第55話 怪獣殺しは軍隊を超えている?

 こうしてスタンピードは幕を閉じ、終息へと向かっていった。

 少なくない戦死者を出してしまったものの、何とか街や住民への被害は最小限に留められたという。


『君達のおかげで人的被害が免れた。大都君、本当に感謝してもしきれないよ!』


「いえ、とんでもありません」


 僕達はウィリス国防長官の自宅へと戻り、再びスマホでリモート会話をしていた。


 ここを宿泊場所にしていいと、国防長官に言われている。

 滞在費が浮くというメリットはあるものの、今でも少し申し訳ないと思ってしまったり。


『特に君達が倒したグリフォンやアンタイオス、アレらは暴走した怪獣の中で最も強力な存在だった。掃討されたと聞いて米軍が「一体誰がやったのか」「よほどの化け物部隊がやったに違いない」と驚いていたもんだ』


 米軍は≪怪獣殺し≫の存在を知らないので、そう混乱するのは仕方がない。

 僕の正体を知っているのは国防長官や副長官、一部の直属の部下だけだ。


「なんか僕ってチート部隊に例えられますね」


『当然さ。それだけ君が軍隊を超えているという事だ。畏怖すべき存在とも言えるかもしれない』


「軍隊を超え……盛りすぎでしょうさすがに。そこまで強くないですって」


『いや、そうでなかったのなら、あの堅物のアダム副長官を黙らせる事はなかっただろう。……ともあれ彼の事は申し訳ない。彼には少々強引なところもあってな』


「問題ありません。全く気にしておりませんので」


 ああいうのは散々言われてきたので慣れているし、どうって事はない。

 しても僕が軍隊を超えているとかどうの……国防長官もお世辞が上手いんだから……。


『スタンピードを防げたのはいいが、今回もまた数少ない戦死者が出てしまったな……』


「冥福をお祈りいたします」


『ああ、遺族の方には私から報告しておこう。それとこれほど貢献してくれた君に、何もしないというのも気が引ける。よければ君を我が国におけるVIP待遇にしようと思うんだが』


「いえ、お言葉は嬉しいのですが遠慮しておきます」


 そういうのは興味ないので、僕はすぐに断った。


『いいのかい? これはかなりの褒美なのだが』


「さすがに僕には重すぎますので。強いて言うなら、シルバースター勲章や上乗せした報酬を下されば嬉しいのですが」


『シルバースターはもちろん手配するつもりだ。報酬の件も了解した』


「ありがとうございます」


 僕だって人の子だから、お金に執着しない訳がない。

 逆にVIP待遇とかというのは、現実味が湧かないし実感が持てないのだ。


 ただ何も受け取らないというのはそれはそれで失礼なので、勲章はもらっておこうとは思っている。


『しかし意外だな、もっと大きな褒美を求めても損しないと思うんだが……』


「そういうのが欲しくて、こんな事をしている訳じゃないですしね。僕は妹が平穏に暮らせてたら、それで十分なんです」


『妹さんか、彼女は元気かね?』


「もちろん。今回は身体検査が重なって来れなかったのですが」


『そうか。にしても、たった1人の家族の為にそこまでするとは……君は出来た人間だな』


「そうですかね……でも恐縮です」


 そうへりくだった後、国防長官が難しい顔を浮かべてきた。


『それにしても、スタンピードの原因が未だ不明瞭なのが解せないな。今までは環境変化や飢餓がそうじゃないかと言われていたが、今回はそんな様子すら見当たらなかったのだ』


「温厚なアンタイオスですら動いてましたからね。……ありえない事かもしれないですが、裏で何者かが糸を引いているのではと感じます」


 スタンピードは原因不明の異常現象だ。

 その原因というのに『何者かが暗躍している』という項目があったとしたら……。


『……正直言うと、こればかりは分からないとしか言えん。そんな奴がいて、どうやって怪獣達を操っているのかという疑問が出てくるからな』


「ですよね……申し訳ありません、余計な事を言ってしまいまして」


『いや、構わない。とにかく何故スタンピードが起こったのか調べていくつもりだから、結果が出たら随時報告しよう』


「了解しました」


『では私はこれで。何かあったらすぐ使用人に頼ってくれたまえ』


 リモートを終わらせた後、僕は客室を出て雨宮さん達と合流した。

 国防長官と会話する際、2人を外に出したからだ。


「話は終わりました?」


「うん。ねぇ雨宮さん、僕って軍隊を超えた力持っているように見える?」


「軍隊を!? 誰から聞いたんです!?」


「国防長官」


「国防ちょう……ああ、確かにそれくらいあると言われてもおかしくないですね……今までのスタンピード戦を見れば」


 まさか雨宮さんまで言われるとは……。

 なおヒメはちょこんと首を傾げている。


「雨宮様、その『ぐんたい』を超えているってどういう意味です?」


「それだけ、大都さんの力がとんでもなく強いという意味ですよ」


「そういう事ですか! そんなの、一樹様がお館様の後継者なのですから当然ですよ!」


「ヒメまでも……まぁ、今日は本当にありがとうね。おかげで助かったよ」


「ふおん、一樹様のお手々!? ふにゃ~!」


 ヒメ自身が頭を撫でられると嬉しいというので、そうしておくようにした。

 なんか可愛く見えてきたな、この子。


 頭なでなでを終わらせた後、女性のメイドがやってきた。

 この方も国防長官と同様、日本語が上手いらしい。


「お食事の用意が出来ました。食堂にご案内します」


「ああどうも」


「おお! ご飯!」


 僕達はメイドさんの案内で食堂へと向かった。


 着いてみると、そこにはドラマでしか見ないような高級料理がズラリと並んでいる。

 豚の丸焼きやらロブスターの蒸し焼きやら……正直僕らにはもったいのでは?


「こんなに……何か色々とすみません」


「い、いえ! お客様には丁重なおもてなしをと、ご主人様に言われましたので!」


「それでしたら、お言葉に甘えていただきます。本当にありがとうございます」


「は、はい! どうかごゆりとお楽しみ下さいませ!」


 僕が微笑むと、何故かメイドさんがわたわたとしながら下がってしまった。

 一体どうしたんだろう。何か僕、変だったのかな?


 ……ってしまった。

 外回りを終えてから眼鏡をしていなかった。もしかしてこれが原因だったか?


 すぐに眼鏡をかけようとしたところ、胸ポケットにそれらしきものが入ってなかった。

 ここにないとしたら、部屋に置いてきたかもしれない。


「ちょっとごめん。眼鏡とってくる」


「一樹様、それっていつも目に付けているやつですか?」


「そう」


「でしたら、そのままで大丈夫ですよ!」


 突然ヒメがそんな事を言い出したので、僕は少し戸惑った。


「どうして?」


「どうしてって……その……カ、カッコ……」


「?」


「やっぱ何でもないです! さっ、早くご飯を食べましょう!」


「……うん」


 ヒメは何を言おうとしたんだろう?

 というか雨宮さんが呆れた目で見てくるし……何だろうマジで。


 ともあれヒメが「いただきます!」と言ってから頬張っていくので、僕もあとに続くようにロブスターの味噌を食べた。


 うん、結構いけるなこれ。

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