが眉をひそめる中、国防長官が首を横に振る。
「いや全く。ただスタンピードに参加した怪獣の何体かが、ハラワタを
国防長官がソファーから立ち上がって、窓の方へと眺めた。
「私達の為に戦ってくれている『親愛なる牙獣』……ぜひともお礼を言いたいのだがなぁ」
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